第26話 レンとレイナの派手な攻略
《次回攻略区域:低層・第十二隔壁》
《環境特性:高火力スキル反響区域》
《警告:接続不安定時、ペアスキル波形の暴走リスク上昇》
その表示は、翌朝まで共同ハウスのモニターに残っていた。
ノアの席は空いたままだった。
誰もそこに座らない。
けれど番組は、空席を映さない。攻略ゲート前に照明を置き、ドローンを増やし、赤と白の紙吹雪めいたエフェクトを用意していた。
《公開攻略》
《獅堂レン × 白銀レイナ》
《シンクロ率 五十八%》
《接続:高反応》
《ペアスキル波形:発生予兆》
《最強ペア誕生》
《炎刃のカリスマ × 最強剣士》
【レンレイきたああ】
【数字つっよ】
【黒瀬レイナ初回十二%だったのに】
【これもう完成ペアじゃん】
【レイナ様、今日はちゃんと強い男と組めた】
レイナはレンの隣に立っていた。
ユウマは、少し離れた控室側の通路からそれを見ていた。
昨日、レイナはレンを選んだ。
ユウマは「選ばれたい」と言った。けれど最後まで言い切れなかった。
その結果が、今、画面映えする距離で並んでいる。
「白銀さん、今日は前だけ見てください」
レンがカメラに向かって笑う。
「道は俺が焼きます。あなたは、ただ斬ればいい」
強い言葉だった。
強い男が、強い女に言う言葉だった。
レイナは剣を抜いた。
「問題ないわ」
短い返事。
けれど、剣を握る指が一瞬だけ強くなった。
ユウマはそれを見た。
言えない。
ここで何か言えば、また嫉妬に見える。未練に見える。選ばれなかった男が、選ばれたペアに水を差しているように見える。
攻略ゲートが開いた。
第十二隔壁は、長い石の通路だった。壁面には黒い鉱脈が走り、炎の揺らぎに合わせて赤く光る。床は乾いているのに、熱を吸った金属みたいに鈍く反射していた。
《第十二隔壁》
《火力反響係数:高》
《配信用ドローン、耐熱モードへ移行》
小鬼の群れが左右の窪みから飛び出す。
レンの剣が抜かれた。
炎が、刃の先から弧を描く。
一体目が焼け落ちる。二体目の逃げ道を、レイナの剣が塞ぐ。白い剣閃が喉を裂き、返す刃で三体目の角を落とした。
速い。
派手だった。
レンの炎は画面奥まで伸び、レイナの剣は炎の手前だけを正確に走る。赤と白が交互に走るたび、コメント欄が跳ねた。
【絵が強すぎる】
【これがSランク級】
【レンの火力えぐ】
【レイナ様、炎の中で映える】
【黒瀬の時より番組っぽい】
控室で、ユウマはモニターを見ていた。
ノアの声が、まだ耳に残っている。
次は、見えてるものをちゃんと言いなよ。
レンの炎線は太い。前へ伸びる力は本物だった。魔物を焼く速度も、判断も、番組映えも、作り物ではない。
ただ、根元が軋んでいた。
折れないように固めた線が、炎を出すたびに鳴っている。
レイナの白い線は美しい。
抜く。踏み込む。斬る。
だが踏み込みの直前、白い線がほんのわずかにねじれる。
昔も、似た線を見たことがある。
レンが炎を広げる前、ユウマはいつも荷物の位置を変えていた。後衛の逃げ道を塞がないように。壁の反響から、回復役の足場をずらすために。
けれど画面に映っていたのは、いつもレンの炎だけだった。
「白銀さん、いい動きです」
「あなたもね」
レンは笑う。
「俺についてくればいい」
その直後、レンの炎が右壁をなめた。
黒い鉱脈が遅れて赤く光る。
炎は魔物を焼いたあと、壁で跳ねた。細い火線が床へ落ち、レイナの靴先のすぐ横を走る。
レイナは避けた。
傷はない。
レンも気づいた顔をしない。
【今の反射?】
【火力反響区域でこの出力はちょっと怖い】
【探索者勢また難しいこと言ってる】
【普通に圧勝してるだろ】
【いや壁面反響、味方側に返ってる】
公式テロップが金色で重なる。
《圧巻の連携》
《高シンクロペア、順調に進行》
ユウマは立ち上がりかけて、止まった。
攻略は順調に見える。
数値も高い。
映像も派手だ。
それでも、赤い線と白い線は、触れ合うたびに少しずつ歪んでいた。
次の瞬間、左壁の鉱脈が赤く脈打つ。
レンの炎が一拍遅れて跳ね返り、通路中央を細く裂いた。
レイナの剣先が、ほんの少しだけ乱れる。
ユウマの視界で、赤い線と白い線が交差する直前、嫌な音を立ててねじれた。
危ない。
今のは、偶然戻っただけだ。




