壊変記録"ヌテラ・ナドバンク"
「あの馬鹿っ…何でお前までやられてんだよ。だから油断すんなって何度も言っただろうが…。」
道路を挟んだ先で炎を操る敵に殺られた"グテラ"を見て思わず漏れ出た声が一人きりの静かな部屋に響く。
『うっせぇなぁ…。油断すんなって何回言うんだよ。そんなに言うならお前が前に出て正暦保全者と戦って見せろよ。その結果でお前が"オリジナル"かどうか分かんだろ?』
『まじそれなー。自称オリジナルくんさぁ…嘘つくにしてももう少しマシなのにしなよ?オリジナルなのに模倣回数に上限あるとか有り得ないっしょ?俺らは無限に模倣出来るのにオリジナルくんは一週間に一度だけってナメてるでしょ。それに君だけ時の瓦礫の模倣出来ないしマジなんなの?』
『それに加えて俺らより戦闘能力低いしな。更に更にお前の一握の破片だけ仕様が違うし。逃げ隠れるしか能のないお前にはお似合いの内容だけどさ。』
自分を模倣して"アイツら"を作ったときの記憶が蘇る。
オリジナルの俺が能力模倣の技が無かったり戦闘能力が低い理由?知るかボケ。俺自身を模倣したら元々持ってた一握の破片はデスサイズを振り回す訳わからん能力に変わってるし…。どういう訳かこっちが知りてぇわ。
第一、お前ら一握の破片を取り込んだ記憶無いって言ってただろ。それで自分がオリジナルだと思えるって馬鹿なの?あー思い出してたらまたムカついてきたわ。そんな感情に支配される中、ステラの頭が後から来た女の能力によって吹き飛んだ。
"ステラ"まで殺られてんじゃん!グテラ作る前に死ぬとかアイツまじでポンコツだったな…。つーかどっちも殺られて俺どうすんだよ!?
…いやいや落ち着け?
"模倣人形"が二人共殺られんのは初めてだし完全に想定外だが俺が今やるべきは要保護記録者の抹殺。目的を見失うなよ?
『要保護記録者位置解析完了。座標を送る。』
染色者から送られてきた座標を確認する。あー…やっぱこの自殺騒ぎで結構遠く行ってんなぁ…。よしそんじゃ向かうとするか。模倣人形共が消えて自由に動けるようになったことだしな。能力によって半霊体化した身体が部屋の壁をすり抜ける。
それにしても何でグテラはあのしょぼい炎に焼かれたんだ?十二個の時は弱いんじゃないのか?他の技は置いといてあの技については十分理解したつもりだったが…。まぁ今となってはどうでもいいか。
俺の時の瓦礫、"痕跡模倣犯"は実行犯二人と計画犯一人の三人一組。尤もアイツらは俺が作り出した模倣品にしか過ぎないが。
オリジナルである俺が死なない限り模倣品のアイツらは互いを模倣し続ける。最後ステラに張り付いてた葉っぱは…攻撃…だよな?もしかして能力の仕組みに気付いたのか?
模倣する能力は自身とその姿を映す対象の間にそれ以外のものが映り込むとエラーが起きて模倣されないっていう欠点がある。グテラが最初に現像失敗だ何だって呟いてたのを聞かれたか?アイツら常に喋ってないと死ぬのかってぐらい余計なことまで喋るからそういう所も嫌いなんだよな…。
だが俺の……基、模倣人形達の"能力を模倣する技"の仕組みの方はまだ理解できていないはず。せいぜい模倣人形が認識した時点までの能力を模倣する能力とでも思ってるだろうな。まぁ当たらずとも遠からずといった所だが…。
認識するのは模倣人形じゃなくて俺。俺が認識している時点での能力が、模倣人形が痕跡模倣したタイミングで発現する。
アイツらはそのことに気づいてねぇから俺がいくら"まだ痕跡模倣するな"と言い聞かせたところで言うことも聞かずに先走って痕跡模倣しやがる。俺よりも能力やら肉体のレベルやら上回ってる部分があるのにどっちも救いようのない馬鹿なのはなんなの?馬鹿なのか?
いや。もうあんな奴らの事を考えるのはやめよう。
今は要保護記録者の抹殺が第一。
アイツらを作る際に何故か効果が変化しデスサイズを具現化する能力として発現した俺の一握の破片の本当の名は"痕跡隠滅"。
その効果は游咏魚内に元々存在する物体を干渉なく通り抜けられるというもの。しかも能力発動時は完全に透明化するので敵に見つかる心配も無い。半霊体化と言っても記録の部外者からの攻撃は喰らうので注意しなきゃいけないがそもそも見えないのでそのマイナス要素もゼロに等しい。
そろそろ正暦保全者の連中も要保護記録者を捕捉した頃か?残念だがそれは無駄足に終わる。障壁関係無く目的地まで真っ直ぐストレートの最短距離で向かう俺には決して追いつくことは出来ない。それに俺が残ってるとも知らず全ての壊変者を倒したと思って油断しているだろうしな。さてと、あと30mか…。ん、何だ?
