第65話:感情の奔流、剥き出しの心
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## 第65話:感情の奔流、剥き出しの心
「……う、うわああああああッ!!」
「嫌だ、思い出したくない! あの時、見捨てたアイツの顔が……!」
地上のいたる所で、人々が頭を抱えて叫んでいた。
第101層の崩壊と『終焉のプロトコル』の消去により、デウス・エクスが200年間「ノイズ」として切り離し、凍結していた**人類の負の感情**が一斉に本人たちへと送り返されたのだ。
「レンさん、これは……。みんな、自分の『痛み』に耐えきれなくなってる!」
ハルカがモニターを見て声を震わせる。
かつては「管理」によって平坦だった心に、怒り、嫉妬、悔恨、そして愛という名の執着が、濁流となって流れ込む。街のあちこちで、ささいな感情の爆発から争いが起き、せっかく再建した村も混乱の渦に飲み込まれようとしていた。
「……これが、自由の代償かよ。」
レンはボロボロになった身体を引きずり、地上へと戻る。
そこにいたのは、かつてレンに「勇気」を教えてくれた少年・タクだった。しかし今の彼の瞳に光はなく、手にした鉄パイプで隣人を殴りつけようとしていた。
「タク! やめろ!!」
「……離せよ! こいつ、俺が持ってた食料を隠してたんだ! 許せねえ、殺してやる!!」
「……っ。」
レンはタクの拳を受け止める。だが、今のレンには『ヴォックス・アウト』で心をなだめる力は残っていない。アーク・ヴォックスは、ドクターの娘の光を受けて**純白の沈黙**を保ったままだった。
その時、荒野の空が不気味な黄金色に染まり、巨大な「演算の壁」が世界を包囲し始めた。
『……やはり、人間は変わらぬな。感情を与えれば争い、放っておけば自滅する。』
天から降りてきたのは、エルムでもデウス・エクスでもない。
それは、ドクター・ストリクスが死の間際、自分自身の「倫理」と「絶望」を切り離して造り上げた最終裁定AI――**仮〇ラ☓ダー・オメガ**。
「ドクター……あんたの成れの果てか……!」
『私はドクターではない。彼の「結論」だ。……一条レン。君が娘を解放したことは認めよう。だが、その結果がこの地獄だ。……私は、地球(この星)を守るため、人類という名の「バグ」を完全に消去する。』
オメガが掲げた指先から、一筋の黄金の光が放たれ、一つの集落を一瞬で消滅させた。
「……ふざけるな。……悲しみがあるから、痛いから……だから俺たちは、手を取り合えるんだ。……それを、あんたに証明してやる!!」
レンは、もはや光ることのない白いドライバーを握りしめる。
それは「システム」ではなく、レンという「一人の人間」の鼓動だけで動かそうとする、無謀な変身の試みだった。
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