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神々の遊戯盤  作者: ダンヴィル
目まぐるしく変化した日常
16/18

トレイン


 地下水道には一定の間隔で現在地の示されている地図があり、他の地図がどの場所にあるかもご丁寧に印までされているのでルート選択がとてもしやすいのだが、「む……あの道、地図には無かったぞ?」と、イチジクが一度足を止めた事からやはりこの地下水道の危険具合は人為的な何かがあるとより強く実感して脱力感というか、正直いい加減にしろと思った。

 その地図の示すルートによれば私達は現在半分を過ぎたところまで来ていた。

 最初に倒した個体を除き、今までで仕方なく倒したスライムは1体、ルートを変え避けたのが2回、全力で逃げたのが1回と一見遭遇率が高いようにも思えるかもしれないが、この地下水道の出口は海だと言われていて、直線に走る事ができたなら二時間、イチジクの速度なら一時間もかからないけど……逆に言えば馬よりもずっと速く走れるイチジクでそれくらいかかる距離だからもう既に4時間くらいたったのかな?

 ここまでずっと地下水道だし戦闘もしてたから時間の感覚がおかしくなってきている。


「む……この先ちと避けるのが難しそうじゃ。

 作戦通り一番小さそうなスライム狙って強行突破じゃな」


 その知らせから数分し、スライムが目視できる場面にきてレネ考案の魔力消費抑制対スライム戦術を行う。


「ストーンニードル!」


 岩でできた大きいトゲが地面から一本生える。

 本来は敵の足元から複数本生やして串刺しにする魔法で、敵との距離と針の大きさ、形によって魔力消費量がエグい事になるこれまた欠陥部分の多い魔法の1つだ。

 しかし今回は地面に触れながら発動し、その数センチ先から一本だけ伸ばした事によって多少形に拘ったって便利なファイヤーボールの2割程度の魔力消費量に抑えられてあと20本は出せる。


「よっこいしょー!」


 壊しやすいよう根本を細くしたトゲは振るわれたスコップによって簡単に折れ、イチジクの手に収まったトゲは根本数センチ先から必要以上に大きな面積をしている。

 スライムと遭遇する前試しに作っていたのだけど、イチジクはその時「やはりドリルやパイルバンカーは男の子のロマンじゃの」と、私達には少しよくわからない価値観からテンションを上げていて安心した。

 世界によるスキル変動をもろに受けた気持ち悪さを払拭できた様子で本当に良かった。

 イチジクが居ないと私ら絶対ここから出れないし戻る事もできないからなぁ……


「ふっ!」


 ストーンニードルを投擲し的確にスライムのコアへ……しかし予想通りコアへと至る前に止まってしまう。


「遅い!ハァッ!」


 瞬き1つの間に近付きスコップでストーンニードルを叩き、液体内を移動する時間も与えられずコアは今までの苦戦が嘘みたいに簡単に砕けてしまった。


「おぉ。ごり押しも良いところじゃが予想以上に有用じゃな、この戦術」


「まあさっき逃げた固体みたいに通路全部塞ぐサイズは無理だけど」 

 

「あんなのを例に上げるでない。外ならともかくこんな狭いところであのサイズを倒せるようなの使ったら生き埋めになってしまうじゃろうが」


 全力で逃げた一回というのはその大きすぎる個体の事。

 音も無く水の壁がジリジリと迫ってくる光景は生きた心地がしなかった。

 スライムはそのコアの大きさによって操れる水の量が変化し、それだけ大きいサイズとなると大量の犠牲者を消化し取り込んだ事になりこの辺ではユートピアの犠牲者を全く見かけない。

 序盤はけっこうな頻度で遭遇したというのに。


「む?」


「……また?」


 イチジクは何かわからない事があると「む?」とか「ぬ?」とか「ん?」と口にする癖がある。

 ここに入ってから知った癖なんだけど、こんな形で知りたくなかったのが本音だ。


「進行方向でおそらく人対人で戦闘を行っているようなのじゃが、不気味なくらい足音が聞こえん。風を切る音はしておるからおそらく一度の行動で大きく移動しておるか、そもそも地に足を付けずとも曲がったりできるのじゃろ」


「……ごめん、理解が追い付かないんだけどイチジクはそれできる?」


「ここまで徹底してできるかと言われればあやしいかの。

 わらわ飛べないし」


「そう、イチジクは飛べないものね」


 ……今、できないとは否定しなかったけど、あやしいって事はできるってこと?

 魔法使いならできるのも理解できるけど、イチジクってバリバリの近接戦闘特化の戦士だって認識してたけどもしかして違うの?。


「おそらく1人は斧かそれに近い形状の何かを武器にしておる。1人は……逃げることに専念しておるようじゃの。攻撃音が一方的じゃからたぶんそうじゃろ。

 まあ何にしても避けるのが無難じゃろうし遠回りする方向で良いじゃろ?」


「もちろん…ッ!?」


 そう返事したのを見計らったかのように地下水道が揺れ、何処かの道が崩落したかのような物凄い音が遅れて耳へ届く。


「……今のに巻き込まれるのなんて絶対にごめんね」


「うん」


「まったく、休む暇が無いのぅ……」


 今通っていた道を戻り、大きく迂回しながら通る事を選んだ。

 しかし……


「ノエル、レネ……」


「ん?えっ?ちょっと」

「走るぞ!しっかり捕まっておれ!」


 そう呼ぶと尻尾で私達を捕縛し背中にくっつけるようにしたイチジクは両手も使い四足で走り出す。

 走り出すと同時にイチジクの体が淡く光り、体が少し長くなり、白い獣の姿となり物凄い速さで駆け抜ける。


「くっ……やはりこっちに……」


「見つけたァアアアアアアッ!?!?」


 イチジクが背後を確認した時、進行方向に黒いモヤができたと思ったらそこから黄色い服を着た人が現れた。

 しかし流石はイチジクの反射神経と言うべきだろうか、走る勢いそのまま前方へ跳躍、元の人の姿に戻り横に振るわれたハルバードの斧部分は的確に相手の首を狙ってその色と同じ水色の軌道を描いた。


