第20話 「2000キロを駆ける光の槍」
3ヶ月以上のこう着状態。人間達にリターンが迫る2月。ついに一か八かの作戦に出ることになった。
カーディランス単独の一点突破。もちろん発案者は俺だ。
インド、ニューデリー基地から総攻撃。すべての戦力を出し尽くす。そして、蟲が北東のアラビア半島に集まったとき、昔スペインがあったイベリア半島に待機していた少数精鋭のガーディアン隊がジブラルタル海峡を越えて北西から一気に侵入。
しかし、それも囮。
本命はあらかじめアフリカの南東にあるマダガスカル島にいる俺のガーディランスだ。そこからアフリカ中央のコンゴ盆地にあるという隕石を目指す。マダガスカル島からコンゴ盆地まではガーディランスなら1時間。夕食のパーティーまでは楽に間に合わせる。
外世界の日付で21××年2月14日、午前11時00分。作戦は始まった。
「ヨシト君、すごい勢いで蟲が北に移動しています。餌に食いついたみたいです」
森に隠れている俺たちの上でアキラのガーディアンが一人浮かんでいる。背中に大型のバックパックを装備し、そこから上に二本、横に二本の長いアンテナが突き出ている。情報収集用のレーダーパック、特殊装備だ。
「スペインの東京ガーディアン隊はまだ動かないか?」
「連絡はありません。ですが、アラビアの本体からはもう少し待て……と。がっちり喉元に食いつかせると言ってきています」
喉元に食いつかせるほど蟲を引き付けると言う事は、部隊が半壊するほどの状態まで戦うと言うことだ。日本東アジアアメリカオーストラリア連合に建て直しが効かないくらいの被害が出るかもしれない。その人々のためだけじゃなく、未来で隕石のそばで待つおっさんのためにも、この作戦は失敗するわけにはいかない。
俺達、東京東部第22基地ガーディアン隊、15機は息を潜めてその時を待つ。
「しっかし、ハルミはすごい荷物を持ってきたなぁ……」
ケンタロウはハルミのガーディアンのそばにあるコンテナを見ている。
「だって、弾薬とか足りなくなったら困るでしょぉー。私達だけでヨシトを援護するんだからっ!」
「俺たちの重装攻撃パックだけで十分だと思うけどな……。ヨシトは超スピードで飛び去るんだからさ……」
「女の子の荷物は多い物なのよっ! ベーだ」
モニター画面のハルミは舌を出している。このようないつものやり取りを見ているだけで俺は十分なほどリラックスできる。
そんな時、アキラが大きな声をあげる。
「ヨシト君! スペインの仲間が動きました! 14番隊のアツシさんから「健闘を祈る」とメッセージが!」
「全員アタック用意!」
森に膝を付いて隠れていた全高10mの巨大ロボット達が一斉に立ち上がる。目に光が点り、体の各部から陽炎があがる。
「比較的近くの蟲に気が付かれました! ですが、北に向かう蟲の流れは更に速くなっています! スペインからのアツシさん達が引き付けに成功しているようです!」
「よおーし! ついに俺が指揮をとるときが来たな……。お前ら! 言うことを聞けよ!」
カズ先輩のガーディアンが森を出て上昇をする。それに続くガーディアン達だが、ケンタロウがボソッと一言言った。
「くじ引きで当たっただけじゃん……」
「うるせぇ! 5分間で蟲を消し去るぞ! ヨシトは早まるなよ!」
アキラは後方へ下がり、その前に俺を除いた13機のガーディアン達が一斉にライフルを構える。
「まずはライフル斉射。俺に合わせろよ! その後は……後は……。いつものように勢いでボコボコだぁ!」
「了解!」
その音声に混じってケンタロウの「それって作戦じゃねーよ」と言う声が聞こえた気がした。
俺達の部隊が強いと言われるのは、高校生ならではの反応速度と、無鉄砲な駆け引きだ。
ライフルに頼らず時には足で蹴り飛ばす。ミサイルを意味もなくケチる。ゲームのように敵を引き付けてから一撃で全滅させて高得点?を狙ったりする。それが連携のよさと相まって良いほうに結果を出すのだ。
しかし、主力部隊が敵を引き付けているとは言え、アフリカ大陸はあなどれないくらいの蟲がいる。ケンタロウ達はまるでハチの大群に襲われているかのように、あっという間に黒い霧に包まれていくように見える。
しかし……、
「反粒子ランチャゎぁぁぁ!」
ケンタロウのバカ声が響くと、皆の機体からシャワーのようにレーザーが噴き出した。
肩に装着された、反粒子レーザーを複数同時発射する武器、反粒子ランチャー。俺が前乗っていたガーディアンには無かった物だ。エネルギー消耗が激しい武器だが、戦闘時間は5分、ケンタロウ達は惜しみなく打ち続けている。
「アカネがやられた! タカシ、二人で離脱しろ!」
一機が小爆発しながら落ちていく。それを、片腕を失ったガーディアンが受け止めて後方へ下がる。
「ケンタロウ様オリジナルプログラム! ミサイル三重波、全弾発射!」
ケンタロウのガーディアン、全身から打ち出された反物質ミサイルが蟲にめがけて飛んでいく。それは三グループに分かれて、手前、中間、奥で爆発をした。かなり効果が合ったようで、広範囲の蟲が消えた。
「ケンタロウ君! 右!」
「え?」
[グシャッ!]
