【8/25】異物混入にどよめく朝八時
炊事・掃除・洗濯という、中カテゴリーのネーミング止まりの誰かがやらねばならぬ「家事」(ちなみに、家事は大カテゴリーである)。
夫婦が婦夫とあってもいいはずなのに、夫が先なのは大黒柱=収入源だからだろうか? かつての男尊女卑的家長制のなごりか。とそんななんちゃってジェンダー討議に一歩も踏み込むつもりはない。
炊事・掃除・洗濯である。
得手不得手はあるものの、テクノロジーがもちまえの不器用さをカバーしてくれる時代である。このなかで、センスと修練と鍛錬と愛情が必要なのは炊事だ。冷蔵庫の中のモノでやりくりするという、一般的ご家庭タスクを背負っているものとしては、毎日の食事を用意するというのはなかなかハードルが高い(僕にとってはね)。
掃除と洗濯は家事の中でも随分と妻に任せてもらっている。掃除は100円均一で専用グッズがごまんとある。専用グッズよりも工夫でと釘を刺されているが、コゲ落としのスポンジやホコリ取り用のゴム手などは購入が許される範囲だ。掃除と洗濯に共通するのは「洗剤」で、洗剤選びはスペックに心を支配・浸食されている男子として超魅力的なご褒美である。
そこまでの信頼を勝ち取るのに、苦節十五年といったところだ。
さて、ひととおり整理すると・炊事=週末と祝日の三食・掃除=週一の玄関/トイレ掃除以外の全て・洗濯=普段の衣類/下着からオシャレ着洗い、毛布やシーツの類など全て
私のタスクであり、業務テリトリーなのだ。こうしている間にもお風呂には洗剤をまき散らし、擦り洗い待ちである。
この、炊事・掃除・洗濯のなかでも、洗濯はなにかと事件が起こる。・色移り・縮む・風で飛ぶ・乾かない(生乾き臭)・片付け間違い(妻の靴下を、息子のタンスになど)
そのなかでも、重大インシデントが先日起こった。
靴下のなかにあるのは、なんじゃろな
である。
朝、四時起き。妻は三十分遅れの、四時半起き。彼女はひとり、寝室で着替えをして洗面所、リビングへと回遊する。寒がりゆえに、靴下は二枚履き。夏でも変わらぬ足もとリックドム仕様である。
朝ごはんを六時に済ませ、洗濯を終わらせる。妻は、出社の準備といったところだ。ひととおり、化粧やらお弁当やら支度を終えて、ぼんやり天気予報を見ている妻。すると
「ねぇ、靴下のなか、ガムの包み紙みたいなの入ってる」「えぇー、洗濯するときちゃんと確認してるけどなぁ」「でも、私の下着とか靴下は、洗濯ネット開けてないでしょ」
妻の下着・靴下といったデリケートアイテムは、彼女管轄で洗濯ネットにぶち込み、それを僕が洗濯機に投入するという流れである。
(何の説明?)
「つまり、干すと取り込むの間に、なにか異物が入ったのかな」と責任の所在を引き受けて、事態の収拾を試みる。「そうかもね」と気もそぞろな妻。
「脱いでみたら、まだ会社時間あるんだし。それに、ずっと気持ち悪いのイヤじゃん」とクレームの実体確認を提案。
問題となっている左足、二枚目靴下を脱ぐ。裏返す。音がする。
音?
「なんか、ガサガサ音がしたよね?」と妻
音がした。たしかにした。でもなんだろう。
ブーン?
何かが、動いている。生命体である。
蜂?
シャイニング!光ってる。
蜂じゃない!
カナブンである。カナブンが出てきたのだ。朝四時半から、朝八時まで靴下の先端でもがき、苦しんでいたのはカナブンであった。水に弾かれた油のように、不規則な照りを放つ背中は、金色と翠色が美しく競い唯一無二のグラデーションとなる。
カナブン
カナブンは愛すべき「益虫」です!
体の色:緑や赤銅色、茶色など、光沢のあるさまざまな色が見られます。見つかる場所:夏の雑木林などで、樹液の出ている木に集まります。好物:クヌギやコナラなどの樹液のほか、熟した果実にもやってきます。特技:体つきのわりに飛翔力があり、木の周りを活発に飛び回ります。幼虫時代:地中で落ち葉などが分解された腐植質を食べながら成長します。見られる季節:成虫が活発になるのは、夏の時期です。
見つかる場所:
夏の雑木林などで、樹液の出ている木に集まります。
↓
ご婦人の靴下のなか
という内容も追加して欲しい
洗濯ローテーションから考えると、約三日間タンスのなかに片づけた靴下内で生息していたのだろう。防虫剤を入れていなかったのが、カナブンの命運を分けた。
ひっくり返って、ジタバタと腹を見せるカナブン。節足動物の腹側は、虫嫌いにとっては悲鳴ものである。
虫嫌いの妻は「ぎぃやぁああああ」と叫び、バックステップで危機を回避。その間、自分の不始末をなかったことにするため、素手でカナブンを掴み、洗濯ものたちでにぎわうベランダに出て、上空へとぐわんと放り投げた。
カナブンは、久々の空に向かってテイクオフ!
「電車とか会社で気づかなくてよかったね」と他責ではなく、現状のポジティブさを掬い、拾い、両手で掲げてみた。
妻からはなぜか「ありがとう」と礼を言われる。随分と錯乱しているのだろう。出社時間が迫る。居候していたカナブンを放り出した、左靴下をはき直し、妻は会社へと向かった。
朝、八時過ぎの出来事である。平和な朝が始まったというわけだ。




