第23話 レン参戦発表
《緊急告知》
《特別ゲスト参戦》
夕方のリビングに、スタジオ用の照明が落ちた。
出演者たちはソファへ集められた。誰も理由を聞かされていない。けれど、ドローンの数だけは明らかに増えていた。
《Sランク級探索者》
《炎刃のカリスマ》
《獅堂レン》
モニターに、赤い戦闘コートの男が映る。
中層の通路を炎が走った。魔物が三体、同時に崩れる。レンは振り返りもせず、次の敵へ剣を向ける。
派手だった。
強かった。
カメラが欲しい絵を、本人が分かっている。炎は顔を隠さない角度で広がり、勝利の瞬間には必ずレンの横顔が残る。
その後ろで、仲間の一人が半歩遅れて足を引いた。
映像上は、ただの勝利場面だ。
けれどユウマには、その半歩が見えた。炎の展開が速すぎて、味方の退避線を削っている。誰かが一拍前に配置をずらしていなければ、巻き込まれていた。
昔、何度も見たズレだった。
そのたび、ユウマは荷物の位置を変え、退路を空け、短く言った。
左、二歩。
それだけで、誰かの足は炎の外へ出た。
【レンきたああ】
【本物のSランク】
【画面強すぎ】
【黒瀬の元リーダー?】
次のテロップで、リビングの空気が変わった。
《黒瀬ユウマを追放した元リーダー》
《獅堂レン、特別参戦》
ユウマの名前が、レンの肩書きにされた。
レイナが一度だけ、ユウマを見る。
ミナは唇を結んだ。
「燃える素材、足してきたね」
ノアが言う。
「番組って、火事場にガソリン持ってくるの上手いよね」
ゲートが開く音がした。
実際のレンが、リビングへ入ってくる。
背が高い。赤いコートの裾に、薄い耐火紋が走っている。腰の剣は装飾ではない。持ち方だけで、普段から使っているのが分かる。
レンはカメラに軽く笑った。
「獅堂レンです。短い間ですが、本気で向き合います」
その一言だけで、コメント欄が跳ねた。
【声いい】
【華あるな】
【やっぱリーダーって感じ】
【黒瀬と並ぶと差がえぐい】
久我山の声が入る。
《特別インタビュー》
《獅堂レンから見た黒瀬ユウマとは?》
レンは少しだけ困ったように笑った。
嫌味に見えない角度だった。
「黒瀬は昔から、人の後ろに隠れるだけの男でした」
音が止まったように感じた。
レンは続ける。
「もちろん、記録係としては優秀でしたよ。荷物管理も、ルート記録も、罠のメモも細かかった。ただ、戦闘の中心に立つタイプじゃない。俺たちが前で戦って、あいつは後ろで見ている。それが昔からの形です」
少し笑う。
「邪魔をしないだけ、まだマシでしたけど」
【やっぱり荷物持ち】
【元リーダーが言うなら本当】
【でも今の言い方きつくない?】
【記録と罠メモって大事では】
【後ろで見てたのは事実だよな】
ユウマは何も言わなかった。
否定できない部分があった。
自分は確かに、後ろで見ていた。
前に出る火力も、守り切る盾もなかった。
だから、見ていた。
カイトが低く言った。
「少なくとも、俺が見た黒瀬の指示は実戦で効いていた」
ドローンが一瞬、カイトを向く。
すぐにモニターへレンの戦闘映像が戻った。
ガクは脇腹に手を当てる。
「後ろにいたから、見えたんじゃねえのか」
小さすぎて、拾われたかどうか分からない声だった。
サヤはユウマに何か言おうとして、唇を開く。
けれど、コメント欄を見て閉じた。
レイナは表情を変えない。
レンの炎の映像にも、肩書きにも、揺れない。
ただ、レンが「後ろで見ている」と言った瞬間だけ、ユウマの方を一度見た。
レンは自然な足取りでユウマへ近づいた。
カメラには笑顔を残したまま、すれ違いざまに声を落とす。
「まだ後ろで人を見てるのか」
昔と同じ声だった。
軽くて、明るくて、その下に小さな苛立ちがある。
ユウマの喉は動かなかった。
言い返す言葉はあったはずなのに、全部、口の手前で止まる。
《特別ゲスト参戦により、次回番組ルールを変更》
《詳細はこのあと発表》
リビングの中心にレンが立ち、端にユウマが立っている。
外から見える黒瀬ユウマ。
一緒に攻略した者が知る黒瀬ユウマ。
その二つが、同じ画面の中でぶつかり始めていた。




