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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"朝九時のお立ち台"
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正体と空っぽ

脇見をしている所を狙ったのか金髪()の手からデスサイズが放たれる。当たれば致命的だが躱すには十分な距離。さて、そろそろ仕掛ける(潜る)か……。その鎌の通り道から体一つ分左へズレる。


───っ!


次の瞬間、"見えない力"に身体を動かされ鎌が屠る範囲へと戻されていた。影に潜って逃げようにも留められているためそれは叶わない。鎌の先に見える金髪が広角を上げ卑しく笑っているのが目に入る。それよりも何故留められている?その能力を持つ銀髪は留さんが対応してくれているはず……。


視線を左方へ向けると留さんに撃ち抜かれ、ビルにめり込む敵の姿があった。成程、攻撃を食らうのと引き換えに自分(こっち)を留めたのか……。留さんはその一戦でトレイスと体力を消耗したのか地に膝をついて肩で息をしていた。再び視線を迫りくる鎌へ向ける。


トレイスで硬質化させた腕で防げるか?いや、受け止めたとしてもあの鎌には"第二撃"がある。腕を犠牲に本体(金髪)を狙うか?もしあれに込められたトレイスがこれまで以上でこの先戦うことが不可能なほどの想定外の傷を負ったら?


合法治験薬(ヨクナール錠)一握の破片(デブリスコピー)を懐から取り出し、近くに来ていた記録の住人(クロノス)へ投げる。今からでも間に合うのか?こんなことになるなら始めから使っておくべきだった。今の自分に残された硬質化した腕という武器でそれを迎え討つ。


無惨にも引き裂かれ身体の奥深くまで突き刺さる刃。デスサイズは後方に停めてあった車に突き刺さって止まっていた。


「あいつまだトレイス残ってんのかよ……死ぬなら枯らしてから死ねよな。」


金髪が左方を見て呟く。自分もそちらに目をやると留さんが何とか立ち上がりこちらへトレイスを送っていた。


「悪い…"今ので"空だ。」


その言葉で何が起こったのかを理解した。デスサイズが直撃する寸前に留さんが自分に植え付けた核を操作して、留められた場所から引っ張り出した…といった所だろう。


「まぁ躱したところでって話ですけどね。


裏面解錠(リメンカイジョウ) "丑三つ蝋(ウシミツロウ)"」


自分を取り囲む燭台が一つに集まり、真鍮の美しい角を携える白濁色の牛へと変わる。三方から迫るそれは狙うべき的を見失い足を止める。それは敵影から姿を現した。標的を見つけ再度走り出す蝋牛(ロウキ)達。


裏面解錠(リメンカイジョウ) "丑三つ烽(ウシミツボウ)"」


「だから…聞いてねぇんだって!」


異質な敵を前に警戒し過ぎていた。敵の能力は模倣能力?決着が付く今となっては関係の無いこと。何故今まで気付かなかったのか。敵の能力は恐らく"見た能力を模倣する能力"。しかしそれは完全に模倣するという訳ではなくあくまでも見たものに限るということ。


その証拠に敵は愛憎夜廻道中(コイウラナイ)の影に潜む能力を一度として使わなかった。認識することが条件かとも思ったが、一度潜って見せた後にも使わなかったことから一度模倣してしまうと後から変更するという事は出来ない様子。


それに今の動きだって自分を仕留めるのが目的の筈なら捕らえるよりも攻撃に特化した丑三つ烽の方が良かったはずにも関わらず、あえて丑三つ蝋を選択したということはそれしか知らなかったからと理由付ければ全て辻褄が合う。


それに留さんの身を任せて(ユアスウィーパー)を模倣した銀髪の方も胸に核を与えそれを操作すると認識していたから膝と肘にも核が置けるという事実に気付かず、ほぼ一方的にやられる展開になってしまっていた。


そして"不死の能力の正体"。恐らくそれはこの金髪の方が核だということ。何体も現れた銀髪に対してこちらの金髪は後から現れ、やけに攻撃を受けることを嫌う節が見受けられた。つまりこちらを仕留めれば不死に終わりが訪れる。


敵は迫る三頭の攻撃を具現化したデスサイズで弾く。第二撃のおかげもあり二頭までは打ち消されてしまったが、残る一頭が敵の右腕を喰らい肩から先を焼き切った。敵は声にならない声で呻りながらビルの方へ近付いていく。残った左手で例のポーズを決めると同じく右腕を失った銀髪の敵が現れる。


「何個後出しすれば気が済むんだよ……一度販売したパッケージにアップデートっていう名目で後からコンテンツ売り付けるみたいによぉ……そういうやり口好きじゃないんだけど…。」


「生まれた瞬間難易度ハードモードなんですけど?何でお前までやられてんの?何?寝てた?そもそも……」


掛け合いを見せる敵を前に、合法治験薬のD:Cを取り込んだ記録の住人によって歩けるまでに回復した留さんが立ち上がりこちらに声をかける。


「いいかよく聞いてくれ?俺は今からログアウトする。回復したとは言ってもトレイスは空だし、残った所で役に立たないからな。俺のトレイスが減った分の容量を使って痕跡生物(ケラートデイト)が既に送り込まれてるはずだ……まぁ戦闘用ではないけどな。


代わりの正暦保全者(レコーダー)が送られてここに来るまでの間、千灯一人で耐えられるか?厳しいならこの游咏魚(レコード)は諦めて敵に渡すしかない。そうなったら正直かなりの痛手だが千灯(お前)をここで失うことで、救えたはずの他の游咏魚まで奪われる方がダメージが大きいと判断した。どっちを選ぶか今決めてくれ。」


神妙な面持ちでそう問いかける留さんに笑って返す。


「自分に聞く必要ありますか?」


それを聞いた留さんの表情も綻び、分かっていたと言わんばかりに言葉を返す。


「まぁお前ならそう言うだろうな。次会うときは"食堂"だな。勿論俺の奢りでな。」


親指を立てた留さんが水に落ちた墨のようにゆわんと広がって消えていく。自分の周りにはアスバ(Usbac)モンク(Monk)を始めとした痕跡生物が敵を囲うように弧を描いて並んでいた。


「よし、行こうか。」


痕跡生物達と共に不死の秘密が暴かれた片腕の二人と激突した。


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