第16話 公式ダイジェスト炎上
《次回公式ダイジェスト》
《黒瀬ユウマ、桃瀬ミナの好意を「好きなふり」と断言》
《白銀レイナ、沈黙》
《最弱荷物持ちは、またヒロインを傷つけたのか?》
予告が終わった直後から、共同ハウスの空気は変わった。
誰もユウマを責めていない。
けれど、誰もユウマの隣に座らなかった。
翌朝、公式ダイジェスト版が公開された。
《弱い男ほど、女の本音を決めつける?》
《最弱荷物持ち・黒瀬ユウマの“見抜き発言”》
まず流れたのは、レイナの攻略映像だった。
「怖くないって言うたびに、踏み込みの線が切れてる」
その前にあった中型魔物の突進も、レイナの足が止まった瞬間も、ユウマが「分かりません」と言った部分も削られていた。
次に、ミナの炎が広間を包む映像。
「好きなふりでスキルをつなげようとしてる」
ミナが「見られなくなるのが怖い」と言った声は、流れない。
最後に、低層攻略中の短い声。
「地味に勝て」
派手な炎を抑え、幻影を一点に絞るための指示だった。
だが編集では、ミナの笑顔が消えた直後に重ねられていた。
《最弱男の支配ワード》
《“怖い”“好きなふり”“地味に勝て”》
《女性探索者たちは、本当に彼を選んでいるのか?》
【女の子にそれ言う?】
【レイナ様にもミナちゃんにも上から】
【最弱なのに口だけ支配者】
【こういう男が一番怖い】
一方で、二十四時間生配信のコメントは別の速度で荒れていた。
【そこだけ切るな】
【レイナはあの後「怖い」って認めて接続安定した】
【ミナの退路燃えてたの見てないやつ多すぎ】
【地味に勝ては炎を抑える指示だろ】
【探索者勢です。黒瀬の言い方は悪い。でも内容は必要】
擁護も燃料になった。
【信者きも】
【生配信見ろ】
【ダイジェスト勢と生配信勢で見てる番組違う】
リビングの大型モニターに、同じ映像が繰り返される。
ミナは笑おうとして、失敗した。
自分の声が使われていないことより、自分の沈黙だけが便利に使われていることに気づいた顔だった。
「……あー、これは伸びるね」
いつもの軽さには届かなかった。
レイナは何も言わない。
剣も拭いていない。ただ、画面の中のユウマと、ソファの端に座るユウマを見比べていた。
責める沈黙ではない。
どう立てばいいのか分からない沈黙だった。
ノアが腕を組む。
「黒瀬くん、正しいこと言ってるのに、言い方が最悪。そりゃ燃えるよ」
「……そうですね」
ユウマは否定しなかった。
怖くないと言い張るレイナの一番硬い場所を突いた。
営業で笑うミナの、一番隠したい場所を言葉にした。
必要だった。
たぶん、必要だった。
でも、傷つけなかったとは言えない。
別室の個人モニターで、獅堂レンが映像を見ていた。
「ようやく本性が出たな」
低く笑った声は、配信には乗らない。
だが、画面の中のユウマはまた切り取られている。
《急上昇切り抜き》
《黒瀬ユウマ、女性探索者を支配?》
《最弱荷物持ちの“本性”に視聴者騒然》
ユウマはモニターから視線を外した。
見えていることを言うたび、誰かを助けた場面が削られる。
そして、誰かを傷つけた男だけが残る。




