切り札を握りしめ
ご先祖がドクロ槌を振り回し始める。
ほの暗いオーラを巻きこみながら唸るエフェクトには見覚えがある。
ツィーゲと初めて戦った時、あいつがラストアタックに選んだナントカナントカだ。
そういや、あれは邪神の力を使ったやつだから二回目の戦いで使わなかったんだったっけ。
なるほどねー。
ツィーゲから譲り受けた鉄槌を握る手に力をこめる。使い慣れない武器だが、すでに見切った攻撃ならハンディにもならん。
風をぶち抜いて来る音を鳴らすドクロ槌に向かって、振りかぶった鉄槌を思い切り叩きつける。
「おっらああああ!!」
邪神の力だか、一族の怨念だかが乗っていようが関係ない。
なぜならマウスが叩きつけたのは、そんな雑念を捻じ伏せて、戦闘に明け暮れた戦士の生き様だ。
うざったい怨念を、快音で打ち返す。
灼熱の戦意によって、ジメジメとした憎悪など一瞬で強制乾燥だ。
「ほら、どんどん来いよ。最強のなんちゃらを全部打ち返してやる」
『おのれおのれおのれおのれ』
煽り耐性の低いご先祖は、また感情をバグらせて襲いかかってくる。
ドクロ槌の投擲、投擲、投擲。全部打ち返したら、これじゃ無駄だと悟ったのか、踏みこんで来ての殴打、連打、猛打。
全弾怨念の乗った邪神攻撃だ。
当然、全部打ち返す。
あっはっは、ガッキンゴッキン音が鳴って中々いい音楽じゃないか。
じゃあ、もっとテンポ上げて来いよ。音の質とリズムがあってないぞ。
もっとアップテンポに行こうぜ?
無理? 無理か。無理だよなあ。
所詮、最強と粋がってもその程度だ。
徐々に、音が鈍く濁っていく。
俺が打ち返し損なっているわけじゃない。俺が打ち勝つようになったから快音ではなく、敵にダメージが入るようになったのだ。
乗っ取られパサン君と戦っている時からわかっていた。
ご先祖インストール状態の敵は、ダイブゲームの、システムアシストを強めに受けているプレイヤーと同じ動きになっている。
システムアシストが強く働いた動きと、コマンド入力方式の動きと一緒だ。
動きを指定すると後は操り人形になるので、相手の動きに合わせる対応力に欠ける。フェイントに弱かったり、技と技の合間を突かれたり。
一つ一つの動きは様になっても、動きと動きの連携がまずくなったりする。
そういう隙を把握して使いこなせるなら、自分の動きに割く思考リソースが省略できて、また有利なところもあるんだが、そういう修練や研究を疎かにして、単に強キャラを使っているだけじゃ、ランキング上位には一生届かない。
ご先祖はそういうランキング上位入りができない、アシストに振り回されているプレイヤーだ。
相手の動きに合わせて後出しジャンケンをするカウンター使いには、もう鴨がネギをしょって鍋に味噌を溶いているのと一緒である。
調理の準備までしてもらって悪いね。
せめて鍋の中に突き落とすくらいは俺がしてやるよ。
「いやー、つまらんな」
本音が漏れる。
こんな難易度イージーな敵が最終決戦で出て来られてガッカリだよ。
しかも、見た目だけとはいえ、一番楽しい時間をくれたツィーゲの形をしているのが一層切ない。
へいへい、エタソン神、調整を入れてくれないか。
これじゃあ折角のクライマックスが物足りないぜ。
この際、どこの神でもいいぞ。
なんなら邪神でも良い。
そうだ、そうだ。丁度、今まさに、ツィーゲの体の中に邪神パワーが一杯詰まっているんでしょ。
余計な怨念とかも満載みたいだけど、神の方が上位でしょ。
ちょっとお祈りしてみよう。
「おい、邪神。このままじゃあっさり倒してしまうぞ。もっと力を貸してやったらどうだ」
ほら、あんたあれだ、元々は豊穣と恵みの女神だったんだろう。
力がなくても生きていけるように、自分の眷属の山羊を与えたくらい、弱い者の味方なんだろう。
今まさに、弱いのはツィーゲだ。
可哀想に、戦と狩猟の女神に認められる真の戦士であるこのエクスマウスにボッコボコされている弱い者だ。
「元とはいえ優しい女神様なら、強い戦士マウスに一方的にやられているツィーゲは、救ってやっても良い弱い者じゃないか。助けてやったらどうだ!」
難易度上げて来いよ。
あんたの眷属に加護を与えろ。
深刻かもしれんがカビの生えた憎悪より、くっそ下らんバトルジャンキーの凶暴なわがままの方が叶える甲斐があるだろう。
いつまでも山羊ドクロ面なんてかぶせているんじゃないよ。
ツィーゲ、それ滅茶苦茶嫌がっていたからな。
こんなもの壊れてしまえと、ドクロ面に鉄槌を叩きつける。
音が響いた。
鐘の音にも似た、どこか清浄な音が。
明らかに特殊エフェクトだろう。
これは期待してもいいのか?
