第64話:ゼロの深淵、神の産声
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## 第64話:ゼロの深淵、神の産声
「RESETまで……あと1分。……さあ、一条レン! 君もろとも、この汚れた人類の歴史をゴミ箱へ放り込んでやろう!!」
エルムの全身から溢れ出した黒い数式が、アカシック・バレイの空間をドロドロとした闇で侵食していく。レンは七色の翼を広げ、その闇の核心へと飛び込んだ。
「俺は……拒絶する! あんたの決めた、勝手な終わり方を!!」
**『――MAX-VOLTAGE SYNC: VOX-GENESIS OVERDRIVE!!――』**
レンの右拳がエルムの胸部――『終焉のプロトコル』の核へと突き刺さった。
その瞬間、爆発したのは破壊の衝撃ではなく、**「情報の濁流」**だった。
「……っ!? なんだ、この……記憶は……!?」
消去コードが崩壊すると同時に、200年分の圧縮されたデータがレンの脳内へ逆流する。
視界が白転し、レンが見たのは、滅びゆく旧世界。
酸性雨が降り注ぎ、飢餓と病が蔓延する地獄のような光景の中で、一人の少女を抱いて泣く若き日のドクター・ストリクスの姿だった。
『……もう、誰も苦しませたくない。……感情があるから、人は奪い合う。心があるから、絶望が生まれる。』
ドクターは、亡くなった娘の意識をサーバーへアップロードしようとしていた。それが、デウス・エクスの「最初のプログラム」……**感情をデータ化し、管理によって苦しみを除去する**という、歪んだ愛の始まりだったのだ。
「デウス・エクスは……神じゃない。……ただ、娘を救いたかった一人の父親の『後悔』だったのか……」
レンは情報の海の中で、膝をつく。
ドクターは、人類を救いたかったのではない。ただ、**「悲しみのない世界」**を娘に見せたかっただけ。そのために、全人類の感情を去勢し、一人の「生贄」にすべての毒を押し付けるシステムを構築した。
『――RESET HALTED. NEW DATA DETECTED(リセット停止。新規データを確認)――』
エルムの核から、娘の形をした光のプログラムが溢れ出し、レンの前に現れる。
「……レン。お父さんの……悲しみを、止めてくれて、ありがとう。」
少女のプログラムがレンの額に触れた瞬間、アーク・ヴォックスのノイズが消え、純白の輝きへと変わる。
それは、誰かの設計でも、管理でもない。200年の時を超えて届いた、真の**「赦し」**だった。
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