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幻影学園  作者: 音哉
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22/22

最終話 「そして……始まる」


 その日は少し肌寒かった。桜の無い道を俺達は学校に向かって歩く。


今日は二年生になっての初日。俺とハルミは高校の門をくぐる。


校舎の前に立っている掲示板。俺達はそれの前に立った。


しかし、人垣があり、ハルミはピョンピョンと跳ねてのぞいている。


俺は人より少しだけ高い身長を生かして張り出された紙から自分の名前を探す。


「ねえ? 何組?」


「……二組だ」


「私は? 私は一緒のクラス?」


「……お前も同じ二組だ。……知っているくせに……」


「だってぇ。万が一って事があるでしょ? 書き間違いとか?」


「まあ……。大垣さんの手書きだしな……」


 俺は汚い字で書かれた紙を笑う。


「イケてるクラスだったらいいよねー?」


「だからその基準を教えろって……。それに、イケてるも何も、旧2年3組と4組との合併じゃないか。半分は知った顔だし、もう半分は体育の授業で一緒だった奴らだ。猛烈に顔なじみだぜ……」


「もっと初めてのの二年生って感じだしてよぉー。ガブッ!」


「痛ぇ! なに噛んでんだよ!」


 ハルミは俺の袖をまくって噛み付いてきた。

くっきりと腕にその歯型が刻み込まれる。


「わぁ! 跡がくっきり! 生きているって感じ!」


「仮想世界でも付くわ! それに、そんなら自分の腕で試せ!」



 俺たちはあの後、コールドスリープから目覚めた。


リターンは春に行われたが、俺たちパイロットはリターンを行ってしまうと死んでしまうので当然除外された。一年くらいの脳と体のズレくらい大したことでは無いとのことだ。


つまり、俺たちは前の年の二年生の記憶を残したまま、もう一度二年生をやることになる。

まあ二年生の後半はまったく勉強をしていなかったので、そう考えれば都合がいい。


残念ながら冷凍障害がひどかった人達は起き上がる事ができず、今もまだ地下深くで眠っている。しかし、いつか目覚めさせることができるようにと、技術開発を行っているらしい。


国の復興は続いており、現在は各基地がそれぞれコールドスリープしている人々の住居を地上に用意をしている状態だ。


俺たちの第22基地は総人口約500人。残念ながら目覚めさせることが出来るのはその半分程度。しかし少なさゆえに、あっという間に住居および学校を作り上げることが出来た。食べ物ももちろんろくな物などありはしないが、高校生達のほとんどが地上に出ることを選んだ。


