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ダンジョン攻略恋愛リアリティショーで、最弱の俺が最強女剣士に選ばれて炎上する  作者:


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42/50

第42話 仕組まれた感情

 告白ダンジョンの内部は、礼拝堂に似ていた。


 高い天井。


 白い床。


 壁一面に咲く光の花。


 その花びら一枚一枚に、過去の映像が映っている。


《未公開映像》

《炎上コメント》

《脱落投票結果》

《告白音声》

《感情反応、同期開始》


 足を踏み出すたび、床の下から声が浮かび上がった。


【レイナ様、黒瀬選んだの失敗だろ】


【最強剣士が最弱荷物持ちに足引っ張られてる】


 レイナの眉は動かなかった。


 けれど、剣を握る指だけが少し強くなる。


 次に、壁の花びらが桃色に光った。


「私はたぶん、最初は黒瀬くんを利用してた」


 ミナの声だった。


 続いて、紙の擦れる音。


《黒瀬さんへ》

《私は、黒瀬さんに選ばれなくてもいいです》


 サヤの手紙が、光の文字になって床を流れる。


「私、黒瀬さんのことが、好きなのかもしれません」


 アリスの声。


 その直後に、別のアリスの声が重なる。


「私は、黒瀬さんを落とすために番組に入りました」


 ユウマの足が、一瞬止まった。


 声は本物に似ている。


 けれど、順番が違う。間が削られている。痛かった沈黙だけが、都合よく貼り合わされている。


「黒瀬」


 今度はレンの怒声だった。


「お前が後ろにいると、俺の強さが俺のものじゃなくなる気がした!」


 壁の映像に、第十二隔壁の炎が走る。


 火線の奥で、ノアの声がした。


「久我山さん、恋を撮る顔じゃないよ。人が壊れるの待ってる顔」


 その声もまた、綺麗に加工されていた。


 警告ではなく、演出の一部みたいに。


【黒瀬は誰でも救うふりしてるだけ】

【結局レイナ様を選ぶんだろ】

【サヤちゃん泣かせた】

【アリスも利用されたのに黒瀬だけ被害者?】

【追放された理由分かるわ】


 ユウマの胸元に、黒い線が刺さる。


 心が読めるわけじゃない。


 けれど、この線が何をしているかは分かる。


 感情の名前を決めつけ、順番を並べ替え、本人が認める前に傷口へ押し込んでいる。


 隣で、レイナの足が止まった。


「……聞こえる」


「白銀さん?」


 レイナは奥の壁を見ていた。


 そこには番組映像ではない、暗い通路が映っている。古い攻略記録のようにノイズが混じり、誰かの息が途切れていた。


《白銀、前へ行け》


《大丈夫だろ、お前なら》


《なんで止まった》


《置いていくな》


 声は、レイナへ向いていた。


 本当に過去の記録なのか、合成なのか、ユウマには分からない。


 ただ、レイナの剣路が震えた。


 最後の一歩の手前で、線が細くなる。


 同時に、床の花びらが組み替わった。


 三本の道が現れる。


 一つは、中央の告白ステージへまっすぐ伸びる太い白い道。


 一つは、壁際を遠回りする細い道。


 もう一つは、過去映像の壁へ向かう暗い道。


《感情反応:上昇》

《最短告白ルート、生成》

《シンクロ率強制上昇、準備》

《ペアスキル波形、固定処理開始》


 ユウマには見えていた。


 太い道は、光っている。


 シンクロ率も上がる。


 けれど、その下を走る黒い線が、レイナの剣路を引き裂いている。


「白銀さん、中央は駄目です」


「最短よ」


「だから駄目です。中央を踏んだら、数値は上がります。でも、白銀さんの最後の一歩が消える」


 レイナの目が、ほんの少しだけ細くなる。


 中央の道から、拍手の音が聞こえた。


【行け】

【そこで本音言え】

【レイナ様、泣いていいよ】


 暗い道からは、仲間の声がした。


《置いていくな》


 レイナの足が、一歩だけ暗い道へ向きかける。


 ユウマの足元にも映像が開いた。


《Sランクパーティーを追放された》

《最弱荷物持ち》

《戦闘中、後ろで見てるだけですよ》


 全部が、最悪の角度で並べられていた。


《シンクロ率 四十九%》

《感情反応:急上昇》

《ペアスキル波形:不安定化》


【上がった!】

【やっぱ告白ダンジョンすごい】

【四十九%ならいける】

【いや不安定化してる】

【ガチ勢だけどこれまずい】

【数値じゃない、波形を見ろ】


 ユウマの視界で、《一歩先の剣路》の線が揺れた。


 太い道を選べば、番組は喜ぶ。


 だが、レイナの最後の一歩が切れる。


「今は、上げないでください」


 ユウマは言った。


「細い方です」


「逃げ道に見えるわ」


「逃げ道じゃありません。二人で歩ける線です」


 レイナは中央の白い道を見た。


 暗い壁を見た。


 それから、細い道を見た。


「あなたが見る線は、不便ね」


「はい」


「でも、今はその不便な方が信用できる」


 レイナが剣を抜いた。


 中央の道から伸びた白い蔦が、二人の足首へ絡みつこうとする。触れた床が白く固まり、測定円の模様が足元へ広がった。


《最短告白ルート接続》

《シンクロ率強制上昇》

《接続解除不能まで、三秒》


 レイナは踏み込んだ。


 一閃。


 光の蔦が裂け、白い花びらが火花みたいに散った。


 拍手の音が、悲鳴みたいに歪む。


 斬ったはずの蔦の先が、床の下でまだ蠢いていた。


 レイナの手袋の端が裂け、肩口の白い布飾りが一枚、床へ落ちる。ユウマの靴底には、黒い線が焼きついたような焦げ跡が残った。


 それでも、レイナは下がらなかった。


「私は、あの声を消せない」


 レイナは暗い壁を見たまま言った。


「でも、今そこへ戻るために来たんじゃない」


 彼女は細い道へ踏み出した。


「最短じゃなくていい。あなたと同じ速さで行く」


 ユウマも隣に並ぶ。


「これは恋を撮る企画じゃない。人を壊して本音を吐かせる装置だ」


 その瞬間、床の花びらが一斉に赤く光った。


《一歩先の剣路》

《ペアスキル波形:乱れ拡大》

《最短告白ルート、再生成》


 ユウマの視界で、レイナの剣路が初めて大きく揺れた。


 一本だったはずの白い線が、三つに割れる。


 前へ進む線。


 引き返す線。


 そして、誰かの声がする暗い壁へ向かう線だった。


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