見つめる先、ドクロ面に打ち付けた鉄槌に手が伸びて来る。
元々、この鉄槌を振り回していた手だ。
「誰が、弱い者、ですって?」
その声が聞きたかった。
「俺に負けた特注鎖分銅をぶん回していた神官」
「その神官に、どこぞの素手の冒険者は一度完膚ないほど負けていたじゃない?」
「最後に勝ったのはこっちだろ」
「一勝一敗の分際で格下扱いとは、ずいぶんと吹かしてくれるわね」
怒りと笑みが入り混じった声と共に、鉄槌を握った手に力がこめられる。
こっちも力を込め返す。
おお、流石は元々これをぶん回していた持ち主、単純な腕力ステータスはそっちが上か。
いいさ、いいさ。
元々そいつはお前からもらった物だ。必要になったんだったら持って行って構わないとも。
鉄槌をもぎとられ、短剣の方も放り投げて渡す。
復活記念だ、存分に使うと良いさ。
愛用の武器を取り戻した手は、調子を確かめるように手元で鉄槌を弄び、やおら自分のドクロ面に打ち付けた。
他人事の妄執で形作られた仮面は、ただそれだけで粉砕される。
仮面の下から現れるのは、自分本位の戦闘意欲が生み出す凶暴な笑み。
「ああ、すっきりした。まったく、急に目が覚めたらどこぞの戦場のど真ん中? これは一体どういう状況かしら?」
疑問をこっちに投げながら、ついでに鉄槌もぶん投げてくる。
この流れるような奇襲、まさにツィーゲ。
嬉しさを感じるほどのらしさに、思わずパリィにも力が入る。
「丁寧に説明してやってもいいが、いるか?」
「いいえ? 別にそこまで興味ないわ」
即答。
しかも、なんでそんなこと聞くのか、と言わんばかりの不思議そうな口調。
「まあ、決着がついた後に時間があったら、ついでに聞くわ」
その、戦闘以外は興味ありませんという清々しい態度に、思わず笑いが零れる。
「安心した。本物のツィーゲだ」
「ふふ、あなたに会いたくて地獄から舞い戻って来たわ」
戦友が鉄槌を握り、短剣を構える。
「さあ、戦いましょう」
「先手は――」
口にした瞬間、ツィーゲが鉄槌を振りかぶる。
そうそう、そう来なくっちゃなあ!
下手に話しかけられるより、奇襲の方が合わせやすい。
かっ飛んでくる鉄槌を横殴りにパリィする。
「こっちがもらうぞ」
こういう投擲攻撃は、弾くとコントロールが乱れるから隙が大きくなる。
鉄槌が明後日の方向に飛んで行っている間に、踏みこんで距離を潰す。
この対策のために、ツィーゲは鎖分銅の反対側を短剣にしているんだろう。接近に合わせて、刺突を突き出してくる。
――さて、これは中々に面白い状況になったな。
刺突の直前に、ツィーゲが鉄槌に繋がる鎖を引く動きが見えた。
当然、ツィーゲ愛用の武器は、主人の意図に忠実に返ってくるはずだ。
前方の刺突と後方からの鉄槌、コンビネーション。
同時ではなく、ボクシングでいうワン・ツーのタイミングになるだろう。
短剣がワンで、鉄槌がツー。ワンは防御しやすいが、後ろからやってくるツーは防御しづらい。となると回避安定なのだが、俺が避けた鉄槌をツィーゲが受け止めたら、すかさずスリーが襲いかかって来そうなんだよな。
良い攻撃だ。こうなると予測して、初撃をパリィさせたのか。
パリィするのは癖みたいなものだから、まんまと思い通りに動いてしまったなあ。
楽しいなあ!
