痕跡模倣
「これイキってるみたいでハズいから嫌なんだよなぁ……。勘違いすんなよ?やりたくてやるわけじゃないから…。」
「"痕跡模倣"」
敵は両手の親指と人差し指で作ったL字を重ねて四角を作りそれをビルの窓ガラスへと向けていた。止んでいたビル風が再び強く吹き荒び街路樹が揺れる。
「ん?あぁ、現像失敗か。"痕跡模倣"」
再び言い終わるのとほぼ同時に金髪の男の横に現れた"五人目"の銀髪の男。二人は不敵な笑みを浮かべるとこちらへ向けて先程と同じ流れをしてみせる。更に倍に増えるのかと思い周囲を見回してみたが大きな変化は見受けられない。金色の方が口を開く。
「今までは"見てるだけ"で良かったのに、"見すぎた"せいで二人だと収まんなくなって結果一人でやる事になったのはツケが回ったっていうやつなの?……あれ?そういやまだ名前言ってなかったっけ?
俺はグテラ・ガドバンク。フッ…やってみたかったんだよねこれ。あー大丈夫。別に俺に合わせて名乗んなくていいから。だってそっちの演出の方が俺が格上っぽいっしょ?」
「おい先に言うなや!俺はステラ…」
「お前は馬鹿なんだから自己紹介とかしなくていいんだよ。」
「は?アホみたいな髪色して何いってんのお前?馬鹿はお前だろ?にしても人多すぎん?こんな時間から働いてマゾいなコイツら…。」
「いやー眩しい…ちょい日陰に入りたいわ…。僕は日陰を愛してるし向こうだって僕を愛してくれてるはず…次生まれ変わったら日陰になろ…。」
金色に続いて銀の方も口を開くが戦闘には関係の無い事を連連と並べていた。それにしても何だこの違和感は。一人の中に複数の人格があるような脈絡の無い会話からそれを感じ取る。不可解な言動を前に硬直していた自分を醒ますように留さんから声が掛けられる。
「気付いてるか千灯……俺たち"留められてる"ぞ…。」
その一言で動けなくなっていることに漸く気付く。動けないと言っても、ビルから落下した時のように胸を留められているだけで手足は動かすことが出来るが……。敵はそれを見て小馬鹿にしたような笑みを見せると、自分の周りに見慣れた"それ"が浮かび上がる。
無重力の中で浮かぶように揺らめく十二個の燭台。胸を固定されているため真後ろを見ることは叶わないがそれは間違いなく自分の愛憎夜廻道中だった。
後方と前方から鳴る衝撃音。向かって左側にいた銀髪の方が、見えない力に弾かれてビルのガラスに叩きつけられていた。もう一つの音の正体を確認するために振り向くと留さんが道路脇に停められた車に叩きつけられ、側面が大きく凹んでいた。潰れた車の屋根に手を掛けながら立ち上がる留さんが言葉を飛ばす。
「千灯悪い。銀髪の方は俺の方で対応するが流石に二人は残り的にキツい……金色の方は頼んだ。」
恐らく銀髪に能力をコピーされて、ほぼ同時に能力を使用し弾きあったというところか。
そして自分の能力は金髪にコピーされた……か。それについて深く考える間もなく燭台の炎が自分を襲う。身を任せてをコピーした敵が攻撃を受けたせいか"留める"能力は解除され身体の自由は戻っていた。六つに集約した炎が時間差で放たれる。
愛憎夜廻道中は一見攻撃特化の能力のように見えるが実際は攻守一体の万能型。自身の身体が強化されるわけでは無いので範囲攻撃には成す術がない。……その攻撃が当たればの話だが。放たれた六つの炎は空を切り、延長線上にある物にそれぞれぶつかって消えた。
「クソっ、聞いてねぇぞ!」
金髪を囲む六つの燭台。その炎に落とされた影から燭台が変化した槍"影音刺"でその身を刺す。穿くつもりで放ったが思いの外反応が早く脇腹を齧るだけに終わる。敵はデスサイズを具現化させ弾こうとしたが、攻撃を受ける前に影に潜り、元いた場所へ戻って攻撃をやり過ごす。
「いや、普通にウザ……イキって後出ししてんじゃねぇよ……。」
敵は負傷した脇腹を抑えブツブツと呟いている。まさかこんな形で"感謝"する日が来るとは……。
愛憎夜廻道中の欠点は瞬間移動の様な能力を使用する相手には対応出来ないという点。敵を囲う燭台は自動で追尾する性能を持つが、瞬間的に移動する様な能力にはどうしても追尾が遅れてしまう。故に先程のように攻撃から逃れることも可能となる。
自分を囲う燭台の輪から不規則に放たれる十二の炎。この程度であればトレイスを集中させ硬質化した腕で弾くことは可能。影に潜る技を初めて見せたこともあり敵はそれについても警戒を高めているはず。潜るタイミングを間違えれば逆にカウンターを喰らうことになる。敵の様子を伺いつつ飛んでくる炎をいなす。
「いやいや、全部"見た"んじゃないんですか?」
留さんと銀髪が対峙する左方から聞こえる敵の声。互いに留め合ったところで、自身に作り出した核を操作すれば動く事が出来る。そうなってはトレイスの無駄だと思ったのか互いに能力を解き近接戦へと移行していた。
その手に握られたデスサイズに対して判撃で応戦する。敵の動きから察するに肘に埋め込んだ核を操作しデスサイズの攻撃を揺らす。そうして出来た隙の合間を縫って判撃を撃ち込んでいく。それだけではなく防戦に回った際でも残しておいた判撃を発動させ相手の態勢を崩すことで一瞬に攻撃側へと転じることが可能だ。ほぼ一方的な戦況からすると向こうの決着がつくのは直ぐのようだ。




