第21話 「追う乙女」
残り500km。約2000kmの四分の三程飛んだ。
段々と蟲はまわりに増えてきて、かわすのも難しくなってきた。俺はレーザーガンを抜き、正面の蟲を打ち落としながら進む。しかし、ついには速度を落とさざるを得なかった。蟲の城は見えないというのに、まるでそれがあるかのように辺りの空間は蟲に埋め尽くされている。幸いなことに全てが俺に向かってくるというわけではなく、俺には目もくれずに北へ向かっていく蟲達も多い。
俺は少し躊躇をしていたが、覚悟を決めるとその蟲の川に向かって飛び込む。
向かってこないものはスルー。少しでも俺に目を向けた蟲は即座に打ち落とす。ビートル型の蟲は殺すとその取り巻き達が向かってくるだろうから逃げる。奴はでかくて小回りがきかないので一度かわすと蟲の流れに押されて自動的に北へと押されて消えていった。
[ガシーンッ]
他の蟲に気がそれたとき、ついに俺は蟲に捕まってしまった。トンボに似た蟲で、ガーディアンのモニターいっぱいにでかい顔と大きな二つの目が映る。
両肩の複合装甲が歪む。凄まじい力だ。
両腕を押さえられて動きが取れない俺だが、太ももに装着されている反粒子レーザーナイフにすばやく持ち変える。そして、わずかに動く手首を返し、蟲の下顎からナイフを突き刺した。
〈ギギ……〉
蟲の頭頂部からレーザーナイフの刃が突き出る。蟲は奇妙な鳴き声を出すと目の光を消した。蟲の腕から開放された俺はそいつを地面に向かって叩き落す。
動きを止めていたのは一瞬、しかし、その間に目の前には数え切れないほどの俺を見つめる蟲がいた。
俺のガーディアンの体の各部に装着されたミサイルポッド。その全弾頭の3割を起動させる。ミサイルを発射した俺はすぐに下降、地面すれすれで平行飛行に移る。そして下からまた三割に当たるミサイルを発射。更に奥にいる蟲を消し飛ばす。
しかしそれでも蟲は減らなかった。俺は胸の前にある半透明パネルを操作しておっさんに信号を送る。すぐに返事が返ってくると共に、背中の槍が反応を見せた。
「時空震!」
間一髪だった。俺のガーディランスの数メートル先まで迫っていた蟲達は崩れ去っていく。粒子状になった蟲達の粉が雨のように降り注いできた。
「あと200km!」
蟲の巣はどれほどの蟲を生み出せるのだろうか。絶え間なく北へ援軍を送り続けているというのに、まだこれほど蟲がいる。俺は先ほどの場所からほとんど移動する事無く蟲に取り囲まれた。
「どうなってなってんだこいつら! ……あ……あれか! あれのせいかっ!」
あまりにも辺りが蟲で埋め尽くされているので気が付かなかった。蟲の壁の向こうに黒い大きな塊がうっすらといくつも見える。蟲の城だ。蟲の城がいくつも地上に降り、まるで工場のように蟲を吐き出し続けている。
「食らえ!」
俺は残りのすべての反物質ミサイルを放った。しかし、蟲の壁に阻まれ爆発をする。10以上もの蟲の城から補われる蟲達であっという間に壁は再生される。
「時空震しかないが……。エネルギー残量からして後2発。……ここで使ってもいいのか……。しかし、使うしか……」
[グシャッ]
ガーディランスが吹き飛ばされた。右肩に装着されていた追加装甲を兼ねるミサイルポットが吹き飛ばされた。
「なっ……なんだ!」
しかし、すぐそばに蟲はいない。どういうことだ……、蟲が何か放ったのか? どこから……?
狙いを絞らせないように動く俺のガーディアンから今度は左足の装甲が剥ぎ取られる。
「やばい……。まったくわからない……」
〈カチカチカチ〉
「――――っ!」
近くで蟲の音が聞こえた。それは目と鼻の先にいるようで、息遣いも感じるような気がする。
「まっ……まさか……。新種か? 見えない……蟲か?」
レーダーを確認するが、まったく反応は無い。ガーディランスでも探知できないと言う事は、ひょっとして未来にもいない蟲かもしれない……。
それほど蟲を追い詰めているのかと感じる反面、ここで俺はやられてしまうかもと思ってしまう。
「……青い……点?」
そんな時、レーダーに新しい反応が映った。俺に凄まじい速度で接近してくるそいつは味方の信号を放っている。
「ヨシトー! だいじょぶぅー?」
「はっ……ハルミかっ! お前何してんだこんなとこで!」
通信を入れてきたのは見知った顔、ハルミだった。頬を膨らましながら「手伝いに来たに決まっているでしょぉ」と怒っている。
「バカっ! 逃げろ! ここにはとんでもない奴がいるんだ!」
「えっ? なに?」
モニターに映るハルミの顔をみていた俺の目の端に、黒い何かが映る。
[グワシャァーン]
その鉄塊は凄まじい音と共に空中で、独りでにひしゃげた。
〈ギギ……〉
そして、その鉄塊の向こうにうっすらと蟲のようなものがいるのが俺の目に見えた。
「こっ……こいつかぁ!」
俺はすぐにガンを手に取り反粒子レーザーを叩き込んだ。体に穴を開けられた蟲は姿をはっきりと現し、対消滅で光となって爆発をした。
「たっ……助かった! ハルミ、な……何をしたんだ?」
