第15話 レイナの嫉妬
《低層ダンジョン・第六区画》
《攻略完了》
《黒瀬ユウマ×桃瀬ミナ》
《シンクロ率 二十九%》
《ペアスキル接続:安定傾向》
《未登録波形:解析保留》
ゲートを出た瞬間、ミナは深く息を吐いた。
「生きてるー」
それから、いつもの笑顔に戻ろうとして、少しだけ失敗した。
ユウマが水を渡すと、ミナは受け取りながら肩を寄せる。カメラにも、リビングの出演者たちにも見える距離。
「営業のつもりだったんだけどな」
声は軽かった。
でも、軽くしきれていなかった。
【ミナちゃん?】
【今の何】
【営業のつもり、ずるい】
【黒瀬、また変なフラグ立ててる】
共同ハウスのソファでは、レイナが剣を手入れしていた。
表情は動かない。
布だけが、同じ場所を何度も往復している。
刃はもう十分に綺麗だった。
ノアが口元を隠して笑う。
ミナも見逃さなかった。
「レイナちゃん、黒瀬くんのこと気になるの?」
レイナは即答した。
「戦力として必要なだけ」
早かった。
早すぎた。
「それ、恋リアだと一番危ない言い方」
ノアが楽しそうに言う。
「事実よ」
「事実なら、なお危ない」
リクが手を上げた。
「はいはい、戦力として必要な人が多いのはいいことです。俺も誰かの戦力になりたい」
ガクが胸を叩く。
「俺は常に壁として必要だぞ」
「恋リアで壁アピールは弱いって」
カイトは苦笑しながら、レイナの剣を見る。
「白銀さん、そのあたりはもう拭けてると思う」
「分かってる」
レイナは布を止めた。
鞘に戻す音が、少しだけ強かった。
壁のモニターでは、レイナとカイトの攻略結果も並んで表示されていた。
《白銀レイナ×朝倉カイト》
《シンクロ率 三十一%》
《接続:安定》
《到達評価:無傷》
《ペアスキル波形:未発生》
《黒瀬ユウマ×桃瀬ミナ》
《シンクロ率 二十九%》
《接続:安定傾向》
《未登録波形:解析保留》
【カイレイ普通に強い】
【でも黒瀬組はまた未登録出てる】
【レイナ様、数字では勝ってるのに布が止まらない】
【レイユウ派とミナユウ派、戦争】
ユウマは、ミナとレイナの間にある空気を見ていた。
ミナの線は、もう昼ほど派手に光っていない。
レイナの線は、剣の根元でわずかに硬くなっている。
感情は分からない。
ただ、どちらも何かに引っかかっていることだけは見えた。
同じ頃、獅堂レンは控室で配信を見ていた。
《黒瀬ユウマ、二回連続で未登録波形》
《元Sランク荷物持ち、実は接続補助型か?》
コメント欄に、探索者ガチ勢の考察が流れた。
【比較出てるぞ。レン班、黒瀬抜けてから平均戦闘時間+二割らしい】
【支援指示遅延も増えてる】
【過去ログ見ると黒瀬、指示細かい】
【荷物持ち扱いしてたの勿体なくない?】
「関係ない」
レンは画面を消そうとした。
けれど指は止まった。
画面の中で、ユウマがミナとレイナの間に立っている。
後ろで見ているだけの男が、今は番組の中心にいた。
その夜。
ミナは一人で配信ノートを開いた。
《同接》
《切り抜き再生》
《コメント傾向》
《炎上リスク》
《黒瀬ユウマ:接続を見る。数字だけ見ない》
ペン先が止まる。
ミナは新しいページを開いた。
誰にも見せないページだった。
《伸びるなら使う》
そこまで書いて、ミナはしばらく手を止めた。
ペンで、その文字に線を引く。
完全には消えない。
黒い線の下に、まだ読める形で残る。
その下に、書き直した。
《探索者を消費しない番組》
書いたあと、ミナはしばらくその文字を見ていた。
カメラの赤いランプは、ノートの中身までは映さない。
ミナがページを閉じた直後、リビングのモニターが自動で点灯した。
《次回公式ダイジェスト》
《黒瀬ユウマ、桃瀬ミナの好意を「好きなふり」と断言》
《白銀レイナ、沈黙》
《最弱荷物持ちは、またヒロインを傷つけたのか?》
【生配信勢:いや、そこだけ切るな】
【全部見てたら逆だぞ】
【公式、また燃やしに来た】
ミナは画面を見た。
そして、さっき閉じたノートを、もう一度だけ指で押さえた。




