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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"朝九時のお立ち台"
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無傷の覚悟と俺なりの覚悟

そんな話の最中、映像は"ある場面"で止まる。そこには貉さんとタカ丸くんと……魂を失い時の瓦礫へと変わっていく転天くんが映し出されていた。


正暦修復者(リーダー)っていうのは楽な仕事よね。ここにいる限り傷を負うことも無ければトレイスが尽きたところで死ぬことも無いんだから。


そんな安全な場所にいる私達が現場で命を張る正暦保全者(彼ら)に何をしてあげられるのか考えたことあるかしら?コーヒーを奢ってあげる?労いの言葉をかけてあげる?どれも違うわ。


私達が賭けなければならないのは、どんな手を使ってでも正暦保全者(彼ら)游咏魚(レコード)を守るという覚悟よ。」


僅かに声を荒らげた小鹿さん。咳払いを一つして元のトーンへ戻る。


「でも私達だって人間よ。ミスをすることだってあるわ。そのミスが原因で人を死なせてしまうこともね。


だけどその"原因"を作ってしまった子に対して"仕方ないよ"なんて甘ったるい言葉を掛けるのはその子の覚悟を嘲るにも等しい行為よ。その言葉で仲間が戻ってくるわけでもないのにね……。」


小鹿さんは俺の方を向き俺の目をしっかりと見て、俺の全てを見透かしたように広角を上げながら問いかける。


「今にも崖下へ落ちそうな絶望の岸壁に立つ千鶴さん(彼女)に手を差し伸べたくて、気分転換させてあげるために彼女を講習会に呼んだんでしょ。違うかしら?」


いやいや……この人何処まで見通してるわけ……?なんか怖いわ。


たしかに俺は講習会が開かれたあの日、"あれ"以来すっかり元気の無くなった万梨ちゃんを何とか元気付けたくて彼女の気分転換になれば、なんて思って無理矢理連れ出した。


万梨ちゃんの修復記録書を見ていて気付いたが、以前は一月に四十八件こなしていた業務は"あの日"を境に一月三件程度にまで落ち込んでいた。


しかもその三件でさえ二つは游咏魚を奪われる寸前まで行き、残りの一件に至っては壊変者()に游咏魚を奪われる結果となっている。その一件のせいで現在は自宅待機命令が出され、仕事をすることさえ困難となっている。小鹿さんは万梨ちゃんのことを心配してか淋しそうに心を震わせて声を紡ぐ。


「彼女はね……充電中なのよ。でも強い子だもの必ず帰ってくるわ。あの子が帰ってくるまでその場所を守っていてあげましょ。


……でも残念ね。私の方はもう手一杯なの…だからこの"仕事"は貴方にお願いしてもいいかしら、期待の新人さん?」


「当たり前じゃないっスか!期待の新人ッスからね…。游咏魚も正暦保全者も正暦修復者も万梨ちゃんも全部全部守ってやろうじゃないッスか!」


知らず知らずの内に溢れていた良く分からない涙を拭ってその期待に俺なりの答え(覚悟)を示す。



辺りを見回すといつの間に呼んだのか応援の正暦修復者達が敵の解析作業に掛かっていた。


「そっちの情報は?」

「間違いないです。やはり本体は…」

「リリーさん現着です」


そんな言葉が飛び交う中で小鹿さんが口を開く。


「そういえば貴方、一握の破片を持ってるわよね?詳しい能力(内容)教えてくれるかしら?」


「あーあれっスよ?俺の能力使ってどうこうしようって考えなのかもしれないっスけどホントしょうもない能力なんで……。俺のは色を自在に変えられる木の葉を作り出すって能力ッスね。


ご察しの通り戦闘用じゃなくて、森の中とかで隠れるときとかに使う能力らしいっスけど……。葉っぱはある程度操作可能ですけど言ってもただの葉っぱなんで。残念ながら攻撃力は皆無なんで。役に立たなくてすんません……。」


「いいわ……。能力を使う覚悟をしてなさい。」


「え?」


思ってもいなかった返答に思わず声が出る。能力を使う覚悟をしなさいって言ったのか?いや小鹿さん正気?あんな炎やら方向操作やら人間離れした能力が飛び交う戦場で葉っぱ舞い散らす能力の出番なんてどう考えても無いッスよ?ピチピチの新人正暦保全者の俺でも分かることっスよ?もしかしてこれも小鹿さん流の冗談だったりする?いや…まぁ葉っぱ舞い散らす能力も人間離れしてるといえばしてるッスけど……。


そんな考えを巡らせる俺の方を怪訝そうに向きながら再度言葉を放つ。


「聞こえなかったの?能力を使う覚悟をしてなさいって言ったのよ。貴方の能力を使って勝ちに行くわよ…ってね。」


小鹿さんは少しだけ笑顔を見せるとまた前を向き解析を続けている。戦闘は更に激化し、留さんの方はもう殆どトレイスが空になっていた。小鹿さんは床下から迫り出してきた備蓄ボックスに入った数匹の痕跡生物(ケラートデイト)にトレイスを加えると正暦修復者(能力)を使って游咏魚内に転送させる。


「それに貴方勘違いしてるようね。」


「え?」


思わず漏れ出る声。なんか俺やらかしました?勘違い?やっぱさっきの冗談でしたってこと?そんな考えを巡らせる俺の方を今度は向かずに、ウインドウの方を向いたまま答えを示す。


「入れ替えるのは千灯君の方じゃなくて流々川君の方よ。」


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