第12話 営業デート
《2ショット街デート》
《黒瀬ユウマ×桃瀬ミナ》
《視聴者投票ミッション:相手の“気になるところ”を言う》
店に入る前から、ミナは勝っていた。
白い外壁。大きな窓。午後二時の柔らかい光。屋外席には、小さな花瓶と、番組スポンサーのロゴが入ったドリンクが置かれている。
向かいのビルのガラスには、二人の横顔がちょうど映る。
配信用ドローンは三機。
一機は上から。二機目はミナの横顔。三機目は、ユウマが困った顔をする位置。
ミナは白い肩掛けジャケットの袖を軽く直した。桃色のリボンと蝶のピアスが、動くたびに小さく揺れる。
「この席、いいでしょ」
ミナは椅子に座りながら言った。
「光が柔らかいし、背景に人が入りすぎない。あと、この角度だと、黒瀬くんの顔に影が出ない」
「そこまで見るんですか」
「見るよ。見られる仕事だもん」
【ミナちゃんプロ】
【デートという名の撮影設計】
【スポンサー商品ちゃんと画角に入れてる】
【黒瀬、完全に素材扱いw】
店の外では、通行人が足を止めている。スタッフが撮影ラインを作っているが、視線までは止められない。
ミナは気にしていないように笑った。
気にしていない笑い方を、していた。
《ミッション》
《相手の“気になるところ”を言ってください》
ミナは待ってました、という顔をした。
グラスを両手で持ち、少しだけ身を乗り出す。上目遣い。近い距離。カメラに頬の丸みが一番綺麗に映る角度。
「黒瀬くんって、見れば見るほど気になるんですよね」
《シンクロ率 二十九%》
《上昇》
【上がった!】
【ミナユウありでは?】
【営業でもかわいい】
【レイユウ派、歯を食いしばれ】
ユウマの視界では、青い数値より白い線が目立っていた。
ミナから伸びた線は、まっすぐユウマへ向かう。
けれど触れる直前で、薄くなる。
表面だけが光り、奥が抜ける。
「ずっと数字を見てると、疲れないか」
ミナの笑顔が、半秒だけ止まった。
「え?」
「今も、コメントと画角とスポンサーのロゴを見てる」
「黒瀬くん、怖いなあ。そういうの見えるの?」
「数字は見えてません。視線の戻り方と、肩の向きだけです」
ミナは一度、テーブル端の小型モニターを見た。
《#ミナユウ》
《営業恋愛》
《距離近い》
《黒瀬、また見抜き男?》
その横に、小さく別の表示が出ている。
《案件条件:平均同接一万以上》
《今月平均:九千二百》
《次回契約更新:保留》
ミナはすぐに笑顔を作り直した。
「疲れても、見られてる方がマシだよ」
声は明るい。
明るすぎて、乾いていた。
「見られなくなったら、いないのと同じじゃん?」
ドローンが近づく。
ミナはタイミングを合わせて、ユウマの皿にケーキを一口分だけ分けた。
「はい。黒瀬くん、こういう時は食べさせてもらう顔して」
「難しいです」
「じゃあ困った顔でいいよ。そっちの方が伸びるかも」
【ミナちゃん距離バグ】
【黒瀬、照れないのに逃げもしない】
【営業なの分かってても刺さる】
【今の“見られてる方がマシ”重くない?】
同時配信の別枠では、レイナとカイトの訓練ダイジェストが流れていた。
カイトは完璧に合わせる。
レイナは強い。迷いなく魔物型の訓練人形を斬り、カイトの攻撃にも綺麗につなげる。
《白銀レイナ×朝倉カイト》
《シンクロ率 三十一%》
《接続:安定》
《ペアスキル波形:未発生》
【普通に強い】
【王道ペア感ある】
【でも一歩先は出ないのか】
【強いけど、あの怖いまま前へ出る感じはない】
レイナはモニターの端で、ほんの少しだけ目を伏せた。
公式ダイジェストでは、甘い音楽がついた。
《見れば見るほど気になる》
《人気配信者ミナ、最弱荷物持ちに急接近》
けれど、その夜に出た未公開映像は違った。
スタッフが食器を下げ、ドローンが一機だけ残っていた時。
ミナは伏せたスマホを指で押さえ、小さく呟いていた。
「今の、切り抜かれたら伸びるね。……伸びてほしくないけど」
画面には、まだ数字が流れ続けていた。




