第25話 歪んだ高シンクロ
《攻略前シンクロ測定》
《獅堂レン × 白銀レイナ》
測定円の光は、今までよりも派手だった。
赤と青の粒子が床を走り、二人の足元で絡む。レンの炎紋が薄く浮かび、レイナの剣の鞘が白く反射した。
絵になる。
それだけで、番組の勝ちだった。
《シンクロ率 五十八%》
《接続:高反応》
《ペアスキル波形:発生予兆》
リビングのモニターに、金色のテロップが弾ける。
《最強ペア誕生》
《炎刃のカリスマ × 最強剣士》
【高っ】
【黒瀬レイナ初回十二%だったのに】
【レンレイ強すぎ】
【これは攻略余裕】
【ペアスキル見たい】
【やっぱ強者同士が正義】
レンは笑った。
「悪くない数字ですね」
言葉は抑えている。けれど、カメラに映る肩の角度は勝者のものだった。
レイナは頷く。
「問題ないわ」
その声を聞いた時、ユウマの喉が冷えた。
数値は高い。
接続反応も強い。
だが、線がひどく歪んでいる。
レンの線は、太い。熱い。前へ伸びる。けれどその中心に、何か硬い塊がある。
強い。
折れない。
迷わない。
そういう形に固めるたび、炎の線が太くなる。
でも、太くなるほど、根元は軋む。
レイナの線は、剣先まで美しく伸びている。
踏み込みの直前、白い筋がねじれる。
怖くないと言い聞かせるように、呼吸の間が消えている。
二人の嘘が、同じ高さで噛み合っていた。
高いシンクロ率。
高反応。
発生予兆。
全部が、危険を飾る言葉に見えた。
「白銀さん」
ユウマは声をかけようとした。
けれど、言葉が続かなかった。
選ばれたいと言った。
その後で、逃げた。
今の自分に、止める資格があるのか。
止めたいのは、攻略が危ないからか。
それとも、彼女がレンの隣に立つのが嫌だからか。
自分の線だけが見えない。
《第一回脱落投票》
《最終集計》
突然、モニターが切り替わった。
リビングの空気が一段冷える。
《危険圏》
《橘ノア》
《堂島ガク》
《神楽アリス》
ガクが脇腹を押さえたまま、息を止める。
アリスは静かに微笑んでいる。怖がっているようにも、受け入れているようにも見えない。
ノアは足を組み直した。
「はいはい。どうせ尺の都合で溜めるんでしょ」
テロップが、一拍置いて表示された。
《脱落者》
《橘ノア》
誰もすぐには声を出せなかった。
【ノア落ちた!?】
【正論枠が】
【毒舌きつかったからな】
【でも残ってほしかった】
【ガク生き残ったのはよかったけど】
【アリス残るの怖い】
ガクの線は、短く震えた。
ノアの線は、呆れたように肩をすくめる形で揺れた。
アリスの線だけが、ほとんど動かなかった。
モニターの白い光を受けても、揺れない。
怖がっていないのか。
見えていないのか。
それとも、ここに名前が残ることまで、最初から知っていたのか。
ユウマがもう一度見ると、アリスはいつも通り、静かに微笑んでいた。
ノアは泣かなかった。
怒鳴りもしなかった。
ただ、立ち上がって、リビングを見渡した。
ミナの笑顔は消えている。
サヤは口元を押さえている。
ガクは「悪い」と言いかけて、ノアに睨まれて黙った。
「ガクくんが謝ることじゃないでしょ。生きて残りな」
ノアは軽く言った。
それから、久我山が映るモニターを見た。
黒いスーツ。
穏やかな笑顔。
番組を締めるための、完璧な顔。
「久我山さん、恋を撮る顔じゃないよ。人が壊れるの待ってる顔」
リビングの音が止まった。
コメント欄すら、一瞬だけ流れが鈍った。
久我山は否定しなかった。
穏やかに、ただ笑った。
「橘さんらしい、最後のコメントですね」
「最後にしない方がいいよ。そういう顔、けっこう映ってるから」
ノアは肩をすくめる。
そしてユウマの前で止まった。
「次は、見えてるものをちゃんと言いなよ」
ユウマは、頷けなかった。
頷けば、今まで言えなかったことまで認める気がした。
だから、ただ見た。
ノアは少し笑う。
「そういうとこ」
スタッフが退場ゲートを開ける。
白い廊下の向こうへ、ノアの背中が遠ざかる。
《獅堂レン × 白銀レイナ》
《シンクロ率 五十八%》
《接続:高反応》
《ペアスキル波形:発生予兆》
モニターには、まだ高い数値が残っている。
その前で、レンは強く立ち、レイナは問題ない顔をしていた。
ユウマの視界では、二人の線が美しいほど大きく歪んでいた。
去っていくノアの背中と、最強ペア誕生の金色の文字が、同じ画面の中で重なった。
最後に、次回攻略告知が流れた。
《次回攻略区域:低層・第十二隔壁》
《環境特性:高火力スキル反響区域》
《警告:接続不安定時、ペアスキル波形の暴走リスク上昇》
レンの炎線が、わずかに震えた。
レイナの白い線が、踏み込みの直前でねじれる。
ユウマはそれを見ていた。
見えているのに、まだ何も言えなかった。




