第28話:虚無の鉄槌、忘却の代償
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## 第28話:虚無の鉄槌、忘却の代償
「……変、身……」
その言葉は、もはや人間の発声ではなく、異次元の深淵から漏れ出したノイズのようだった。
俺の全身を、光を拒絶する「絶対的な黒」が包み込む。
白銀でも紅蓮でもない、星すら飲み込むブラックホールのような装甲。**仮〇ラ☓ダーストリクス・ヴォイド**の誕生だ。
「ガ、アアアアアア……ッ!!」
俺がただ一歩、踏み出す。
それだけで、第30層を埋め尽くしていたアビス・モンスターたちが、戦うことすら許されず「存在そのもの」を削り取られ、塵となって消えていく。
「な……何よ、その力……」
ハルカが震える声で呟く。
海斗やサキが苦戦していた巨大な異形が、俺が手をかざすだけで、まるで映像のバグのように空間ごと消失した。
俺の頭の中には、かつてないほどの静寂が広がっている。
怒りも、恐怖も、そして――愛おしさも。すべてが遠のいていく。
**『――VOID LEVEL: 10%... MEMORY LOSS: CONFIRMED(虚無レベル10%…記憶損失:確定)――』**
脳裏で、何かがパチンと弾ける音がした。
「……はあああッ!!」
俺は黒い閃光となり、31層から49層までの障壁を、紙のように引き裂きながら突き進んだ。
わずか数分。
本来なら数ヶ月を要するはずの「深層」までの距離を、俺は力ずくで圧縮してしまった。
そして、第50層――『地獄の門』の前。
俺は変身を解き、膝をついた。
「レンさん! 大丈夫!? 今、すぐ回復を……」
ハルカが駆け寄り、俺の顔を覗き込む。
だが、俺は彼女の顔を見て、首を傾げた。
「……君は、誰だっけ? ……ああ、確か、俺の専属のメカニック……だったかな?」
「……え?」
ハルカの動きが止まる。
「名前は、思い出せるんだ。ハルカ。……でも、君とどこで会って、どんな話をして、どうして俺が君を信頼していたのか……その『感情』が、どこにも見当たらないんだ」
「そんな……嘘……。レンさん、私のこと、忘れちゃったの……?」
ハルカの瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
だが、今の俺には、その涙がどうして流されているのか、論理的には理解できても、心が揺れなかった。
『……おい、嘘だろ?』
『レンがハルカちゃんを忘れた……?』
『ヴォイド・トリガー……なんて呪いだよ、これ……』
配信のコメント欄が絶望に染まる。
最強の力を手に入れ、50層の門に辿り着いた。だが、俺は「自分」を構成する大切なピースを、一つ失ってしまった。
「……ふふ、ハハハハハ!! 素晴らしい! 感情という不確定要素を切り捨ててこそ、システムは完成へと近づく!」
背後でプロフェッサーが歓喜の声を上げる。
「さあ、一条レン。門の向こうにいる『真の敵』を倒しに行こうじゃないか。……君がすべてを忘れる前にね」
俺は空っぽになった胸を抱えたまま、ゆっくりと、巨大な門の取っ手に手をかけた。
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