金と銀
───っ!
ぶつかったと確信したはずの炎はデスサイズに弾かれ、敵は無傷のままいつもの気怠げな表情を浮かべている。だらりと垂れたその手にはデスサイズが握られていたが、炎を弾いたのはそれではなく"それを追う残像"だった。
燭台の炎が敵に当たる直前。先程の太刀筋をなぞるように現れた残像は、迫る炎を弾くと本体であるデスサイズと一体化して消え失せた。
「千灯、一度能力解くぞ。」
長くなることを見据えてトレイスを温存するために留さんが身を任せてを解く。固定から開放された敵は歩道に転げるとデスサイズを支えにしながら嫌嫌立ち上がる。
「あー。負け試合だって分かってんのに戦わなきゃいけないってマジでしんどいんだよなぁ…。立つのさえダルくなってきたわ。」
開放されたのにも関わらず攻撃する素振りは見せない。地面に立てたデスサイズの柄の先を両手で抑え、そこに顎を載せてこちらを見ている。
「一回デスサイズごと捕まえてみるか。"あれ"いけるか?」
その問いに愛憎夜廻道中で応える。
「裏面解錠 丑三つ円狀儚 "丑三つ蝋"」
敵の周囲に発現した燭台が一つとなり更に変化を重ねる。その炎は蝋の体を持つ三頭の蝋牛へと変化すると、間を開けず敵目掛けて突進した。燭台の炎を弾いたことから今回の攻撃もそのような行動を取るかと身構えていたが、敵は蝋牛を見ているだけで動く素振りすら見せなかった。頭だけを残し身体は完全に蝋の中へ閉じ込められる。
そこにあるのは変わらぬ気怠げな表情。だがβSide Codeを発動させた瞬間からその瞳の奥にこれまでとは異なる決意や覚悟のような僅かな熱を感じた。それが勝利を欲する熱意だとするならば、先程のあれも"動けなかった"のではなく"動かなかった"のかも知れないという疑念が浮かんでくる。
「うっわ。さっき以上に全然動けねぇなこれ。光の速さで詰んでて笑うわ。え、待って。もしかして見逃してくれる系だったりする系か?いや、逆に顔面ぶん殴られる系?死体蹴りするタイプ?」
唯一自由な空いた口から戦闘中とは思えない、親友との会話のような言葉が絶えず吐かれ続ける。警戒しながらも留さんと共に距離を詰めていく。自分がこれからどうなるのかの間で揺れる喜憂の表情は次の一言の後に哀へと変わる。
「フッ。お前が殺んのね。」
意識外から飛んできた"それ"に刈り取られた敵の首が歩道に転がる。魂を失ったトレイス体は徐々に解けて時の瓦礫へと変化していく。異質な敵に動揺して忘れていた先に死んだ二人の方を見ると同じように解け時の瓦礫へと変化していた。
───っ!
それを手にしようと足を一歩踏み出した瞬間、"三人目"を屠った鎌が飛んできた先から再び放たれた鎌によってその二枚は粉々に打ち壊された。それとほぼ同時に三枚目を狙って放たれた鎌。しかしそうなることを予見してほぼ同時に飛び出していた留さんが時の瓦礫を確保し、保有していた痕跡生物へ渡す。留さんのトレイスが注がれた猿に似た痕跡生物は1m程まで身体を肥大させると、時の瓦礫を体内に終いこんで游咏魚の外を目指して去っていった。
「回収した壊変者の時の瓦礫をアスバモンクに持たせたんで解析お願いしますね。」
『全部割られたー、とか思っちゃいましたよ!流石っスね!』
「だろ?先輩のカッコいいとこよく見とけよ?」
「そっちは楽しそうでいいっすね。アットホームな職場ってやつ?いやいや冗談っしょ。同じ人間ぶっ殺しといてアットホームとかよく言うわ。」
好転しつつあるこちらの雰囲気を落とすかのように陰鬱な空気を纏って、鎌が飛んできた右方から男が現れる。同じ声色のその人物は予想に違わずこれまでの男と同じ容姿をしていた……その金の髪色を除いては。その男は両手をポケットに入れたままゆっくりと近付きながら話し始める。
「名作っていうのは毎日見たって見飽きるなんてのは無いわけ。シャングリラ・パルテノン然り風鳴島とメル然りよぉ。それに比べてアンタらはどうなん?まーじで見飽きたわ。まぁ"当たり"みたいだしその分早く帰れるからいいか。」
男は訳の分からない語句を並べてこちらを蔑む。一度近付いたものの今度は自分達に背を向けビルの方へ向かって歩き出した。留さんを確認するとまだ攻撃するなという言葉を目で話す。確かに留さんの身を任せてなら敵が動き出してからでもそれより先に捕らえることは可能だ。そんな視線のやり取りを盗み見るわけでもなく敵の話は続く。
「例外は少なからずあるにしてもやっぱアニメより原作な訳よ。静止画に宿る躍動感。漫画だからこそ表現出来る感情の機微。原作こそが至高なんだよなー。アニメの中割っていうの?その役割は分かるけどなんか本能的に受け付けないんだわ。まぁそこだけ抜き取って作画崩壊だ何だって騒ぐ馬鹿の方が受け付けないけど。」
隙だらけの口舌を垂れる敵を前に我慢出来ず四つに集めた炎を放つ。しかしそれは影から飛び出してきた四人目の"銀髪"の男に受け止められ金髪の男には届かない。ビルの前で歩みを止めた敵は恥ずかしそうにこちらを振り返り口を開く。
【曲名】
拡張追撃機
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点 1947.06.25
インドネシア バリ州 デンパサル "ヴァジュラ・サンディ"
エピソード名 "木陰で動かぬ待ち人ひとり"
(原本・虚像拡張投影機から引用)
【所有者】
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【原本】
曲名・虚像拡張投影機
所有者・クロエ・ガゼルゴール
【効果】
攻撃を当てたものに対して追加の斬撃を放つデスサイズを具現化する。一度目の太刀筋をなぞって遅れて発生する斬撃は実体のある残像のような存在で当たり判定も存在する。追斬撃を発生させるタイミングは自身で設定可能。