楽しさに口の端を吊り上げながら、短剣の刺突をごく軽いパリィでそらす。
ツィーゲとばっちり視線が合う。パリィに使った力の強弱から、俺が次に備えて温存していることを察知したのだろう。
どんなご馳走が出てくるか、待ちわびるような笑顔を見せてくれる。
下手な料理を出そうものならぶっ潰してやるという獰猛さがとってもチャーミング。
後ろからの風切り音にタイミングを合わせて、地面を蹴る。
後方宙返りで鉄槌を回避しようって寸法だ。ただ、避けただけだと、鉄槌を受け止めたツィーゲから追撃が来る。
じゃあ、この回避のついでに攻撃を混ぜたらどうだ。こちらはダメージを減らしつつ、相手にダメージを与え、相手の攻撃機会を潰す。
一粒で三度美味しいサマーソルトキックである。塩気が利いてそうだろう。
足先でツィーゲの顎を蹴り上げる手応えを感じて、してやったりで着地する。
直後、胸に硬い物を叩きつけられて吹っ飛ばされた。
ぐっは、大ダメージ!
見れば、ツィーゲがしてやったりの顔で振り切った鉄槌を構え直している。
ここまでツィーゲの想定通りかよ。
こんな綺麗に直撃もらうなんて、完全に一枚読み負けた。
しかも、鉄槌による大打撃でノックバックかつスタンにさせられている。ツィーゲの次の動きの方が速い。
完全に後手に回された。
うーん! うーん!
悔しい! 楽しい!
ツィーゲが鉄槌を振りかぶって、投擲。流石の剛速球だ。
バッターをへし折ってやると言わんばかりの闘志あふれるデッドボールである。バッター役のマウス君、へし折られるわけにはいかないとこれを拳で迎え撃つ。
ファール! いやまあ、パリィで弾くわけだから大体ファールになるわけなんだけど。
ピッチャー返しは初戦時に見せちゃったから、警戒されてピッチャー返ししやすいデッドボールが来ない。
接近する隙があるので接近はできる。
しかし、接近すると相打ち上等戦法でノックバックさせられる。ダメージレースは遠距離で削られる分、こちらが不利。
マジか。王都戦で苦しめられた相打ち上等戦法を発展させたこのマウス対策、ばっちりじゃないか。
武器の射程、武器の威力、武器のノックバック特性、基礎ステータス。
ツィーゲが取るならこの戦術だな、という納得感。
さあ、どう打開する。
自分の手札を考える。王都戦から増えたスキル、重ねた経験。
その中でツィーゲにぶつけて、特に面白そうなものはなにか。
あ、これだな。
思いついた。めちゃくちゃ楽しそうだ。
やってみる価値があるし、やってみたい。
「なにを、思いついたのかしら」
一拍、ツィーゲが間をおいて、言葉を投げて来た。
「わかるか?」
「背中がぞくっとしたわ。面白そうなことを思いついたんじゃない?」
「ああ、面白いことを思いついた。これから見せてやる」
「あら、嬉しい。こちらも、まだ面白いことは考えているわよ」
戦闘再開。
投げつけられる鉄槌を、パリィして踏み出す。
間合いを詰め、吹っ飛ばされてまた詰め直しながら、カチコチと頭の中で必殺武器を組み立てる。
この必殺武器は、一度使ったらそのまま押し込みたいから、チラ見せするようなものじゃない。
切り札は見せ方って大事よ。
どうせならかっこよく見せたいじゃん?
