依頼の遂行
顔真っ赤ならぬお目々真っ赤状態のご先祖二体が動き出す。
ご先祖(受付嬢)が一斉に配下を動かして、包囲網を締めあげる。
ユッキーとお塩を守りながら、パサン君を押し返さなければいけないという、中々厳しい戦況。
カッコイイことを言ったけど、ヘキサからの増援が届くまで専守防衛なんだよねー!
『どうしたくちほどにもないどうした』
ちくちくとカスリダメージを与えてくるご先祖が煽って来たので、パリィしてカウンターを入れてやる。
そういう煽りはまともに直撃の一つでも入れてからにしてくれますー?
まあ、じりじりと削られて劣勢なのはこっちの方なんだけど。
でも、救援が来るのは知っている状況で、こっちに気を引くのは常套手段だ。
集団の注意が一方向に固定されればされるほど、それ以外の方向から突き上げられた時の崩れ方は派手になる。
時間はもう十分に稼いだ。
ご先祖(受付嬢)の傀儡兵が十重二十重に並ぶ囲いの外で、咆哮が上がる。
続く衝突音は重く、大きく、止まず、近づいてくる。
おお、強い強い。傀儡兵が空を飛んでおる。
ヘキサが温存していたというだけあってかなりの精鋭部隊のようではないか。
なんか、先頭で大剣をぶん回している強面に見覚えがあるけど。
「マウス、無事か!? お前、この、バカ野郎!」
「ガルム先輩じゃないか。こんなところまで救援に来てくれるとは、ご苦労だな」
「誰のせいでこんな敵中突破していると思ってるんだ、バカ野郎!」
お叱りの言葉と一緒に回復アイテムが投げつけられる。
ガルム先輩の半分は優しさでできている疑惑。もう半分は厳つさかな。
「まあ、丁度いいところに来た。ガルム先輩、ちょっとあの受付嬢のガワを使っている逆恨み野郎をしばき倒してくれ」
「ああん? 受付嬢だぁ?」
戦場に似つかわしくない役職名に、ガルムが怪訝そうに眉をしかめて、マウスの視線の先の受付嬢を見て、子供が見たら泣きそうな顔になった。
「おい。なんだってこんなところにエメラがいるんだ。あいつはちゃんとイデルの墓地に埋葬したんだぞ」
「詳しくは知らん。ただ、今回の騒動の大本である先祖が、子孫の体を借りて復讐の真っ最中っていうみっともない話のようだぞ」
「よくわからんが、気に食わんのはよくわかった」
流石はガルム先輩。
このマウスとコミュニケーションを成し遂げた偉大なるNPCだ。
「話が早くて助かる」
「細かい話は後で聞く。エメラにこれ以上は人を傷つけさせるわけにはいかない」
「オーケー。じゃあ、そっちは任せる。ソルとベアもガルム先輩の援護を」
二人とガルム部隊がいれば、ご先祖(受付嬢)は押し切れるべ。
ガルム先輩と受付嬢は仲良かったみたいだしね。
「さて、俺とユキはあいつだ」
「憎い配役をするねえ」
「あいつからお前のことを頼まれているからな。ご先祖が入っていて、本人の意識とかそういうのがあるかどうかわからんが、まあ、ちょっとくらい見せてやるのが誠意だろ」
男爵令嬢を背中にかばって向き合うと、パサン君はいつかの遺跡で見せた接触ダメージつきのオーラをまとった。
「よし。ユキの攻撃なら接触ダメージもないだろう。攻撃は俺が防ぐから、火力を頼むぞ」
「うん。パサンを身勝手なジジババどもから解放してあげないとね!」
「ジジババって表現すると途端に弱そうだなぁ」
ご先祖って表現よりもこう、ヨボヨボ感が増すね!
しかし、お年寄り扱いされるとキレるタイプのお年寄りだったのか、ご先祖が斬りかかってきた。
ごっめーん、嘘吐いちゃいけませんって言われて育ったので無自覚な言葉の暴力を振るっちゃいましたー!
でも、言葉の暴力を振るわれたからって物理の暴力を振るってくるのはいけないと思います。
曲刀に正論と拳をぶつけて弾き返す。
手応えからして、遺跡のパサン君より単純にステータスが強化されているな。
マウスのステータスが上がっているはずだが、重さを感じた。反動でこちらの体勢も少し崩れる。
接触ダメージも、マウスの増えたステータスに応じてダメージ量が増えている。
ステータスの相対的には、遺跡で戦った時と同じくらいの難易度ってことかな?
それなら楽勝だわ。
なんたって、遺跡では置物と化していたユッキーが、今回は頼もしい戦力として計算できるのだから――信頼の通り、攻撃を弾かれて姿勢を崩したご先祖を、鞭が打ち据える。
マウスごと。
あの、ユッキー、もうちょっとこう、味方を巻きこまないように気を遣って攻撃してくれると嬉しいな。
いいんだけどさ。スキルの効果もあって大してダメージ出ないからいいんだけどさ?
初撃、初撃くらいは狙おう?
『く、くく、くくく』
お、ご先祖にも受けた。スキルのボケとツッコミの特殊効果かなにか?
誤射が炸裂する度に敵が笑う、とか?
『たのしみだいつまでもつかな』
『ねらうぞうしろをねらうぞ』
『まもれるかなだいじなものをまもれるかな』
『たのしみだたのしみだたのしみだ』
スキルの効果じゃなくて、普通に敵の性格の悪さだった。
なんだよ、俺が防御に徹して、一撃でもユッキーにダメージを通すとでも思っているのか。
舐めやがって。
「ユキに指一本でも触れられると思うなよ。完封して吠え面かかせてやるよ」
虚仮にしてニワトリみたいに鳴かせてやるよ。
コケコッコー!ってな具合にぃ――!? あっれ、なんか後ろから誤射が飛んで来たんだけどどうしたのユッキー!?
