第21話 人気投票の始まり
《特別ルール追加》
《次回から、視聴者投票で最下位の出演者は脱落》
久我山トオルの声が、リビングの天井から降ってきた。
誰もすぐには動けなかった。
恋をしたら強くなる。
嘘の恋なら、死ぬ。
そういう番組のはずだった。
けれど、壁のモニターは次の表示へ切り替わる。
《部門別ランキング、集計開始》
《一番応援したいペア》
《一番守りたい人》
《一番本音が見えない人》
《一番危うい人》
【推しを守れってこと?】
【脱落つき人気投票は怖い】
【票で命運決まるのやば】
速報の効果音が鳴った。
《一番応援したいペア》
《一位 黒瀬ユウマ × 白銀レイナ》
《二位 黒瀬ユウマ × 久遠サヤ》
《三位 桃瀬ミナ × 黒瀬ユウマ》
「黒瀬くん、全方位に火種作ってるね」
ノアが言った。
ユウマは返せなかった。
レイナはモニターを見ている。表情は変わらない。ただ、剣の柄に置かれた指だけが、ほんの少し止まった。
次の表示が出る。
《一番守りたい人》
《一位 久遠サヤ》
《二位 桃瀬ミナ》
《三位 白銀レイナ》
サヤが小さく息をのんだ。
「私……ですか」
昨日まで、守られ治癒職と呼ばれていた。
今は、守りたい人として画面に出ている。
二階堂がすぐに立った。
「久遠さん、こっち座る? 冷えるとよくないよ」
リクも笑って、ソファのクッションを寄せる。
「サヤちゃん、飲み物取る? 温かいやつ」
優しさだった。
たぶん、全部が嘘ではない。
けれどユウマには、サヤへ向かう治癒線の外側に、細い別の線が絡むのが見えた。カメラへ向かう線。ランキング表示へ引かれる線。
サヤは礼を言おうとして、言葉を詰まらせた。
「ありがとうございます。でも……」
サヤは膝の上で手を握った。
「私、助ける側にもなれたと思ったのに」
リビングが静かになる。
ガクが脇腹を押さえたまま、笑った。
「なってるよ。俺が証拠だ」
サヤは顔を上げた。
それから、二階堂が空けたソファではなく、ガクの斜め前の椅子を引いた。
「じゃあ、ここに座ります。堂島さんの顔色、見やすいので」
その一言で、サヤの線は少し広がった。守られる側へ押し戻されかけていた光が、自分の足元から伸び直す。
【サヤちゃん守るだけじゃないの好き】
【守りたい人一位って逆に圧だな】
【二階堂ちょっと票意識してない?】
二階堂の笑顔が、わずかに固まった。
さらに、画面が切り替わる。
《一番本音が見えない人》
《一位 神楽アリス》
《二位 黒瀬ユウマ》
《三位 白銀レイナ》
アリスは穏やかに微笑んだ。
「難しいですね。自分では、隠しているつもりはないんですけど」
声も、間も、困った顔も綺麗だった。
誰も責められない綺麗さ。
ユウマには、その綺麗さが少しだけ怖かった。アリスの線は、誰かへ向かう直前で薄くほどける。切れているのではない。最初から一本に見えない。
【アリス一位わかる】
【清楚なのに何考えてるか分からん】
【逆に人気出るやつ】
最後の表示で、空気が冷えた。
《一番危うい人》
《一位 黒瀬ユウマ》
《二位 橘ノア》
《三位 堂島ガク》
《四位 神楽アリス》
レイナが剣を拭く手を止めた。
ほんの一瞬だった。けれどユウマには、その一瞬が見えた。
《暫定注目度》
《上位:白銀レイナ、桃瀬ミナ、久遠サヤ》
《変動大:黒瀬ユウマ》
《危険圏:橘ノア、堂島ガク、神楽アリス》
ユウマの隣の席だけ、少し空いた。
誰かが意図して離れたわけではない。
けれど、誰も詰めなかった。
ミナは数字を見ていた。
いつものように、どう切り抜かれるかを計算している顔ではなかった。
「数字は嘘つかないと思ってた。でも、嘘の数字はあるんだね」
「嘘の数字?」
リクが聞く。
「誰かを守りたいって数字と、落としたくないって数字と、怖いもの見たさの数字が、同じ場所に足されるんだよ」
ユウマは足元を見る。
出演者たちのスキル線が、互いではなく、壁のモニターへ細く引っ張られている。
座る位置。目線。笑うタイミング。誰の隣に行くか。誰から離れるか。
線はまだ切れていない。
でも、恋でも攻略でもないものが、間に入ってきていた。
《視聴者投票、二十四時間後に第一回集計》
《最下位出演者は脱落》
カメラの赤いランプが、全員の沈黙を拾っている。
リビングはまだ共同ハウスだった。
けれどユウマには、椅子の配置そのものが、投票所のように見えた。