その瞬間を待ちながら殴ったり殴られたりする。
どこに繋がっているか見えない導火線に、火をつけたような感覚。
点火するのはいつなのか。
点火したとして、それは花火なのか、爆弾なのか。
俺もわからないその行く末に、胸が高鳴る。弾けてしまいそうだ。
投擲された鉄槌をアッパーでパリィする。
踏みこんだ先で短剣の刺突が構えられ、鉄槌に繋がる鎖が引かれたのを確認する。
角度、間合い、タイミング。
直感――ああ、導火線の行き着く先はここだ。
組み立てられていた必殺武器が俺の出番だと唸りを上げる。
刺突に対してステップイン。弾くでも受け流すでもなく、右腕の手甲を切っ先に押しつけて防御する。
これまで繰り返し積み上げてきた、ツィーゲが攻めて、マウスが返すリズムが狂う。
ツィーゲのワン・ツーのリズムを、ダメージを代償にワンで止めながら左拳を捻じ込む。
胴体を叩かれ、微弱なノックバックを受けたツィーゲが眉をしかめた顔になる。
ダメージを受けたことを気にしているのではなく、ツーで背中を襲わせる鉄槌をマウスがどう処理するつもりなのか、という困惑の表情。
こうするのだ。
短剣に押しつけた右手を引き戻す。
弓を引き絞るように、体を半身に開くほど引き戻す。引き戻した右手で、そこに突っ込んでくる鉄槌を掴む。
忘れちゃいないか。
この武器は、一度は俺がもらった物だぜ。
まだまだ下手くそだが、一応は振り回して遊んだ。
いくつかスキルも覚えた。自由自在に投げ回すことはできないが、こうやって掴んで振り回すことはできるようになったんだぜ。
ツィーゲが引き寄せた勢いのまま、鉄槌を振り下ろす。
不利なダメージレースをひっくり返す大打撃。マウスが散々されたようにノックバックしたツィーゲが、苦笑を浮かべる。
中々の面白い芸だったろう?
スタンが発生しているツィーゲに、鉄槌を振りかぶって突進する。
「まったく――」
ツィーゲが呟く。
なにを聞かせてくれるんだ。
敗北の受け入れか。逆転の嘲笑か。ああ、楽しい。
鉄槌はこっちの手の中、短剣の迎撃はスタン復帰から間に合うか微妙だろう。
鎖での防御なら挟めそうだが、鉄槌の攻撃力が加算された今、防御しても押し切るぞ。
「切り札まで同じだなんてね」
ツィーゲが、右手を握る。
鉄鎖を巻きこんで作る鉄拳だ。
は? マジかよ。
この復活のツィーゲ、徒手空拳のスキルをインストールしてんの?
鉄槌を持たないツィーゲの右手からの攻撃は、完全に想定外だ。
マウスの手札から、そこへの防御手段は全て捨て去ってしまっていた。
ツィーゲの得物を振り下ろすマウスに、マウスの十八番を振り上げるツィーゲ。
あべこべになったラストアタックは、凸凹が凹凸になった結果、笑ってしまうほど噛み合っていて、互いに致命の一撃を送り合った。
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シナリオ『最終決戦』をクリアしました。
以下のイベントフラグを達成しています。
『いざ最終決戦へ』>『万端の決戦準備』>『全てを決戦へ』
『地獄発決戦場着の馬車』>『未熟者は最終便に乗せられない』>『地獄発決戦場着最終便オン・ザ・ベア号』
『空虚な再会』>『依頼遂行』>『指一本触れさせない』
『空虚な再会』>『妄執の縛鎖』>『妄執を踏み砕いて』
『名声上昇:孤高の冒険者エクスマウス』
『友好度上昇:ツィーゲ、ベアトリクス、ヘキサ騎士団、シシマール伯爵騎士団、第四王女、公爵夫人、冒険者ガルム、森の熊、戦と狩猟の女神、豊穣と恵みの女神』
『隠し情報:〝豊穣と恵みの女神〟』
『特殊行動:〝真なる強者〟神に縋らず、己の力に神を惚れこませた』
『特殊行動:〝心配無用〟男爵令嬢の元従者から託されたものを完璧に守り切った』
『特殊行動:〝弱き者の守護者〟邪神と呼ばれる前の女神の力を呼び覚ました』
『特殊行動:〝宿命の鎖〟対峙した敵同士、そして戦士同士、一つの武器の両端を握り合った』
『特殊行動:〝再戦に乾杯〟二度とはないと思われたその機会に、最高の一撃を、互いにぶつけ合った』
『偉業達成〝ラストアタックにはまだ早い〟宿命の戦いに、未だ決着はつかず』
くっはー! これで一勝一敗一分けかよ!
ほんっと、ほんっっっと、楽しくて悔しくて楽しいなあ!!




