第41話 告白ダンジョン開始
《告白ダンジョン》
《開門まで残り十二時間》
その表示は、夜が明けても消えなかった。
十二時間後。
共同ハウスの中央には、白い花で飾られたゲートが立っていた。床には淡い光の花びらが流れ、天井から降りる配信用ドローンにも、小さなリボン状の演出光がまとわりついている。
《最終企画:告白ダンジョン》
《黒瀬ユウマ × 白銀レイナ》
《シンクロ率 三十六%》
《接続:安定》
《ペアスキル波形:一歩先の剣路/安定》
【三十六%?】
【最終回なのに低くない?】
【レイナ様と黒瀬でこれ?】
【地味すぎる】
【告白ゲートかわいい】
【結婚式みたいじゃん】
【いや接続安定見ろ】
【ガチ勢だけど波形きれいすぎる】
【シンクロ率だけ見てる奴は黙って】
公式配信の画面では、ユウマとレイナのこれまでの映像が流れていた。
最初のペア選択。
第三区画の無傷攻略。
第十二隔壁で、ユウマが火壁へ入った瞬間。
レイナが「怖いわ」と言った場面。
それらは綺麗に編集されていた。痛かった声も、迷った沈黙も、花びらと音楽で包まれている。
レイナはゲートの前に立った。
白いドレスではない。いつもの探索者装備だった。けれど肩口には、最終回用の白い布飾りがつけられている。
「似合わない?」
「いえ」
ユウマは首を振った。
「でも、戦いにくそうです」
「そこを見るのね」
「はい」
レイナは少しだけ息を吐く。
笑ったようにも見えた。
ゲートは美しかった。
白いアーチ。光の花。視聴者コメントが細い星のように浮かび、中央には告白用の赤い道が奥へ伸びている。
けれどユウマには、その下が見えていた。
花びらの裏。
白い柱の継ぎ目。
コメント演出の流れる壁面。
そこを、黒い線が走っている。
攻略を助ける線ではない。
レイナの剣路へつながる線でもない。
二人の足元から、胸元へ、喉へ、過去の映像へ、細く食い込もうとする線だった。
赤い道の先には、告白ステージが見える。
だがユウマの目には、その輪郭が測定円に見えた。
ペアを祝福する場所ではない。
感情を固定して、数字に変える場所。
白い花で飾られた、処理台だった。
編集室では、久我山トオルがその画面を見ていた。
巨大モニターには、公式配信、二十四時間生配信、SNS切り抜き予測、感情反応波形が並んでいる。
「感情誘導素材、最終チェック完了」
「未公開音声、同期完了」
「炎上コメント、抽出済みです」
一人のスタッフが、声を落とした。
「あの、久我山さん。本当にこのまま入れるんですか。接続は安定しています。感情誘導をかける必要は――」
久我山は、モニターから目を離さない。
「安全な場所で出る本音なんて、本音じゃない」
怒ってはいなかった。
むしろ、静かだった。
だから余計に、スタッフの顔が強張った。
「でも、前回の試験では接続不安定が出ています。シンクロ率だけが上がると、ペアスキルが――」
「失う寸前の人間だけが、恋を証明できる」
久我山は笑った。
視線の先には、ゲート前のユウマとレイナがいる。
「彼らは選んだ。なら、その選択が本物かどうか、最後まで見せてもらわないと」
ゲート前で、レイナがユウマを見る。
「行くわよ」
「はい」
「怖い?」
ユウマは黒い線を見た。
「怖いです」
レイナは頷いた。
「なら、いいわ」
二人が一歩進むと、白い扉が音もなく開いた。
歓声のような効果音が流れる。
コメント欄が光になって、ゲートの奥へ流れ込む。
《告白ダンジョン、開門》
《最終ペア、入場》
【いけえええ】
【ユウレイ最終回!】
【頼む最高シンクロ出して】
【黒瀬、レイナ様を泣かせるなよ】
【なんか怖い】
白い光の奥から、最初の声が聞こえた。
【アリス降ろせ】
【黒瀬かわいそう】
【レイナ様、見る目ない】
花に飾られた告白ゲートの奥で、過去の炎上コメントが、笑い声のように重なり始めた。




