第3話 第一回ペア選択
《第一回ペア選択》
《女性探索者から、初攻略のペアを指名》
スタジオ中央に、黒いゲートを模した扉が立っていた。
その前で選ばれたペアが並ぶ。恋愛番組らしい演出なのに、扉の表面には小さな警告灯が埋め込まれている。
《初攻略前シンクロ測定あり》
《攻略推奨ライン:三十%以上》
【恋リアなのに注意書きが物騒】
【ここから探索者番組】
【低シンクロはマジで事故る】
ユウマは男性陣の端に立っていた。
最後まで残ることは、始まる前から分かっている。
最初に歩いたのはミナだった。
「私は、カイトくんで!」
カイトが軽く目を見開き、すぐに爽やかに笑う。
「よろしく。ちゃんと守るよ」
「じゃあ、ミナもちゃんと映えるね」
【ミナカイト強い】
【初回人気ペア】
【画面が明るい】
サヤは胸の前で手を握り、何度も視線を揺らしたあと、二階堂の前で止まった。
「あの……二階堂さん、お願いします」
二階堂は柔らかく頷く。
「もちろん。無理はさせません」
サヤの肩から、ほんの少し力が抜けた。
アリスは静かに歩き、リクの前に立った。
「速水さんとなら、緊張しすぎずに行けそうです」
「任せて。俺、緊張してる人の横で一番しゃべれるから」
アリスは綺麗に笑った。近すぎない。遠すぎない。完璧な笑い方だった。
ノアはガクを見上げる。
「堂島くん。壁になって」
「おう!」
「あと、うるさすぎたら黙って」
「注文が明確!」
【ノアガク草】
【壁扱いw】
【でも相性よさそう】
そして、ユウマだけが残った。
当然のように。
【知ってた】
【余り枠】
【荷物持ちだしな】
【レイナどうすんの?】
【カイト取られたの痛すぎ】
残っている女性は、白銀レイナだけ。
だが、誰もその組み合わせを受け止められていなかった。多くの視聴者は、まだ「レイナがカイトを選ばなかった」現実に追いついていない。
レイナが歩き出す。
足音が、妙にはっきり聞こえた。
彼女はカイトを見ない。ミナも、他の誰も見ない。
ただ一直線に、ユウマの前で止まる。
「あなた、私と来て」
スタジオが静まり返った。
ユウマは、数秒前に見たコメントを思い出す。
余り枠。荷物持ち。公開介護。
その全部が、照明の中で自分に貼りついていた。
「……俺でいいんですか」
「いいから言ってる」
レイナの声は冷たくない。余計なものがないだけだった。
番組音声が入る。
「白銀さん、黒瀬さんを選んだ理由をお願いします」
レイナは少しだけ視線を外す。
「一番弱そうだから。余計なことをしなさそう」
【やっぱり介護枠w】
【余計なことしない男、黒瀬】
【黒瀬の顔きつい】
【でもレイナが選んだのは事実】
ユウマは笑われていることを感じた。
慣れているはずだった。
元パーティーでも、後ろで見ているだけだと言われた。配信に映らないから不要だと言われた。見ているだけの男に、価値はないと。
それでも今、彼の目はレイナの足元を見ていた。
レイナの周囲には、剣の線がある。
抜く。踏み込む。斬る。
流れは美しい。けれど、最後の一歩だけが切れる。
怖いのか、迷いなのか、条件の不一致なのか。ユウマには分からない。
見えるのは、切れている場所だけだ。
「後悔した?」
レイナが聞いた。
ユウマは顔を上げる。
選ばれたのは自分なのに、試されているのも自分だった。
「いいえ」
声は思ったよりも低く出た。
「俺を選んだなら、勝たせます」
一瞬、コメント欄が止まる。
【え】
【言った】
【荷物持ちが最強剣士を勝たせる?】
【ちょっと今の良くない?】
【いや無理だろ】
レイナは笑わなかった。
「そう」
それだけ言って、ユウマの隣に立つ。
《初回シンクロ測定》
床に円形の光が浮かぶ。
青い線が、二人の足元から伸びる。つながろうとして、何度も震えた。
《黒瀬ユウマ × 白銀レイナ》
《シンクロ率 十二%》
《攻略推奨ライン:三十%以上》
《ペアスキル接続:不安定》
【低っ】
【相性最悪】
【これで攻略行くの怖い】
【レイナ単独の方が強いだろ】
番組の効果音が、わざとらしく沈む。
その直後。
青い波形の端に、一瞬だけ白いノイズが走った。
数値は変わらない。
十二%のまま。
けれど波形だけが、まるで別の何かに触れたように跳ねる。
大型モニターの警告表示が、一瞬だけ遅れて点滅した。
《解析不能波形》
すぐに消える。
スタッフが小さく言った。
「測定機のノイズか?」
ユウマは、消えた表示を見たまま首を振った。
「故障じゃないです」
声は大きくなかった。
けれど、近くのマイクが拾った。
「白銀さんの線じゃなくて、俺の方に反応してました。さっきも同じです」
スタッフの動きが止まる。
再測定の準備が始まったが、レイナはユウマを見ていた。
【今の何?】
【黒瀬、何か分かってる?】
【解析不能って出なかった?】
【十二%であの跳ね方する?】
再測定でも、数字は低かった。
《シンクロ率 十二%》
《ペアスキル接続:不安定》
だが波形の端だけが、また白く跳ねた。
ユウマの側から、レイナへ伸びるように。
《初回推しペア投票》
画面が切り替わる。
《一位 桃瀬ミナ × 朝倉カイト 四十一%》
《二位 久遠サヤ × 二階堂ユウセイ 二十二%》
《三位 神楽アリス × 速水リク 十六%》
《四位 橘ノア × 堂島ガク 十三%》
《五位 白銀レイナ × 黒瀬ユウマ 八%》
【レイナ様は好きだけど黒瀬が無理】
【事故ペアじゃん】
【でも気になるの悔しい】
【解析不能ペア、ちょっと推す】
同じ頃。
元Sランクパーティーの控室で、ユウマを追放した男が配信画面を見て、鼻で笑った。
「白銀レイナも番組を分かってるな。弱い男を選んだ方が、絵になる」
彼は画面の中のユウマを指で弾く。
「後ろで見てるだけのやつが、最強剣士を勝たせる? 無理だろ」
その声は、配信には乗らない。
けれどユウマは、画面のこちら側で笑われていることを知らないまま、消えた白い波形を見つめていた。




