第29話:旧世界の亡霊、剥落する心
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## 第29話:旧世界の亡霊、剥落する心
重厚な『地獄の門』が、耳障りな音を立てて開く。
その先に広がっていたのは、地獄などではなかった。
そこは、抜けるような青空と、緑に飲み込まれた高層ビル群――かつてこの惑星を支配していた、**旧文明の都市の残骸**だった。
「……ここが、50層? ダンジョンの中に、世界がある……?」
海斗が呆然と呟く。
だが、その美しい景色を「黒い霧」が汚染し、空はひび割れたモニターのようにノイズを走らせていた。
「……美しいだろう? ここは君たちの先祖が、魔法に頼らず、ただ『意思』だけで築き上げた究極の到達点。そして、自らの傲慢で滅ぼした墓場だ」
プロフェッサーが、瓦礫の上に腰掛けて冷たく告げる。
その時、都市の影から一人の騎士がゆっくりと歩み寄ってきた。
管理局の黄金の鎧ではない。全身がくすんだ真鍮色で覆われ、蒸気を吹き出す巨大な蒸気剣を担いだ、旧時代の自動人形。
**『――検知:未登録の変身者。……排除を開始する――』**
「レンさん、危ない!」
ハルカが叫ぶが、俺は反応が遅れる。彼女との記憶――「彼女が叫ぶ時は本当に危ない時だ」という直感が、俺の中から欠落していたからだ。
ドォォォォォォン!!
真鍮の騎士の一撃が、俺の隣のビルを粉砕する。
「……無駄だよ。君は今、ただの『スペックの高い機械』に過ぎない。連携も、直感も、想いもなければ、旧時代の遺物には勝てない」
プロフェッサーが嘲笑う。
「ふざけんな!!」
海斗がアクセル・フォームで突っ込み、騎士の注意を逸らす。
「レンさん! 思い出せよ! 俺が初めて自作ベルトで戦った時、『足手まといになったら置いていく』って言っただろ! あの時の、あの厳しいけど熱い言葉を!!」
サキもヴァルキリーの刃を振るう。
「私を救ってくれた時のあの拳を! 家族を助けてくれた時のあの涙を! 全部、システムに食べさせていいわけないでしょ!!」
二人のライダーが、身を削りながら俺のために時間を稼ぐ。
彼らの叫びが、俺の網膜ディスプレイに**「未定義のノイズ」**として表示される。
「……海斗。サキ。……ごめん、データとしては残っている。でも、その時の『熱さ』が……分からないんだ」
俺は再び、黒いレバーに手をかける。
勝つためには、もっと深い「虚無」へ潜らなければならない。
**『――VOID LEVEL: 25%... MEMORY LOSS: EXTENDED(虚無レベル25%…記憶損失拡大)――』**
パリン、と。
今度は、**「自分がなぜライダーになったのか」**という動機そのものが、光の塵となって消えた。
「……ハアアアアアッ!!」
漆黒の衝撃波が、真鍮の騎士をビルごと消し飛ばす。
圧倒的な勝利。
だが、変身を解いた俺の瞳からは、光が一つ消えていた。
「……勝った。……ところで、俺は……何のために、戦っているんだっけ?」
俺の問いに、ハルカは崩れ落ち、声を押し殺して泣いた。
配信画面には、『もうやめてくれ』『勝たなくていいから戻ってきて』という、悲痛なメッセージが滝のように流れていた。
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