「やだっ、もう、マウスかっこよすぎぃ! カッコつけたんだからちゃんと守ってよね! えへへ!」
え、なに、よくぞ言ったガハハ背中バンバン的なノリでしばかれたの俺?
ユッキー? 一応、決戦の真っ最中なんだからロールプレイかぶってもらっていい?
愉快なゲーム部員のユッキーは一旦封印してもらって、男爵令嬢ユキになろう?
あんま変わらない気がするけどさ。
ほら、恨み満載のご先祖達も黙っちゃった。
シリアスな怨念をコメディノリに茶化されて残念だったねえ。
いい気味だ。
「もうかかって来て良いぞ。どうせ当たらんだろうが」
『きさまきさまきさま』
ははは、お目々真っ赤!
****
まあ、こっち側に余裕があるのには、それなりの理由がある。
一つ、ご先祖(パサン君)の武器がオーソドックスな剣タイプであること。
一つ、遺跡で戦闘したパサン君と戦闘スタイルが変わっていないこと。
この二点については、ご先祖(受付嬢)と一緒に登場した時からの戦闘で確認済みだ。
ぶっちゃけ、遺跡の時ですらほぼ完封で倒したスタイルのまま、多少のステータス強化だけで再戦を挑まれても、その、困る。
パリィやカウンターは、攻撃の見切りが命。
どこにどのタイミングで攻撃が来るか見切ってしまえば、よほどのステータス差がない限りは打ち勝てる。
パサン君の戦闘スタイルは、遺跡探索の時点で見切ってるんだよなあ……。
ユッキーも、俺が一度対戦した戦闘スタイルに滅法強いことを知っているから、余計な誤射でリアクション芸をする余裕があるんだろう。
そうだよね?
幼馴染だからその辺まで知り尽くしている的なムーブだよね?
後ろのことを気にしながら、曲刀の猛攻を弾いて流して弾いて流して、一歩も引かずに押しとどめる。
気分は人気アイドルに押しかけるファンを押しとどめる壁役だ。
はいはい、下がって下がって、ユッキーが可愛いからサインとか欲しいのはわかるけどダメだよ。
パサンのオーラ効果で接触ダメージは蓄積するものの、攻撃本体のダメージも加算されない限り、焦るほどでもない。
こっちから攻撃しない分、接触ダメージは遺跡対戦時の半分の計算、ますますマウスの防御は盤石になり、ユッキーは安定した火力を吐き出せる。
『なぜだなぜだなぜだ』
宣言通り、ユッキーに指一本触れられずにボコされ、ご先祖が感情バグらせておられる。
残りHPが少ないと非常にわかりやすい慌てよう。
「所詮、借り物の力ってことだろ」
攻撃パターンも特殊能力も一緒。
多分、パサン君が蘇ったんじゃなく、蘇らせられて利用されているっていう、シナリオの演出なんだろう。
新しい技とか、学習結果、成長した結果っていうものがない。
だから、ちょっとステータス強化されたくらいの見慣れた敵になっちゃっている。
すでに見切った攻撃を繰り返すだけじゃ、相手にならん。
「まあ、なんだ。ちゃんと頼まれた通り、お嬢様は守り切ったからな」
お嬢様はノーダメだぞ。
文句のつけようがないだろ。
今度こそ成仏しろよ、パサン君。再登場お疲れ。
「いくよ、パサン! お転婆お嬢様の成長した姿を見よ!」
お世話になったらしい従者に、お嬢様からの愛の鞭が走る。
お転婆お嬢様から成長してなににクラスチェンジしたんだろう。
やっぱり悪役令嬢か?
パサン君、教育失敗の責任を感じてもう一回くらい墓から這い出て来そうだなあ。
そのパサン君の安眠を妨げそうなお嬢様は、胸の前で両手を組んで瞑目している。
「パサン、安らかに眠って。もう台所におやつ狙ってスニーキングしたり家から抜け出そうと走り回ったりするあたしを気にしなくていいからね。南無!」
これ男爵家の使用人はパサン君の復活をお祈りしそう。
南無。
「さて、パサンの弔いは落ち着いてからということにして……これで最終決戦に幕とはならなかったな?」
それじゃあ嫌な予感がするな。
一人、ボスキャラで出てきてないのがいる。
悲しいかな。ゲーマーセンスによって導かれた嫌な予感はよく当たる。
『おのれおのれおのれおのれ』
『どうだこれならどうだこれなら』
『かくだわれらのじゅそのおくのてだ』
『さいきょうのうつわさいきょうのじゅそさいきょうのちから』
ご先祖の声を撒き散らしながら、静々と歩み出でて来たのは、神官服に物騒な鎖分銅を巻きつけた山羊ドクロだ。
まったくもって似合わない。
山羊ドクロの面も、山羊ドクロを模したらしい新しい鎖分銅も、不意打ちもなしで堂々と姿を現したところも、なにもかもが似合わない。
「まったく、同情するぜ、ツィーゲ」
腰に下げておいた鉄槌を引き抜いて、犬歯を剥いて笑う。
「センスの悪い先祖を持ったな」
こんなダサイのに振り回されたんじゃ、お前も窮屈だったろう。
今、粉砕してやるよ。




