奴のヒロインぢからは53万…
十二月の真っ赤なおじさんの代わりに、孤児院に新鮮なお肉をたくさんプレゼントしておいた。
リアルのプレゼントは無理でも、ゲーム内のプレゼントは俺に任せてくれ!
確保した自分用の肉を食べようとしたら、ユッキーに襟首を掴んで止められた。
「待って。生肉を堂々とかじろうとするのやめて。ここ男爵家だよ?」
「いやこれ俺の主食だし」
ゲームシステムも認定する立派な主食である。
「蛮族どころか野生動物じゃん。人間のカテゴリからも外れるのはちょっとどうかと思うよ。家の料理人に調理させるから、それ食べよう」
「ええ? 生肉を食べると状態異常耐性がつくんだぞ? 有用だろ? ユッキーも生肉を食べて将来的に健康体になろう?」
「あたしは状態異常耐性のつく装備品を作って文明的に健康体になる」
「おかねもちのはっそう!」
「ご令嬢だからね!」
仕方ないので生肉は一つだけにして、残りはユッキーに預けることになった。
男爵家の料理人が調理すれば、それはまあ、美味しそうにお皿に盛られて出て来るんだけど、例によって味わうシステムはないから生肉の方がよくない?
シンプルな皿の上、ソースで彩られたお肉を見つめてから、銀のナイフとフォークを睨む。
知っているぞ。カトラリーって言うんでしょ。
使い方も知っている。ナイフでお肉を切って、フォークで刺すんだ。
礼儀作法に則ったお上品な使い方は知らん。
どうしよう。
顔を上げると、パパ男爵とママ男爵夫人がいて、マウスの隣にはユキ男爵令嬢だ。
お貴族様のディナーに御呼ばれしてしまっているのだ。こういう場での戦いはシシ丸にお任せしたい。
「ふふん、マウス? ナイフとフォークは外側から使って行くんだよ」
知っているのかユッキー!
これは頼もしいサポートキャラを見つけた。
「そうか。こういう食事には縁のない生活をしていたので、教えてくれると助かる」
早速、「サポートよろ」のリクエストを送信しておく。
「任せたまえ! まあ、外食の時とか、先々で役に立つこともあるかもだから、覚えておいて損はないと思うよ。あたしもがんばって覚えた」
それってリアルでも使える作法?
小声で聞いてみると、リアルでも使える作法らしいから、多少の根気を振るって覚えたとのこと。
イタリアンやフレンチで違いがあることもあるらしいけど、カトラリーの使い方、みたいな大雑把な括りでオッケーみたいな作法らしい。
リアルでお上品なレストランに行って練習するのは、お財布と度胸の重厚さがいるし、ゲームでそれっぽい動きを覚えられるならそれに越したことはない。
素直にユッキーに習いつつ、侍女のお姉さんからの補足も受けて、ひたすら「ほうほうなるほどありがとう」と頭を縦に動かすこと赤べこのごとし。
パパ男爵とママ夫人が微笑ましそうにこっちを見て来る。
マナー的なものを叱られないのはいいけど、なんか娘と婚約者が仲良くていいなーみたいな状況になってない?
「ああ、そうだ。マウス君、食事中になんだが、冒険者ギルドのことを伝えておかないと」
「ん? ああ、そういえば今日も冒険者に絡まれたな。完全に俺を悪党と思いこんでいるようだったが、ギルドはどんな感じになっているんだ?」
「うん。ガルムや衛兵にも調べて貰ったのだが、どうもきな臭い」
戦闘イベントの予感がする、肉が焼けるようないい匂いですね。
残念ながら、パパ男爵の感性は別物らしく、悪臭を感じたような顔をしている。
「社交仲間……ようは貴族の友人から聞いた話だと、他の土地でも冒険者ギルドや衛兵団、あるいは騎士団が反乱のようなものを起こしているらしくてね。それを煽っている黒幕がいるんじゃないか、と思うのだ」
「その話を聞くと、どうも黒い山羊ドクロが頭を過ぎるな?」
そういえば、どこかの男爵家にも、執事として黒ドクロの幹部みたいな奴が潜りこんでましたっけね。
これ、あちこちに潜入工作員が入りこんで扇動しているんじゃないかな。
「やはり、そう思うか?」
「連中のやり口……と言っても、知っている例が少ないが、それでも丸きり無関係とは思えないな」
ゲーム的に考えて、第三勢力が突然出て来たとか言われたらシナリオAIのバグを疑うね。