ハエに似た蟲がいつの間にか近づいてきており、その頭に生えている角でケンタロウのガーディアンに体当たりをしてきた。角はガーディアンのコクピット部を貫通し、背中から抜けている。
「ケ……ケンタロウ……」
俺は動くわけにはいかなかった。アフリカにいる大部分の蟲達は囮に引っかかり、ここにいる蟲は近くの守備隊のようなものだ。一掃すれば道は開ける。
しかし、それも100kmほどの範囲でだろう。俺はここから2000kmを飛ばなければいけないので何があるか分からない。そのため、できるだけエネルギーを温存しなければいけないのだ。
「う……うおお……。びっくりした……」
ケンタロウの声だった。ケンタロウのガーディアンは突き刺さった蟲の頭を両手で押し、角を引き抜いた。
その蟲をカズ先輩のガーディアンが蹴り飛ばして、ライフルで撃ちぬく。
「大丈夫かよ! なんとも無かったのか?」
俺が聞くと、モニターの中のケンタロウは首を捻っている。
「いやぁ。完全に俺の体貫通してたぜ。生身の体だったら、えらいこっちゃって感じ?」
「いいから下がってろ!」
カズ先輩が今度はケンタロウのガーディアンの頭を蹴った。ケンタロウはおとなしく後退する。
「そろそろ5分だ! カズ先輩、全滅させられなかったみたいだが、蟲の流れが変わる前に行かせてもらうぜ!」
「早まるなって言ったろ! あと20秒ある! 全員弾を撃ちつくせ!」
ところ構わず反物質ミサイルが爆発をし、レーザーが飛び交う。ちょうど5分、蟲の姿は消えた。
「やれば出来るね! カズ先輩!」
「ちょっ! お前! 先輩に言う言葉かそれ! 生身の体を手に入れたら一発殴ってやるからな!」
「楽しみにしてるよ!」
森から飛び上がった白と青の俺の機体。ガーディランスは爆音を轟かせて北西のコンゴ盆地に向かった。
「行きましたね……。後はヨシト君に賭けるだけです……」
「その通りだ。俺達もすぐに基地へ戻ろう。補給を済ませて主力部隊の援護に向かわないとな」
「あれ? ……ハルミは? どこだ?」
ケンタロウが周りを見回すと、損傷の無い機体、半壊した機体の中にハルミのガーディアンの姿が無い。空に浮かんでいるのは13機しかいなかった。その時……、
[ゴォッ]
木々の間から凄まじい勢いで飛び出す物体があった。それは北西に向かって目にも止まらない速さで進んでいく。
「なっ……なんだよ!」
「わっ! 見てください! ピンクのラインだ! ハルミさんですよ! あれっ!」
「どういうことだ!」
「ロ……ロケットパックだ! あれは短距離だけならガーディランス並の速度が出ますよ! あんなものどこから……」
「さっきのコンテナかよ! まじかハルミ! どこまでヨシトにベタ惚れなんだよっ!」
いつの間にか装備の換装を済ませたハルミは、背中に巨大なロケットを装着し、猛スピードで空の彼方に消えた。
俺は地面や木の上すれすれを飛行していた。余所見をしているところに丘でもあったらすぐに激突だ。時速2000km以上のスピードが出ているので、細心の注意を払って前だけをみて進む。
時折蟲の姿を見かけるが、気が付かなかったり、追ってきたりしても追いつけなくて消えていく。
マダガスカル島を飛び立って30分。そろそろ中間地点に差し掛かった頃だ。俺はパネルを操作しておっさんに連絡を取る。
「今日も暑いな。どうだ? 予定通り来れそうか?」
相変わらず気の抜けたセリフが聞こえてくる。俺も確かにこんな部分はあるが、歳をとるとひどくなっていくのだろうか……?
