風前の灯火
「あーーやっぱ片腕だとバランス狂うな。」
こちらの愛憎夜廻道中の炎を手にしたデスサイズで弾きながらそう呟く敵。金髪に模倣された、自分の能力によって作り出された炎を敵影に潜って躱す。
影音刺で右腕を失ったその体に貫こうとするがデスサイズによって阻まれる。第二撃が来る前に再び影に潜り元の位置へと戻る。
"丑三つ円狀儚"で決めたいところだが自分のトレイス残量も残り僅かとなってきた。技の使い所をしっかりと見極めないと。ふと左方で繰り広げられる戦いに目を向ける。そこでは留さんの能力を奪った銀髪と送られてきた痕跡生物が交わり合っていた。
条件はよく分からないが留さんのログアウトを境に敵は身を任せてを使うことをやめ、デスサイズ一つで身に迫るアスバモンクに立ち向かっていた。
「何なのコイツら!?数もやたら多いし滅茶苦茶素早くて全然刈り取れんけど?」
アスバモンクの役割は壊変者が落とした装備品や時の瓦礫などの回収。留さんが言っていたように戦闘用ではないもののその与えられた役割から敵に捕まらないために速力を上げて作られた痕跡生物だ。それが結果的に功を奏して銀髪をこちらに近付けない現状を作り出している。再び目の前の金髪の方を向く。
それにしても敵のトレイス量の多さは何なんだ。あのデスサイズは恐らくだが具現化する度にトレイスを消費するタイプ。序盤にあれほど投げていた上に愛憎夜廻道中のβSide Codeも使っている。それなのにも関わらず模倣した自分の能力を解く気配は無い。愛憎夜廻道中は使用している間常にトレイスが消費される。敵はその事にも気付いているはずだが……。
自分の周りを取り囲む燭台が二つに集約しその炎がこちらを狙う。流石にこれは避けないとまずい。そう思って潜った先では待ってましたと言わんばかりにデスサイズを振り下ろしていた。影音刺を構えるのが遅れたっ!今戻ったところで向こうには致命傷になり得る二つの炎が待ち構えている。移動時のラグで上手く躱せるか…?その判断の僅かな遅れさえ命を刈り取るには十分だった。
───………。
「だから追加コンテンツはいらないんだって……。」
深く刺さるはずだったデスサイズは敵の言葉と共にあらぬ方向へ弾かれてその姿を消す。秋風が時折強く吹くこの場所にそれとは違う風切り音が割って入ってくる。
「お待たー!ピンチに駆けつけちゃうカッコいいリリー先輩が来たよー!」
右側から現れたリリーさんの手には風の刃が渦巻いていた。先程デスサイズを弾いたのはその風の刃だった。
「敵の"核"の方はこちらの金髪の方です。」
「おっけー、バンビちゃんから聞いてるよー。あっそうだ!」
(ミッチーさぁ───……。)
(やったことはありませんが……何とかします。)
思念受胎種を通じて伝えられる一つの提案。確かにそれなら敵の意表を付けるかもしれない。ギアを一つ上げる。ニ対一の構図にも関わらず、敵は諦める様子もなく自分には愛憎夜廻道中をリリーさんにはデスサイズを向けて応戦していた。
影に潜って仕掛けるもいつもの如くデスサイズで防がれる。その矛先がこちらに向いた隙を狙ってリリーさんが風刃を放つが既のところで躱していく。間違いない。こっちの方は銀髪よりも身体能力が圧倒的に高い。
「おっとー…これはちょっとヤバメかも…」
敵は愛憎夜廻道中を使う相手を自分からリリーさんに変えると同時に三つに集約させた炎を襲わせる。風の刃で何とか二つを相殺させたが残る一つは消すことが出来ず、トレイスで硬質化させた腕で凌いでいた。
表情から察するにそれを続けることはトレイス体が破壊される危険性を孕んでいることを意味しているようだった。リリーさんから思念受胎種を通じて指示が飛び、それに対して目で答える。敵を囲うのは十二の燭台とそれに灯る炎。不規則に放たれたそれが敵を襲う。
「お前この能力の使い方まじで下手すぎて笑うんだけど。初心者かよ。俺が手本を見せてやるよ。
βSide Code 丑三つ円狀儚 "丑三つ蝋"」
これまでよりも多くトレイスを込めたのか自分の炎の攻撃よりも早く放たれた蝋牛はリリーさんを完全に捕縛する。迫る炎を弾きながら敵が語りかける。
「はい追加CPU無効化ー。次は君ねー。」
放たれた炎は全て弾かれ残る炎は二つ。敵がそれに触れたと同時に身体は業火で焼かれ残る一つが身体を打ち砕く。愛憎夜廻道中の炎は集約させるほど大きくなる。しかし敵を囲っていた十二の炎は皆一様に小さく、簡単に弾かれるような矮小なもの。だが簡単に弾かれていたこれまでの炎とは明らかに様子が違っていた。魂を失ったその身体は解け時の瓦礫へと変化していく。それを見ていた銀髪が半笑いで口を開く。
「何やってんのお前ー。これまでサボってた癖にサクッと死んでんなよ。」
そう呟きながらビルの方へと向きを変え"あのポーズ"を取る。金髪が消滅したのに銀髪が消えない…。模倣能力はこいつも持っている…?リリーさんの能力もある程度見られた今、もし模倣されたとなるとトレイスが満タンの敵が今日は曇り空を携えて生まれることになる。
「"痕跡模倣"」
しかしその敵影がそれ以上増えることはなく、アスバモンクによって取り押さえられる。どこからか現れた木の葉が敵を囲うように待っていた。明らかに不自然な動きをしていることから能力であることは理解出来たが誰のものかまでは分からない。
「残念だったね"模倣犯"くん。」
リリーさんの頭上に浮かぶ能力によって作られた雲の隙間からは光が差していたがその光は厚くなった雲に閉ざされ、リリーさんの手から放たれた風刃が不死の敵の命に終わりを送り付けた。
「さぁー、要保護記録者の解析も終わったことだし助けに行こうか。」
リリーさんと自分はビルへと向かって歩き出す。




