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ダンジョン攻略恋愛リアリティショーで、最弱の俺が最強女剣士に選ばれて炎上する  作者:


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35/50

第35話 全部、本当

 鉄扉の向こうで、アリスの索敵光が暴れている。


 白い糸は通路の壁を這い、床を裂き、天井の罠印まで伸びた。一本は退避扉へ。一本はユウマの足元へ。一本は、奥の落下床へ。


 ユウマは、線を一本に決めつけるのをやめた。


「神楽さん、誰かに命令されてるだろ」


 扉の向こうで、呼吸が止まった。


 沈黙さえ、カメラは拾っている。


「……はい」


 小さな声だった。


「私は、番組制作側の人間です。出演者として入ったんじゃありません。黒瀬さんを炎上させて、勘違いさせて、最後は脱落させるために入りました」


 コメント欄が崩れた。


【は?】

【内通者!?】

【番組側って何】

【やっぱアリス黒じゃん】

【黒瀬を落とすため?】


 ユウマは怒鳴らなかった。


 足元では床が軋んでいる。霧の奥から、四足獣の爪音が近づく。時間はない。


 それでも、怒りで線を一本にする方が危ないと分かった。


「それで、神楽さんは本当はどうしたいんだ」


「分かりません」


 アリスの声が震えた。


 初めて、綺麗な間が崩れていた。


「命令されたから近づきました。黒瀬さんが欲しい言葉を選べば、数字が動くって分かってました。契約に逆らえば、違約金は保証人にまで行く。だから落とせると思いました」


 黒い線が、落下床へ伸びる。


 床の留め具が、一つ外れた。


 ユウマの足元が沈む。


「黒瀬さん!」


 アリスが叫んだ。


 助けたい声だった。


 それでも、落とすルートは開いていた。


「なのに、怪我を見たら、放っておけなくて。医療キットを置いたのも、計算にできたら楽だったのに、違うんです」


 白い糸が、廊下の棚をなぞるように震えた。


「助けたら駄目なのに、助けたい。騙したら嫌われるのに、騙したい。許されたいのに、許されたら駄目だと思う」


 アリスの声がほどける。


「私は、あなたを騙したい。助けたい。落としたい。嫌われたくない。許されたい。許されたくない。全部、本当なんです」


 枝分かれしていた線が、消えたわけではなかった。


 一本にまとまったわけでもない。


 ただ、それぞれの線に意味が戻った。


 騙したい線。


 助けたい線。


 落としたい線。


 嫌われたくない線。


 許されたい線。


 許されたくない線。


 全部が、アリスから伸びていた。


 ユウマはそれを否定しなかった。


「なら、今どれを選ぶかは、神楽さんが決めてください」


 扉の向こうで、アリスが息を吸った。


 黒いルートが、もう一度だけ光った。


 ユウマを落とす道。


 アリスはそれを見た。


 見て、消した。


 次に開いたのは、一本の白いルートだった。


「右壁の退避扉を開けます。黒瀬さんは奥へ二歩。落下床の手前で止まってください。魔物が跳んだ瞬間、床を沈めます」


「分かりました」


 ユウマは走った。


 四足獣が霧を裂いて壁から飛ぶ。逆向きに折れた脚が天井を蹴り、爪がユウマの肩先をかすめた。


 足元の床石が沈む直前、ユウマはアリスの指示通り二歩で止まった。


 四足獣だけが三歩目の空間へ飛び込む。


 床が抜けた。


 同時に、右壁の退避扉が開く。アリスが通路へ飛び込み、ユウマの腕をつかんだ。


 強い力ではない。


 けれど、自分で選んだ手だった。


《試練突破》

《黒瀬ユウマ × 神楽アリス》

《シンクロ率 五十九%》

《接続:多重安定》

《ペアスキル波形:未成立》


【多重安定って何】

【助かった】

【でも内通者告白したぞ】

【番組どうなってんだよ】

【救護待機って出てたよな?】


 脱出ゲートの白い光の前で、アリスはまだユウマの袖をつかんでいた。


 ユウマはそれを振りほどかなかった。


 けれど、握り返しもしなかった。


 アリスの指が、ゆっくりと離れる。


 ドローンが寄る。


 逃げる場所はいくらでもあった。


 アリスは逃げなかった。


 カメラに向かって、まっすぐ言った。


「私は、黒瀬さんを落とすために番組に入りました」


 リビングの空気が凍った。


 レイナは剣の柄を握ったまま、目を逸らさなかった。


 けれど、その目はアリスではなく、管制室へ向いていた。


「黒瀬は、騙されたんじゃない」


 低い声だった。


「選ばせたのよ」


 ミナはすぐにタブレットを開き、配信ログの保存を始めた。


「これ、アリスちゃんの告白じゃない。番組の自白に切れる」


 サヤは口元を押さえた。


「黒瀬さんも、神楽さんも、怪我してます」


 カイトはモニターを睨む。


「番組側が出演者を混ぜていたのか」


 ガクの拳がソファの肘掛けを鳴らした。


「恋リアじゃねえだろ、それ」


 レンは控室のモニターを見ていた。何かを言いかけ、結局、何も言わなかった。


 コメント欄は崩壊していた。


【番組説明しろ】

【アリス最低】

【いや命令した奴誰だよ】

【黒瀬かわいそうすぎる】

【久我山出てこい】

【ノアが言ってた通りじゃん】

【恋を撮る顔じゃないってこれか】


 管制室で、久我山トオルは笑っていた。


 画面には、炎上ワードが赤く並んでいる。


《内通者》

《神楽アリス》

《黒瀬を落とすため》

《救護待機》

《番組不信》

《久我山説明しろ》


 スタッフの一人が青い顔で振り向く。


「久我山さん、これは中断を――」


「いい。裏切りも恋リアだ」


 久我山は、アリスの震える顔ではなく、伸び続ける同接数を見ていた。


《緊急投票》

《神楽アリスの出演継続可否、視聴者投票へ》


《一番信じたい人》

《一位 黒瀬ユウマ》


《一番許せない人》

《一位 神楽アリス》


《一番説明してほしい人》

《一位 久我山トオル》


 そして、最後の告知が消えずに残る。


《次回》

《最終ペア選択、予定通り実施》


 誰も、その文字を恋の告知として見ていなかった。


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