第28話 ユウマ乱入
攻略ゲートの向こうは、熱で歪んでいた。
第十二隔壁の通路には、赤い火線が何本も走っている。左壁で跳ねた炎が天井をなめ、床に落ちて細い火壁になる。配信用ドローンは高く逃げ、救護班は安全線の手前で止められていた。
《緊急介入》
《黒瀬ユウマ、攻略区域へ進入》
【黒瀬!?】
【来た】
【いや死ぬぞ】
【戦闘力ないだろ】
【でも誰か止めろよ】
ユウマは火壁の切れ目を見た。
熱殻獣は通路中央。レイナは右壁寄り。レンは奥側で炎を構えたまま、退路を半分塞いでいる。
レイナの白い線は、剣先へ伸びようとして途中で震えていた。
怖くない。
そう言うために、呼吸が止まっている。
ユウマは走った。
火線が肩をかすめる。探索者ジャケットの袖が焦げ、熱で皮膚が刺された。
戦える距離ではない。
盾になれる体でもない。
それでも、ユウマはレイナの前、火壁と剣先のあいだへ入った。声が届く距離まで。
「白銀さん、前に出なくていい。俺の声だけ聞いて」
レイナが振り向いた。
剣は下がっていない。
ただ、息だけが乱れていた。
「私は――」
怖くない。
そう続ける形だった。
けれどレイナは、言わなかった。
唇を閉じ、喉だけが小さく動く。
ユウマの視界で、ねじれていた白い線が少しずつほどけた。
「斬らなくていい。半歩、右。火壁の内側に入らない」
レイナの足が動く。
一歩ではない。
半歩だけ。
熱殻獣の角が、さっきまで彼女のいた場所を砕いた。石片が飛ぶ。レイナは火壁と角の間、刃一本分の隙間に立っている。
《ペアスキル波形:再接続》
《未登録スキル反応》
白い円陣が、レイナとユウマの足元に薄く開いた。
《一歩先の剣路》
【一歩先きた!】
【レイユウ復活】
【声だけで戻った】
【レイナ様、怖くないって言わなかった】
【レンレイ派、息してる?】
レンが叫んだ。
「勝手に入ってくるな! 邪魔だ、黒瀬!」
炎が膨らむ。
レンは熱殻獣を押し戻そうとしていた。火力は本物だ。だが、今その炎を撃てば、右壁で跳ね、レイナの足場を潰す。
「獅堂、撃つな!」
「命令するな!」
レンが炎を放とうとする。
熱殻獣の角が赤く光った。
炎に反応して、突進角度を変える線が見えた。
まっすぐレンへ。
ユウマは叫んだ。
「獅堂、右に跳べ! 今だけ俺の指示に従え!」
レンの顔が歪んだ。
屈辱が、炎の揺れに出た。
「ふざけ――」
「死ぬぞ!」
レンの足が、一瞬だけ遅れて動いた。
右へ跳ぶ。
直後、熱殻獣の角がさっきまでレンの胸があった場所を貫いた。
壁が粉砕される。
黒い鉱脈が砕け、火花が雨のように散った。
レンは床に転がり、片膝をつく。
顔から血の気が引いていた。
【今の】
【聞いてなかったら死んでた】
【黒瀬がレンを助けた?】
【追放した男を?】
【レン、指示に従ったよな】
ユウマは次の火線を見た。
壁で二回跳ねた炎が、背後から自分の足元へ戻ってくる。
避けるには遅い。
レイナの剣が、火線の前へ滑り込んだ。
刃の腹が炎を受け、熱を斜め上へ逃がす。
ユウマの頬を熱風がかすめた。
「前に来たなら、死なないで」
レイナは息を乱したまま言った。
【今レイナ様、黒瀬守った?】
【レンレイ攻略なのに絵面がユウレイなんだが】
【これもう答え出てない?】
【いや今は攻略中だろ落ち着け】
【落ち着けるわけないだろ】
ユウマはうなずく。
「はい」
「怖いわ」
レイナは剣を構え直した。
「でも、今は見えてる」
白い線が、まっすぐ前へ伸びた。




