第43話 ミナ配信
《公式配信》
《告白ダンジョン中層》
《黒瀬ユウマ × 白銀レイナ、シンクロ率急上昇》
公式画面では、花の回廊を進む二人が美しく映っていた。
レイナの横顔。
ユウマが声をかける瞬間。
壁に流れる過去映像は、光の演出に見えるようぼかされている。
《二人の感情が、最奥へ導く》
《シンクロ率 四十九%》
《番組史上最高ペアスキルへ期待》
【エモい】
【最終回感ある】
【黒瀬、ここで告白しろ】
【レイナ様泣きそう?】
共同ハウスの別室で、ミナはその画面を見ていた。
膝の上には配信ノート。
横には保存済みの二十四時間生配信ログ。
手元のタブレットには、公式配信とは別角度の警告表示が残っている。
《ペアスキル波形:不安定化》
《感情誘導素材、挿入中》
《安全経路、再計算》
ミナの指は震えていた。
怖い。
配信を始めれば叩かれる。
負けヒロインが邪魔していると言われる。
数字欲しさだと言われる。
公式の華やかな画面では、ユウマとレイナがいい感じに見えた。
このまま黙っていれば、番組は最高の最終回として流れていく。
でも、今ここで黙れば、数字のために誰かが壊れる番組を、また見ているだけになる。
ミナは深く息を吸った。
《桃瀬ミナ、独自配信開始》
「今、公式が流している映像は、かなり切られています」
コメント欄が、最初の一秒で荒れた。
【は?】
【ミナちゃん何してんの】
【負けヒロインが邪魔してる】
【数字欲しさの便乗やめろ】
【公式に逆らうな】
ミナの指が、一瞬だけ止まった。
同接数は伸びている。
でも、コメントの温度は冷たい。
いつものミナなら、笑ってかわす。かわいく怒る。自分が燃えない形へ流す。
今日は、できなかった。
ミナはノートを開いた。
《出演者を消費しない番組。探索者がちゃんと自分の言葉で話せる場所》
その下には、配信導線、比較画面の見せ方、ログ保存先、コメント固定文まで書いてある。
綺麗事だけではない。
使うために書いた言葉だった。
ミナは固定コメントを打った。
《公式で切られた三秒を見てください》
「黒瀬くんとレイナちゃんは、危険な状態に置かれています」
彼女は、公式画面と二十四時間生配信のログを並べた。
左は公式の花びら演出。
右は、同時刻の警告表示。
《シンクロ率 四十九%》
《ペアスキル波形:不安定化》
《感情反応:急上昇》
《接続負荷、増大》
さらに、ミナは三秒前へ戻した。
公式では、レイナが静かに前を向いているように見える。
二十四時間生配信では、その直前に、レイナの足元から伸びる剣路が三つに割れていた。
公式では、ユウマがレイナに寄り添っているように見える。
実際には、ユウマは中央の太い道を止めていた。
「これは恋リアじゃない。出演者を追い込むショーです」
【言いすぎ】
【でも警告出てるじゃん】
【公式でここ映ってない】
【ミナ、ソース出せ】
【二十四時間勢、確認頼む】
視聴者数は伸びていた。
ミナはその数字を見た。
昔なら、伸びていることだけで安心した。
今は違う。
この数字で、公式の編集を止められるかもしれない。
この数字で、ダンジョンの中にいる二人を、消費されるだけの素材にしないで済むかもしれない。
ミナは、数字を捨てたわけではなかった。
使い方を変えた。
「公式のダイジェストだけ見ている人は、今から二十四時間生配信の該当時刻を見てください。警告表示が切られています。あと、探索者の人は、波形を見て。シンクロ率じゃなくて、波形です」
【探索者だけどこれ危ない】
【波形、右肩上がりじゃなくて裂けてる】
【公式はシンクロ率だけ出してる】
【ミナの画面の方が情報多い】
【負けヒロイン煽りしてたけど謝るわ】
【ミナ推しだけど、今のミナちゃんが一番好き】
【レイナ本命派、ミナに感謝】
【負けヒロインじゃなくて配信者じゃん】
【サヤ推しだけど、全員守ってくれ】
別のコメントが流れ込んだ。
【第三区画から見てる生配信勢です。黒瀬はずっと接続不良を見てました】
【サヤ治癒回の公式、重要な間を切ってる】
【アリス内通回の救護待機表示、公式だと消えてた】
【探索者ガチ勢アカウントがミナ配信引用したぞ】
画面の右側に、検証用の分割窓が増えていく。
《公式配信》
《二十四時間生配信》
《保存ログ》
《警告表示比較》
《コメント抽出時刻》
ミナの声は震えていた。
でも、止まらなかった。
「お願い。盛り上がる前に、見て。二人が本当に何を見せられてるのか」
同時接続数が跳ねた。
探索者ガチ勢の大手アカウント。
過去ログ検証勢。
初回から二十四時間生配信を見ていた視聴者。
それぞれの画面が、ミナの配信へ流れ込んでくる。
《公式配信との矛盾検証タグ、急上昇》
ミナの配信画面に、最初の赤い囲みがついた。
《公式未表示:ペアスキル波形、不安定化》
ミナは、その赤い囲みを消さなかった。