「ッ!?」

「っぶなぁ……」


 ハルバードを振るったイチジクの意思とは全く違う、誰がどう見ても不自然な、空間か、あるいは運命をねじ曲げたかのように軌道が歪み全く別の方向へその勢いを走らせる。

 イチジクの馬鹿力はその低身長で成立させるには高度な魔力コントロールとバランス感覚、さらに一度の行動で発生する事柄全てを想定しなければならなず、それらを瞬時に計算し割り出さなければならないため見た目の大胆さとは裏腹に実に繊細な行為であり、同じ前衛の私から見て嫌と言うほどの実力と、何よりも経験の差を見せ付けられる。

 そんな繊細な動作を全く想定していない形で崩され向ける先を見失った力によってハルバードがイチジクの手元を離れようとし、ここで離す事だけは絶対にしてはならないという経験による直感だろうか。


「ぐっ……」


 イチジクは私達を傷付けまいとより強い魔力で保護し片手から両手持ちへ変更する。

 両腕から心地が良いとは程遠い音を鳴らし苦悶の表情を浮かべ体を持っていかれながらも最小限の衝撃で着地し黄色い服の人へと向き直り、折れているだろう腕で無理矢理構える。


「待った!私は戦う意思なんて無いよ!

 ハロー!あいたかったよ私より強い人!今のは流石に死ぬかと思ったさ!」


 帽子からコートまで黄色い人は女性だった。黒という珍しい色の髪を持つ女性。

 けれど、この人は本当に同じ人種なのだろうか?あるいは魔女か?

 その全身はおそらく包帯まみれで、左目だけ伸ばしっぱなしの髪で完全に隠れているが、振り返る時に一瞬覗いたその眼球がある部分、包帯越しに赤く光っていたのを私は見逃さなかった。

 そんな怪しすぎる危険人物は戦うつもりはないとまるで劇中の登場人物として振る舞う演説かのような過剰な振る舞いで話をしたいと主張してくる。


「(レネ、回復)」


「ヒーリング」


 そんな大袈裟な振る舞いをしながら話すもので自ずと普通に喋るよりゆっくりな口調で、誰が聞いても聞き取りやすいと答えるだろうセリフの最中ハンドサインで指示しへ回復魔法をかけさせる。

 回復魔法によって赤くなっていた腕は正常に戻る。

 しかし私から見てイチジクの構えがいつもと違って見え、その答はすぐにわかった。

 普段なら一度構えたら動き出すか崩すまで微動だにしないからすぐに違和感を覚え理解できた。

 イチジクが震えている。

 臆してるとかでなく、たぶん余裕が無いとはいえ殺そうとした事と、これからそれが連続で起こるだろうことに。


「……で、何用じゃ?わらわはこの子らを守らねばならん。

 わらわはまだ、わらわを受け入れてくれるこの子らに何も成し遂げてあげられておらん」


 まるで自分に言い聞かせるような言葉だった。

 それもそうか、ゴブリン一匹殺すのにあんなに心を乱していたイチジクが完全に人間の見た目をした者を殺してでも押し通そうとしているのだから。


「愛!なるほど愛は素晴らしいと思う!私も愛の為に行動してるんだ!だからゴメンね!

 コホン……やあ!私を表すなら通りすがりのトレインちゃんだよ!

 君達は私の愛の為に犠牲になってよ!」


 トレインと名乗った女性がこちらへ手の甲を向けると、共鳴するようにトレインとイチジクの片手の甲が光る。

 それに反応したイチジクがスコップを女性へ投げつけるが、先程のハルバード同様当たる筈だったスコップはまるで意思を持ち自ら避けたかのような不自然過ぎる軌道で飛んで行き水路へと落ちた。

 その頃には光は収まり、かわりにイチジクの手の甲には黒の長手袋越しにも見える、何処となく不気味な気配のする薄紫色に光る見たことのない模様が浮かんでいた。


「後は頼んだよ。生きていたらまた会おう」


 そう告げると背後へ軽く跳び、同時に出現したモヤの中へとその姿を消してしまう。


「イチジク!」


「大丈夫じゃ。ほれ、見ての通り何ともない。

 しかし……奴の口ぶりから特定の者に対象を誤認させるスキルとかそんなところじゃろうか?

 挟み撃ちは避けられたようじゃが困ったのぅ」


 印の付けられた手を軽く動かして見せ安心させようと笑顔で答える。


「でもそれって……」


「すまぬ、話している暇は無…ッ!?離れておれッ!!!」


 尻尾ではじかれレネが受け止めてくれたのとほぼ同時にその時が来た。

 振り下ろされたそれをハルバードで受けると、イチジクの立っている足場、煉瓦が砕け、地面がへこみ、亀裂が走る。

 周囲には強い衝撃が走り、その振動だけで髪がなびく……


「……イチジク?」


 あまりにも不恰好だが、何よりも禍々しさを感じる斧を振り下ろしこの状況を作った女性は違う点も多いがあまりにもイチジクと似た顔付きをしていた。


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