パパ男爵も同意見らしく、顔をしかめながら頷く。
「ご近所に働きかけをする前に、自宅の庭の安全確認をしないといけないわけだな。マウス君、すまないのだが」
「宿代と飯代をタダにするチャンスだな?」
拳を振り回すだけで食べ物と住む場所が保証されるとか最高だと、パパ男爵の依頼を即決で受諾する。
「はいはい! あたしも! あたしも宿代とご飯代を稼ぎたい!」
おっとー、ここでイベントに置いてけぼりされそうだと察知した男爵令嬢が、テーブルを叩いて手を上げたー。
叩かれたテーブルさんがマナー的にアウトだって悲鳴を上げている。
そして、パパ男爵は頭が痛そうである。
「ここはユキの家のはずなんだけどね? ここの宿泊や食事で、ユキからお金を払ってもらったことあったかな?」
「じゃあ、恩返し! 育ててもらったご恩をここでお返しします!」
うーん、パパ男爵とママ夫人の顔色からして、ユッキーが圧倒的に不利である。
序盤の方で、ちゃんと令嬢教育を受けて好感度を上げておけば、もうちょっと旗色がよかったのかもしれない。
あるいは、そんなの最初からぶっちぎって戦闘訓練に明け暮れるとかしていたら、逆に許されたかも……あきらめられたかもしれない。
なんか外出禁止令を言い渡されそうな雰囲気に、マルチプレイ用のマウスとして、できる限りの協力をしておく。
「もし、ユキが現場に来るなら、護衛として全力は尽くす」
「む。うーむ……マウス君がそう言うなら……」
なんか一言だけであっさりオッケーが出ちゃった。
これは俺に対するパパ男爵の好感度が高いせいか? それとも、ユッキーがびっくりするぐらい低いせいなのか。
「やったー! ありがとう、マウスー!」
キラッキラお目々でユッキーが喜んだけど、君のゲームプレイがちょっとだけ不安だよ。
珍しくゲーム内の人付き合いが雑なんじゃない?
じゃあ、いつ冒険者ギルドにカチコミに行くー?ってピクニックの相談をしていると、外が騒がしくなった。
あ、これはイベントが進んじゃいましたね。ゲーム的にお察しする。
以前、ワンパンでぶっ飛ばした執事が、パパ男爵のところまでやって来て耳打ちをする。
ちらちらこっちを見ているのは、なんでだろうな。心当たりは全くない。
いや、嘘だ。執事とは勝負をした仲で、奴は敗者、俺は勝者だ。
ふははは、嫉妬の眼差しは気持ちいいのう!
内心ご満悦でふんぞり返っていたら、事情をアップロードし終えたのか、パパ男爵が俺を見て話し始める。
「マウス君、ベアトリクスという人物を知っているかな?」
「ベア? 俺の知っている奴なら、臨時の弟子みたいなものだ。孤児院の子で、さっきまでユキと一緒に会っていたぞ。それが?」
ここでベアちゃんの名前が出て来るとは予想外だ。お塩はどうした?
ベアちゃんのエスコートはあいつのシナリオだろ。
「うむ。知り合いだったようだな。そのベアトリクス君なんだが、なにやら揉め事に巻きこまれたようで、先程正門に駆けこんで来た。君に会いたい、助けて欲しいということだが」
「臨時でも弟子は弟子だ。助けが必要なら助けるさ」
早速会いに行こう。
立ち上がると、ユッキーも待ってましたと立ち上がる。
「流石はマウス。喧嘩のチャンスは逃さない」
「当たり前だ」
ゲーム内の揉め事は大歓迎だ。
あ、ただしプレイヤー同士の揉め事はやめろ。それは実質リアルのやつだから、ゲームじゃない。
ウォーシミュの盤外駆け引きや、戦闘の挑発合戦みたいなのなら、ゲーム内判定してもいいんだけどね。
執事が案内したのは別室だ。
玄関まで歩かなくて済んでよかった。
「師匠! それにユキ先輩!」
あっれ、ベアちゃんいつの間にユッキーのこと先輩呼びになった。
お塩の呼び方を学習しちゃったか? びっくりしてユッキーを見たら、満更でもなさそうに受け入れていた。
「やあ、ベアちゃん。我が家へようこそ。なんか、揉め事だって? このユキ先輩が家の力を使って解決してあげちゃうぞー!」
「お願いします! ソルを、ソルを助けて!」
可愛い後輩ができて喜んでいたユッキーの表情が固まった。
俺も、覆面の下で表情が固まる。
俺達の心は、この瞬間一つだ。
やっぱりお塩は運命のヒロインなんだ。