「暑いってなんだよ。あんたもガーディアンに乗っている時はその体はホログラムだろ?」
「お前には分からないだろうなぁ。生身の人間はこのギラギラした太陽見るだけで……気持ち的に息苦しくなってくるんだよ。お前みたいな冷凍品じゃなくて、俺の本体は室内で普通に寝ているだけだからな」
「ふーん……。って、あと30分で人類の勝ち負けが決まるって時に、良くそんな無駄話ができるな!」
「そう言いながら、俺みたいになるのを……お前は恐れているんだろ? なんなら顔も見せてやろうか?」
「34歳のシズカなら見たいけど……、自分には興味わかないな」
「ふふ……。安心しろ。お前は俺にはならない」
「それは助かるぜ! ……って、おっさん、その言葉……深い意味あるのか?」
「ああ……まあな。蟲を滅ぼしたあとお前に話をするって言ってた事覚えているか?」
「どうして未来人ってのを隠して俺達を手助けしたかだろ?」
「そうだ。まず最初、お前にガーディアンを与えた俺のことをどう思った? 未来人とか宇宙人だとか思ったか?」
「いや……。他の基地の奴とか……俺の基地の誰かだろうって。何かたくらんでいるかもしれないが、とりあえず利用してやろうって思った感じだったな」
「そんなところだろうな。お前やお前の基地の連中は開発中の武器の完成品が手に入ったと思ったくらい。それが大事なんだ。その程度の過去の改ざんくらい世界の想定内、歴史の復元力の範囲内なんだ。もし、俺が未来人だと明かすと、お前らの基地はもちろん、他の基地の奴らの意識まで変わり、それは行動に大きな影響をもたらす。
そこまでの人数が本来とるべき行動以外の事をすると、それは想定外で復元力以上の力。つまり、未来が変わってしまうわけだ。変わってしまうのは別に良い。しかし、俺がいなくなるのは困る。死にたくない訳じゃない。俺は時空震システムを開発して蟲を滅ぼす使命があるからだ」
「なるほど。俺が何もしないで生き続けた姿がおっさん。しかし、あんたからするとその未来を変えない程度で俺を今度は戦場へ向かわさなければならない。だけどさ、俺は戦いの後遺症でリターンが来れば死ぬという過去に変わってしまったぞ。どうしておっさんは消えないんだ?」
「俺の過去を忘れてないか? 俺はおまえの歳にシズカに代わり管理者になったわけだ。つまり、お前の世界でこれからシズカがまだ死ぬ可能性が残っているということは、お前は俺になりえるということだ」
「そうか……。それが歴史の復元力……。シズカが死ぬ時期や俺が管理者になる時期のズレくらい……結果が同じなら構わないのか」
「そう言うことだ。これですべての疑問は解けたな? 早く隕石の元へ来い。奴らの巣を吹っ飛ばすぞ!」
「ははは! おっさん! 俺がたどりつけずに死んだらどうするんだよ!」
「俺はお前を信じている。自分を信じている。俺なら…たどり着いてみせる。お前は出来ないのか?」
「バカ言うな! おっさんに出来るなら俺にもやれるに決まってんだろ!」
すぐに向かってやる。しかし、その場所におっさんがいないのが残念だ。その少しとぼけた性格を叩きなおしてやりたいのに……。俺はそんなことを考えながら唇を一度舐めると、速度計を確認して隕石へ飛ぶ。




