第33話 ユウマの読み負け
《本日シンクロ測定》
《黒瀬ユウマ × 神楽アリス》
《本音が見えない女》
《人の本音を暴く男》
公式テロップが出た瞬間、ユウマは小さく息を吐いた。
本音を暴く男。
それは違う。
心が読めるわけじゃない。感情の名前が分かるわけでもない。見えるのは、スキル線の断裂、発動条件と動作のズレ、共鳴の乱れだけだ。
けれど番組は、分かりやすい言葉に変える。
分かりやすい言葉は、事実より強い。
測定室には、白い床と円形の計測陣があった。中央に立つと、足元から薄い光が上がる。壁面にはコメント欄と波形が並ぶ。
アリスは隣に立った。
「緊張しますね」
「そう見えません」
「見えるようにした方がよかったですか」
冗談の形をしていた。
けれど、ユウマは笑えなかった。
《測定開始》
《黒瀬ユウマ × 神楽アリス》
足元の円陣が光る。
ユウマの視界で、アリスの線が伸びた。
一本ではない。
ユウマへ。床の計測陣へ。壁際のカメラへ。天井のスピーカーへ。さらに、見えない通信の奥へ。
だが、どれも切れていない。
《シンクロ率 四十六%》
《接続:安定》
《ペアスキル波形:多重反応》
【高くない!?】
【接続安定って出てる】
【恋愛相性じゃないだろこれ】
【多重反応って何】
【黒瀬が困ってる】
数値だけなら悪くない。
むしろ、不自然に高かった。
けれど安心できない。
レイナとの低いシンクロには、白い線の先が見えた。ミナとの営業シンクロには、映える方向へ伸びる線の歪みが見えた。サヤの治癒には、守りたい相手へ細く固定される危うさが見えた。
アリスは違う。
接続不良がない。
破綻もない。
それなのに、どれが本音なのか判別できない。
「黒瀬さん」
アリスがこちらを見る。
「見えていますか」
見えている。
見えすぎるほど見えている。
だから分からない。
「分からない」
自分の声が、測定室に落ちた。
コメント欄の流れが一瞬だけ鈍る。
【黒瀬が分からないって言った】
【初めてじゃない?】
【アリス強い】
【怖い】
アリスは、驚いた顔をしなかった。
少しだけ、寂しそうに笑った。
「黒瀬さんは、誰よりも人を見ているのに、自分が見られることには慣れていないんですね」
その言葉は、まっすぐユウマの胸に入った。
痛いところを言われたからではない。
それが本音なのか、演技なのか、分からなかったからだ。
共同ハウスのモニター前で、レイナは剣を抱いたまま立っていた。
ユウマが「分からない」と言ったことを、責める顔ではない。
ただ、少しだけ痛む顔だった。
選んで、と言った男が、今は別の女の前で立ち止まっている。
レイナは剣を鞘に収めた。
今は斬る場面ではない。
見届ける場面だ。
ミナはタブレットに流れる切り抜き候補を見た。
《黒瀬ユウマ、神楽アリスに敗北》
《自分が見られることに慣れていない男》
《本命レイナ、無言》
「これ、黒瀬くんの敗北じゃなくて、番組が黒瀬くんをそう見せたいだけだよね」
声が低い。
サヤは画面の中のユウマを見ていた。
「黒瀬さん、困ってます」
それだけは分かった。
《次回攻略試練》
《低層・第十三分岐廊》
《推奨:索敵能力者同行》
《黒瀬ユウマ × 神楽アリス》
《高難度選択試練、実施》
アリスの線が、また増えた。
ユウマはそれを見ていた。
見えているのに、読めなかった。




