己の拳を持つ者
まあ、とにかく、である。
必要なものはそろった。
敵はいる。
マウスは神も認める戦士である。
そこから導かれる結果は、戦闘。
つまりいつも通りってわけだ!
英雄部隊マウスと愉快な一行は、最前線で激闘を繰り広げている。
川を渡って殺到してくる山羊ドクロを千切っては投げ、千切っては投げのエンドレスバトル。
「女神の祝福」のバフ効果のおかげか、HPもスタミナも一定時間で回復するという超無双状態なんだけど、これの勝利条件ってなんだ。
ウォー・シミュやってるヘキサの方で制圧完了するまで戦い続けるのか、これ。
それならそれで、バジリスクくらい歯応えのある敵が欲しいな。
そう思っていると、出てくるんですよね、このゲーム。
そろそろこの状況に飽きてきた? はい、どーん!ってな感じ。
やってくれるぜ、エタソン神。
今回のどーん!は、敵が強くなった。
なんかこう、黒い紐みたいなのが繋がった山羊ドクロの敵が出て来て、そいつらは一回り強くて、連携も良い。
いや、連携は良いというか、前の奴ごと押し潰しに来るみたいな、ゾンビ・アタックだ。
真の戦士マウスのバトルセンスにビンビン来る。
これ一度やられたことあるぞ。プレイヤーとしての俺じゃなくて、このマウスとしてやられたことがある。
「これはあれだな。どこかにあの時の…………あれと同じタイプがいるな」
あれだよ、あれ。
ほら、イデルの冒険者ギルドの、受付嬢の、あの、あれ。
髪を伸ばして冒険者を操ってた、うん、それよ。
受付嬢の名前を忘れたわけじゃないよ。
もうちょっとすれば思い出せる。
でもほら、ちょっと戦闘が忙しくてそれどころじゃないかなって!
「師匠! これイデルの冒険者ギルドの時の!」
「そうだろうな」
ベアちゃんも、あの時と同じやつ、と教えてくれる。
ついでに受付嬢の名前も教えてくれたら助かったのに。でも、ベアちゃんとあの受付嬢、ほとんど接点なかったしね。
ベアちゃんは名前を知らなくてもおかしくない。
「だったら、あの時と同じやり方で! せいや!」
ベアちゃんが、気合を入れて敵を殴りつける。
ベアちゃんの拳にもついた、熊の肉球マークが一際目立って光る。
今から思えば、ベアちゃんは宝珠の女神の力を解放できる王族として、なんらかの女神パワーを使えたんだろうね。
だから、邪神の眷属の……受付嬢の力を消し飛ばせた的な気づき。
ならば、あの時より強く女神パワーをまとった拳で、敵を強化しつつ操っている髪は消え、消え……消えない、ねえ?
「あれ!? え、と、も、もう一発!」
一発と言いながら、連撃をお見舞いしている。
リスク管理ができていて偉い。案の定、もう一発でも結果は変わらず、連撃でHPゲージが尽きてようやく髪は消えた。
「師匠、なんか前のと違う!」
「そのようだ」
受付嬢の強化版か?
冒険者ギルドで戦った時は、ベアちゃんの一発であの伸びた髪が消えていたのに、今回は操られている敵のHPゲージを飛ばさないと消えない。
その代わり、ベアちゃん以外に俺やユッキーの攻撃でも髪が消えるようになっているんだけど、これ普通に敵を倒している状態だ。
そして殺到してくる敵の数が多い。
敵を処理するスピードより、詰め寄ってくるスピードの方が若干早いため、じりじりと後退させられる。
俺とベアちゃんは平気なんだけど、中衛のユッキーと後衛のお塩が囲まれないようにとなると、どうしても下がらざるをえない。
これは操っている敵の本体を早めに見つけないと、面倒なことになりそうだ。
まあ、そうと決めれば難しくない。
髪で繋がってるんだから、本体のところはそりゃもうすごい毛量になっているわけだ。
見た目で表現すると、垂れ幕みたいになってる。
「全員、十時の方角! あそこに向かって一点突破を試みるぞ! ベア、殿!」
「オーケー! それで、十時ってどっち? お箸持つ方?」
「お椀持つ方斜め前だと思います! あ、誰から見てのお椀持つ方斜め前ですか? やっぱりマウス先輩ですよね? じゃあ、大体あっち?」
んん、直感型プレイヤー二人に対して当方不適切な表現をしました。
ごめん!
「こっちの方向、いくぞ!」
腕を振って方向を指示し直す。
今回のプレイであんまり使わなかった突進系スキルで敵中突破を図る。こういうのは止まらないのが大事だ。
受付嬢はベアちゃんのワンパンで沈んだんだから、辿り着きさえすれば今回もワンパン、強化されていてもツーパンくらいじゃろ。
そういう想定で敵の群れに突っ込み、掻き分け、押し退けた先で見つけたのは、受付嬢と同じタイプの敵、ではなかった。
受付嬢そのものだった。
表情は山羊ドクロの面で見えないものの、体格や髪型が一致するし、ギルドの制服もそのままだ。
しまった。これはかつて倒したボスキャラの上位互換戦ではない。
かつてのボスキャラの強化復活戦だ。
だとすれば、マウス達が対峙したボスは、受付嬢一人ではない。
受付嬢の背後から、待ち構えていた敵手が飛び上がる。
上空から繰り出される一撃を、俺は知っている。
全体重を乗せた縦斬り。
遺跡で会った時も、お前の初手はそれだったよなあ、パサン!