「え……と。いらなくなったガーディアンのオプションパーツ、ロケットパックを射出したんだけど……。
「よく蟲がいるところが分かったな!」
「まっ……まあ、ヨシトの動きとか見てたら……ね! 女の勘よ!」
「すごいなお前! 最高だ!」
「最高? か……彼女として……当然よぉ……」
「後は任せろ! 時空震を使う!」
俺はおっさんに向けて合図を送る。すると、おっさんから映像通信が入ってきた。
「そういえばお前、敵に槍を向けているだけだが……どうしてだ?」
「……えっ? 槍を向けた方向に時空震が発生するんだろ?」
「マニュアル読めって前言ったろ……。何のために槍の形していると思ってるんだよ……。約束の時間まであと15分だ。もちろん来なけりゃ待つが、俺は時間に正確なほうだぞ」
おっさんは通信を切ってしまったが、モニター画面に槍の使い方が表示されている。
「えっ? そう使うんだ……。しっかり読んだつもりだったけど……。あっ! あのハルミが邪魔しに来たときに読み飛ばしたのかも……」
俺がハルミの映像を見ると、何やら「最高なのか…彼女として最高なのか……」とぶつぶつ言っているので放って置くことにした。緊張感のない奴だ……。
逆にほぐれるからいつも助かるんだけど。
「いっちょやってみっか! ハルミ、一人だと危ないから俺につかまっていろ!」
「はふっ? 了解!」
俺は背中から槍を抜くと、上にあげて両手でクルクルと回す。ハルミのガーディアンは慌てて俺のガーディランスの腰にしがみついてきた。
「いくぞ! 時空震!」
俺が槍を片手に持って飛び立つと、周囲にいた蟲が崩れていく。そして、俺はそのまま蟲の城へ突っ込んでいく。
「うぉぉぉ! 時空ランス!」
槍を突き出し、城に向かう。いつもなら空中で静止しているだけのところだが、今回はガーディランスも槍と一体となり、蟲の城に突き刺さった。
「人間を舐めんなよ!」
「ランスを舐めんなよでらんす。……なんちゃって!」
城を包んでいた蟲達を灰と化し、あっという間に槍は城の本体、巨大なイモムシの外郭に届く。すると、槍の先に触れた部分から粉になって崩れだした。
「直接触れたらこいつでも粉になるのかっ!」
「こんなん(粉)になるのねっ!」
「ハルミ、うるさい!」
「はい!」
数kmの巨体が粒子となって滝のように流れ落ちていく。俺はその中を進み、突き抜けたと同時にイモムシも崩れ落ちて地面に灰を積み上げていた。
「このまま全部串刺すぞ!」
「串刺す……。あ……いいの浮かんだのになぁ……」
次の城に槍を刺す。ガーディランスが突き抜けるスピードと同等の速さで崩れ落ち、俺達は山間のトンネルを抜ける列車のごとく飛ぶと、すべての城が消え去っていた。
すると、正面に一つ、蟲の城よりも遥かに大きな山が見える。半円状の球体、恐らく下半分は地面に埋まっているのだろう。
「ついに来たぜ……。おっさん! 返事をしろ! 俺もいつでもいいぜ! っていうか、早くしてくれ!」
隕石が吐き出す蟲の量は蟲の城10個分以上のようだ。しかも北に向かっていた蟲の流れが止まり、ゆっくりと大回りをしながらこちらに向かってくる。
「やっと来たか……。まあまあ時間通りだな」
「ぴったりだろうが! それになんだその顔!」
モニターに映るおっさんは『ひょっとこ』のお面をかぶっていた。
「だからお前が老けた自分の顔にショックを受けないように、画像に修正入れてるんだって」
「34歳でそのおちゃめっぷりの方がショック受けるわ!」
俺は槍を両手に持ち、頭の上でクルクルと回す。
「ハルミを体にくっつけたまま……。彼女持ちはいいねぇ」
「うらやましいか? おっさんも蟲がいなくなった世界で彼女でもつくれ! 俺が許可してやる!」
「ふん、偉そうに……。考えておいてやる。それじゃ、そろそろ行くぜ。蟲に止めをさすぞ! ヨシト!」
「ああ! わかったぜヨシト! ん……、……まてよ」
蟲のいなくなった世界……。俺は一つの疑問が頭に浮かんだ。
「おっさん……。蟲がいなくなったら……、俺やハルミはコールドスリープから目覚める。シズカも死ぬわけがない。なら、シズカが死んで管理者となる俺の未来は存在しなくなる。おっさんはどうなるんだ?」
「ふ……。お前の未来だけじゃなく、ハルミが生きている未来、シズカが生きている未来、そのどれか一つでも確定した瞬間……俺は消えてなくなる」
「なっ……。おっさん……。それでいいのかよ?」
「はっはっは。俺が消えて無くなるからって、蟲の止めをさす気が失せたか?」
「いや……、全然!」
「だろう? 自分の考えはわかっている。俺自身がどうなろうと……ハルミは救ってみせる! 過去の俺や未来の俺が消え去ろうと知ったこっちゃない!」
「ああ、知ったこっちゃない!」
「では行くぞ……」
「おう!」
「ガーディランス各機能グリーン。時空震を撃つ」
俺たちは声をそろえて同時に言った。
「時空ランス!」
俺は巨大な隕石の中へ、光の槍となって消えた。
次回、最終話となります。