視界を埋め尽くす立ち眩むほどの煌々とした光の後に、腹の底に響くような轟音と激痛が感覚を刺激する。理解が追いつかないまま反射的に痛みの元を目で追うと膝から下がまるっと消し飛んでいた。あまりの激痛に"痕跡隠滅"が解除されビル内の一室の中で姿が露見する。
「バンビちゃん!本当にいたよー!本体は黒髪なんだねー。」
「ちょっとリリーさん速すぎますって……。」
馬鹿みたいに明るくて身長のあるエメラルドグリーンの長髪女とThe真面目って感じの男がビルに空いた穴から姿を現す。こいつらどうやって俺を見つけた…?ビルの中を移動していた上に透明だったんだぞ?しかもピンポイントで狙えるか?つーかさっきの光は何なんだ?俺の顔に張り付いた警戒と疑問の表情を見て女が口を開く。
「どうやって君を見つけたか気になるでしょー?バンビちゃんの通信の声聞こえないだろうしリリーが代わりに伝えてあげるね。
『貴方のトレイス体を構成する痕跡索は解析済み。姿を消したところで一度補足した相手を見逃すような私じゃないわ。見つかったのが私で残念ね。敗因は…そうね。あなた風に言うなら"見せ過ぎた"って所かしらね。』
だってさー!」
ははっ。確かに見せ過ぎた…な。先を失った膝から血がとめどなく溢れ出ている。
待てよ…俺が見つかった理由はそれで納得がいく。だがこいつらがグテラを倒せた理由がまだ分からねぇ。どうしてあの小さい炎二つだけでグテラは焼け死んだんだ?満身創痍の脳でそんなことを考えていると女がニヤけ面を浮かべ再び声を上げる。
「金髪の彼!…えっと名前……金髪くんがどうしてやられちゃったかも気になるんでしょ?模倣犯くん悪い子だけど戦うの楽しかったから教えてあげるー!ミッチー愛憎夜廻道中出してっ!」
その言葉で男が能力を発動させる。俺の周りを囲う十二の燭台。これまで見てきたものとは異なっていて、その中の二つにだけ炎が灯り他の燭台は火が消えていた。女の頭上にある黒く淀んだ雲が晴れ合間から光が差すと、残り十本の蝋燭に煌々と火が灯る。
「実はリリーさんも炎が使えるのでしたー!」
褒められるのを待ってる犬みたいなアホ面を俺に見せて嬉々としている女。なるほどな。ちゃんと最後まで"見れば"よかったよ。
「まだ強い人は沢山いるって…自分はまだまだ弱いんだって勉強になりました。成長させてくれて有難うございました。」
傍らにいた男が俺に頭を下げる。敵に頭を下げる馬鹿がいるかよ。俺の模倣人形もこいつくらい真面目だったら結果は変わってたかもな。
……いや。持ち物は持ち主に似るって言うし俺のせいか。グテラが言った通り前線はアイツらに任せきりで俺自ら戦ったことは一度も無かった。俺が前に出てサポートしてやれてたら…なんて今頃考えたところでだな。
俺を弔うように囲っていた燭台が一つに集約されその炎が三頭の猛牛となって俺の方に向かってくる。
俺の無限の魂は眩い炎に包まれて淋しさと共に燃え尽きた。
■一握の破片の保管箱
【曲名】
痕跡隠滅
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点 1947.06.25
インドネシア バリ州 デンパサル "ヴァジュラ・サンディ"
エピソード名 "木陰で動かぬ待ち人ひとり"
(原本・虚像拡張投影機から引用)
【所有者】
ヌテラ・ナドバンク
【原本】
曲名・虚像拡張投影機
所有者・クロエ・ガゼルゴール
【効果】
自身の体が透明・半霊体化し、游咏魚内に元々存在する物体を干渉なく通り抜けられるようになる能力。記録の住人以外からの攻撃は受ける。能力を解除するまで何かに触れることは出来ない。
【曲名】
痕跡模倣犯
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点 1872.11.24
フランス オー=ド=セーヌ県 パリ "ポルト・ド・ヴァンヴからレモン・ロスラン通りにかけて"
エピソード名 "ひび割れ窓と穴空きキャンバス"
【所有者】
ヌテラ・ナドバンク
【効果】
鏡やガラスなど全体像が映る物に向かって両手でトリミングポーズをすることで自身の複製を作り出す能力。(片手でも複製は作成可能だが、両手で作り出したものに比べて性能が落ちる。)自身とその姿を映した対象の間に他のものが入り込むとコピーは失敗する。(コピーは失敗しても再試行可能だが、一度成功すると一週間経つまでコピー能力は使えない。一週間経過した場合でも作り出した複製がまだ現存する場合はコピー能力を使うことが出来ない。)
作り出された模倣人形は能力所有者が持つ他の時の瓦礫等の能力も有しており、能力所有者の思考をベースにして自律的に動く。(模倣人形がコピー出来るのは能力所有者同様一つまでだが、コピーまでの一週間のインターバルは無いため、複製したものが壊された時点でコピー可能。)
模倣人形に限り相手の能力もコピーすることが可能だが、能力所有者がコピーする能力について認識している範囲でのみ発現可能。(模倣人形がトリミングポーズをした時点でその判定が発生するため、それ以降に新たな技を見たとしてもその技は模倣人形には反映されない。また、相手の能力の発動条件と大きく異なる場合にはコピーした能力は発現しない。)