落ちてくる曲刀に対し、横から手刀を叩きつける。
前より速い、差し込まれた。曲刀を弾いた代わりに、手刀も弾かれる。
パリィならず、相殺判定でノックバックさせられた。
足が止まる。
先頭のマウスの足が止まれば、後続のユッキー・お塩・ベアちゃんの足も止められる。
こいつはちょっと判断ミスだ。敵中で孤立しちゃうぜ。
『大佐、ヘキサ大佐。こちらマウス』
『ふむ? 珍しい、戦闘中のマウスからチャットとは……面倒事か?』
『ちょっとミスった。救援を要請する』
『む……。ああ、こちらでも状況が反映された。ふむ、敵の重要部隊と接敵か。派遣可能な部隊は……ああ、なるべく損耗を減らせと言われていた部隊だ、このための条件だったか。こちらの増援が想定されている辺り、ミスというほどでもないだろう。増援が届くまで倒れたらマウスのミスだが』
優しさと厳しさを同時に投入されてしまった。
内心で肩をすくめながら、久しぶりに会うパサンと……受付嬢に声をかける。
「まさかこんなところで会うとは思わなかった。なんだ、墓場が暇で遊びに来たのか?」
再会に感涙するほど近い仲じゃないが、知らないほど遠い仲でもない。
パサン君からはなんかユッキーのことをよろしく頼まれたし、受付嬢はなんだかんだでリアクションが面白かった。
再登場おめでとう記念に、会話スキップをしない程度の親しみはある。
ユッキーもパサン君と話したいだろうしね。
今回のマウスは、最初にエタソン神に誓った通り、会話の意思を持って帰って来たエクスマウスだからね!
『おの、おのれおのれじゃまものめ』
『じゃまものめわれらのひがんをはばむじゃまものめ』
パサン君が二種類の声色でなんか喋った。
『おまえがわるいおまえたちがわるい』
『あらがうなわるいのだからあらがうなわるいのだから』
『われらだただしいのはわれらだただしいのは』
受付嬢は三種類の声色でなんか喋った。
喋ってはいるんだけども、話は出来なさそうだ。
これ人格とか知性とか、そういう人間の尊厳的なものが塗りつぶされてる状態じゃないの? ホラーゲームで憑りつかれたキャラによくあるやつ。
後ろをちらっと振り返ると、ベアちゃんとユッキーは顔色が悪い。
ベアちゃんもホラーは嫌いか?
お塩は「この人達ちょっと変ですね?」って不思議そうに首を傾げている。
相変わらず心臓がお強い。
『はいじょするじゃまものめはいじょする』
『かつのはわれわれださいごにかつのはわれわれださいごに』
『はかいするなにもかもはかいする』
『おまえたちがわるいみんなわるいすべてわるい』
あ、パサン君も受付嬢も声の種類が増えた。
しかし、他人への攻撃性と自己正当化ばっかり口にしているな。こういう奴が、はた迷惑な復讐に走りやすいんだよな。
ひょっとしてさー。
この、二人の体を乗っ取ってる感じの声ってさー。
「一族郎党子孫まで、勝手に邪神の生贄に捧げた甘ったれどもか?」
思い当たる節を呟くと、複数の声色がぴたっと黙った。
どうやら当たりのようだ。思わず鼻で笑う。
「はっ、あの二人が気合いを入れて蘇ってきたって言うなら苦戦も覚悟したが、テメエの力で足りないから神様どころか身内にまで借金こさえて、ようやく復讐できるような根性なしか、相手にならんな」
パサン君と受付嬢が、墓を蹴っ倒してのリベンジマッチって言うなら俺も喜んで受けて立ったが、他人の体を使って大昔の八つ当たりかよ。
いくら邪神の力を得たとしても、恐れ慄く気にならん。
要は自力が足りなくて、借り物の力に頼ってるんだから、自力本願の俺としては絶対に負けたくないね。
だって、それ、実力で勝てないからチート使ってるようなもんじゃん。
ゲーマーとして死んでも負けたくない。
実力でも、気持ちでも。
『きさまきさまきさまきさまきさまきさま』
おお、流石は恨み辛みで邪神になにもかもぶん投げてすがりつくメンタル持ち、悪口には敏感なようだ。
ドクロの眼窩で炎がメラメラ燃えておる。
あれ、炎の色が青でも紫でもなく赤だ。
あれかな、ご先祖インストールだと赤色になるのか。
ヘタレの色か。顔真っ赤と同じ意味合いの赤にしか見えない。
『あじわわせてやるきさまにもこのくるしみをあじわわせてやる』
「やってみろよ。粉砕してやるから」
見ろ、この掲げた拳に燦然と輝く熊の肉球マークを!
女神が認める真の戦士の証ぞ?
生贄もなにも捧げず、自分の力で勝ち取った神の祝福ぞ?
負ける気がしないな。
「ほら、子孫から借りた力でかかって来い」
絞り尽くされている子孫に代わって、利息を取り立ててやるよ。