そして…ガーディランスはというと……、


「ガーディランス君、今日はどうしているの?」


「オートパイロットで西の荒地を耕していると思う」


「まーた畑かぁ。ジャガイモとか飽きたぁ。お米食べたい!」


「無茶言うなって……。米は今の時代でも春に植えて秋に収穫。時間がかかるのは昔っから変わらないんだから……。今度ガーディランスで魚でも取りに行こうぜ」


「マグロっ! マグロっ!」


「だから無茶いうなって……米より難しいぞ」


 俺たちは校舎の階段を上り、二階にあがる。教室のドアを開けると、いつもの声で挨拶が飛んでくる。


「また仲良く登場かよ!」

「毎朝女子学生棟までお迎えご苦労様です!」


 ケンタロウとアキラだ。当然同じクラスである。しかし、いつものメンバーには一人足りない……。


「お前らも今度魚取りに行くの手伝えよ。ガーディアンで網引っ張るの手伝ってくれ」


「おっ! いいなぁ。まじキャベツとか芋ばかり辛いよなぁ」


「仮想世界でのお弁当の味……忘れられませんよね!」


 俺たちはシズカが用意してくれた豪華絢爛な昼の弁当を思い出す。しかし、教室にシズカの姿は無い。


「シズカは……、管理者として働いているのかな? 大垣さんは高校の校長を兼任するってのは聞いているけど……」


「だっろうなぁ。管理者は大忙しらしいぜ。食料建物基地の管理……。まあそれでも蟲に悩まなくていいようになった分、やっぱり楽になったらしいけどな」


「今は世界中がごちゃごちゃしていてそれどころじゃないかもしれませんが、落ち着いたら絶対世界から表彰されますよ! この救世主カップルは!」


 アキラがそう言うと、教室中から拍手が沸き起こる。


「だよなぁ。あの時ハルミはヨシトの窮地を救い、そして二人で蟲の巣窟である隕石に特攻して破壊に成功……、だもんな。お前らが結婚する時は世界各国でテレビ中継されるぜ、きっとよ!」


「バカ! 結婚とかわけわかんねー事言ってんじゃねー!」


 俺はケンタロウにそう言い放ってからハルミを見ると、何やらこぶしを上下させて頬を膨らましている。


「何怒ってんだよ?」


「け……結婚までとは言わないけどっ! いい加減約束果たしてよ!」


「約束?」


「眠り姫にチューすることだよっ!」


「……あー」


 俺は席に座り、外を見ながら伸びをする。


蟲との戦いの中で使用した核に汚染された地域など問題は多いが、目に見える世界はすばらしく美しい。


「またごまかすぅ! もう! ここでチューしてやろ!」


 ハルミは俺の首に手を回し、唇を近づけてくる。


「待てっ! ここでする奴がいるかよ! こういうのはムードってもんが……。まっ……またなんか男と女が逆になってるぞ!」


 俺は両手を間に入れ、なんとかハルミの接吻を阻止する。クラス中の生徒がそれをにこやかな優しい目で見ている。


せめて冷やかしてくれ! 温かい目で見られるほうがなんか辛いぜ!


[ガラッ]


「はい、みんな座って」


 ナイスタイミングで教室に大人の女性が入ってきた。生徒達はその人の様子を伺いながら、とりあえず着席をする。


「私が今日からこのクラスを受け持つことになりました。一年間よろしくね」


 どうやら担任の先生のようだ。年は20代前半ってとこだろう。髪は黒髪で綺麗なストレート。スレンダーなのに出るところは出ている。どこかの社会人基地から先生として招きいれたのかもしれない。かなり美人な先生である。


しかし……どこか見覚えのある顔だ。


「世界はまだまだ復興途中。ですので、みなさんには勉強以外にもしっかりと学んでもらうことがあります」


 ケンタロウとアキラも先生を見ながら首を捻っている。


この声も……どこかで聞いたことが……。


「風紀には厳しく! とりあえず恋愛は厳禁! 手をつないだだけでも宿題を倍にします!」


「えぇー」


 教室から不満の声があがる。よく見回して聞いてみると、その声は8割がたハルミが発している。


「文句は言わせません! 最悪、進級できなくなってもしらないわよ! ……あ、先生の名前を教えるのを忘れていたわね」


 その人は振り返ると、後ろのモニターボードにペンで文字を書いていく。



『大西静香』



 そう書いた。


「おおにし……しずか……?」


 頭の中でぼんやりとしていた物が俺の中であっという間に形を作った。


「あぁっ! し……シズカ!」


 両手で机を叩いて立ち上がると、ケンタロウとアキラ、ハルミも同じように立ち上がった。


「どうしたの義人(よしひと)君。それに健太郎君に明君。ちなみに、義人君は『ヨシト』じゃなくて、『ヨシヒト』が正しい読み方。最近わかったの」


「にゃぁー! どうしてシズカが先生やってるの……。違う! そうじゃなくて……どうして恋愛禁止なのっ! シズカは私の味方でしょぉ?」


 ハルミはこぶしを上下させながら口を尖らしている。


「晴海ちゃん……あなたがなぜか一番進級出来ない可能性が高い気がするわ……。気をつけてね! 来年義人とは別の学年になるかもしれないわね」


「にゃにゃにゃぁ!」


「ちょっ……ちょっと待てよ! シズカ……なのか?」


 俺がそう聞くと、担任だという先生は笑顔で俺の顔を見る。

……いや、じっとみつめてくる……。


「お……おかしくないかっ? 若すぎる! シズカは……34……いや、今年で35歳のはずだ! この先生は……どうみても……20代…」


「ええ、私の年齢は24歳。これはコンピューターがはじき出した細胞年齢だから正確よ。幸い、戸籍のようなものは消失しているから……細胞の年齢が私の年齢!」


「ど……どうなってるんだ……。シズカは歳をごまかしていたのか……? どうして多くごまかすんだ? いや……。人間が18年前に地下に潜ったのは間違いないから、それじゃ、シズカが管理者になった歳は……6歳? どっ……どうして小学一年生が高校にいてしかも管理者になれたんだ……」


「義人、時空震を初めて使った時のことを覚えている?」


「……ああ。お前と俺で出撃したときだ」


「あの時、森に変化があったのも覚えているよね?」


「確か……森の葉の色がめまぐるしく変わっていたな。散っては葉をつけ、散っては葉をつけて……」


「私もそのときそう思っていたんだ。でも、よーく思い出してみると違った。あの時の木の葉の色は茶色から緑、そして消え、また茶色の葉が現れて……緑になるって言うのを繰り返していたの。時空震により、『時』に影響が出ていたの。あの辺りの時間は………巻き戻っていた!」


「それがどうした? 時空震は確かに多少時間と空間に影響を与えるというのは聞いていたが……マトリックスやデータにはほとんど影響は起こらない……。あぁ!」


 そうだ! ……シズカは……。その時確か……。


「そう! 私は生身で出撃していた! 森と一緒に……あの一瞬で7年巻き戻った、若返ったの!」


 シズカは教卓の横から俺の席まで歩いてきてそばに立つと、俺の頬に手を当てた。


「17歳と……24歳なら十分ありえるわよね?」


 俺は大人の魅力いっぱいのシズカの視線に背中がぞくぞくっとした。


「だっ……だめぇ! この先生……エロいぃ!」


 ハルミが大声を出しながら、なりふり構わず俺に抱き付いてきた。


「あら、早速違反ね。責任を取って……義人君、今日は居残り。個人授業ね」


「なっ……何で俺だよ!」


「ちょっと! ヨシト! 早く済ませちゃおう!」


 ハルミは口を突き出しながら俺に顔を近づけてくる。


しかし、今度それを止めたのは俺ではなく、シズカだった。


「だから学校で恋愛は禁止だって言っているでしょ! どうしてもしたいなら…明日以降……。義人が今日の放課後に受ける個人授業の後にしなさい!」


「きゃぁ! シズカが狙っているよぉー! っていうかぁ、シズカ、キャラ変わっちゃってるぅー!」


「34歳なら諦めも付く。でも、24歳ならむしろ私のほうが有利なくらいだわ! やめなさい! この小娘!」


「な……何よぉ。本当は私達と同じ学年だったくせにー。あ、でも本当は35歳? えー。ややこしーなぁシズカはぁ」


「24歳よ!」


 押し合いへし合いをする二人の間で俺はため息を一回つくと言った。



「平和だな」



 壊滅した都市、激減した人口、汚染された地域と、地球に問題は山積みだが、とにかく俺たちは……地球を取り戻した。


 日によって違いの出る体調、不快に感じる気温や湿度。しかし、それが『生きている』って事らしい。


 とりあえず俺は一つの目標がある。それは……



 おちゃめなおっさんにはならない!



 ……なんてね。



                               おわり


読んでいただき、ありがとうございました。

小説を書き始めて一年経った頃の作品でして、

読みずらいところが多々あったかと思います。


ストーリーはやや捻ってあり、何度か矛盾をつぶすのに苦労した思い出があります。


@音哉

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