まだ見ぬ真実
話は落ち着き、馬淵川さんが再度講習会について話し出した。
「別に講習会自体はいいんスけど、どうにも"正暦修復者"の一握の破片を取り込むのが嫌悪感あるんスよねー…。だってあれって言ってみれば痕跡索の集合体な訳じゃないスか?それを体ん中に入れるってなると…どうしてもウッってなっちゃうんスよね…。」
その一言に思わず声が出る。
「「え…?正暦修復者の皆さんって全員一握の破片の能力持ちだったんですか?」」
重なった声の方を向くと千灯さんと目が合った。知らなかったのは僕だけじゃなかったみたいだ。すると今度は僕等以外のその場にいた全員が顔を見合わせ大きく笑い出す。
「はー可笑しー!リリーちゃんとミッチー本気で言ってんの?最初は知らなかったとしてもどっかのタイミングで知るでしょ?ましてやボクシーちゃんなんてここに来てから半年以上経つのにさー。」
引き笑いを耐えながらルルさんがそれに続く。
「いや、そのタイミングが今ってことなんだろ。まぁ知れて良かったじゃないか。これを逃してたら真実を知るのは何十年も先だったかもしれないな。」
赤面する僕らを見兼ねてヨノマリアさんが助け船を出す。
「もう二人共そんなにからかわないの。そんなに真っ赤にならなくても私が教えて差し上げるわ。正暦修復者の一握の破片は……。」
語りだしたヨノマリアさんを静止するかのように腕を伸ばした馬淵川さんが嬉々として口を開く。
「あーー!ちょっと待ってくださいっス!偉大な先輩方に教えてあげることが出来るというまたとない機会を逃すわけにはいかないっスねぇ!説明は俺に任せてほしいっス!」
その申し出にヨノマリアさんは笑顔で応えその権利を譲った。熱を帯び始めたのかスーツの上着を脱ぐとシャツを腕まくりしながら解説しだした。
「いいっスか?一握の破片"正暦修復者"は游咏魚の中へ介入して中を覗いたり何かを送ったりすることが出来る能力なんスよ。言ってもエピソードを守る膜が開いてるとき限定の能力なんスけど……。」
「箱嵜達はその辺のことどう思ってたんだ?」
「いや……特に何も考えずそういうシステムなのかなぁと…。」
「自分も貉さんに同じです…。」
苦笑を浮かべるルルさんから少し離れたテーブルから微笑みつつヨノマリアさんが続ける。
「でも不思議なところもあるのよね?時の瓦礫から一握の破片を作るのはこの研究所の中にある"時の瓦礫解析複製班"というチームのお仕事なの。けれどその元である"時の瓦礫"が回ってきたことは一度も無いの。初代所長だった一位さんにも聞いてみましたけれどその時かららしいわ。私達がバートンテイルへ来る前に沢山作ってその在庫がまだ残っているという線もあるけれど…何かこう…引っかかるのよねぇ…。
正暦修復者の候補者へその一握の瓦礫を配布する講習会には会長が直々に来て、まとめ役の九麓聡ちゃんへ人数分の一握の破片を渡して去っていくなんて話を九麓聡ちゃん本人から聞いたこともあるし…。謎よねぇ…。」
話を聞いていたリリーさんは飽きてきたのか、"能力"で馬淵川さんと千灯さんの髪を掌から放たれた微風で乱していたが、ヨノマリアさんのその話を聞いて何かを思い出したかのように言葉を紡ぎ出した。
「会長とバンビちゃんといえばさ!皆は会長のローブに隠れてる素顔って見たことある?この前急に気になって頭から離れなくなっちゃってバンビちゃんに聞いてみたんだけど見たことないって言われちゃってさー。ほら?3世代だし知ってるかなーと思ってさ。」
「確かに俺も見たことないし知り合いでも見たことあるって人には会ったこと無いなぁ…。実はトレイス体を持っていなくて痕跡索があのローブの中でうじゃうじゃ蠢いてるとかだったりしてな。」
悲鳴を上げるリリーさんとヨノマリアさんを横目に千灯さんが続ける。
「そもそも会長と憂染さんは普段何をしているんでしょうか?バートンテイルへ流れ着いた人間を保護しているということは自分も知っていますが…それ以外は謎ですよね。憂染さん一人で回収に向かうことも少ない無いようですし…。」
リリーさんに乱された髪を直しながら思い出したように馬淵川さんが割って入る。
「俺も一ついいっスか?噂で聞いたんスけどバートンテイルってレコード盤みたいにまん丸っスけど南側が一部切り取られたみたいに欠けてるじゃないっスか?あれって昔憂染さんが暴れ狂って壊したってマジなんスか?」
いつにもなく真剣な表情で話す顔とは真逆な突飛な内容にそこにいた全員が吹き出すとルルさんがフォローするかのように話す。
「馬淵川お前何処の誰から聞いたんだよそんな噂話。それに例え暴れたとしても喜八の方だろ?」
「ちょ、ちょっと待ってください!皆さん憂染さんの裏人格というか…その…喜八さんのことご存知なんですか?」
僕の驚嘆の音が混ざった問いに申し訳無さそうに千灯さんが答える。
「それは流石に自分も知ってました…。ここにいる全員…というかバートンテイルにいる人なら知らない人のほうが少ないと思いますよ。」
「ま、またー!そうやって千灯さんを巻き込んで僕を騙そうとしてるんですよね?そう…ですよね?」
その問いに皆が一様に首を振る。…そうだったのか。てっきり僕にだけ特別に見せてくれたのかと…。ルルさんはそんな僕をイジるようにニヤニヤと見ながら話を続ける。
「まぁ普段は抑え込まれてる喜八が鬱憤ばらしと嫌がらせのを兼ねて蜂浦さんが寝てる一晩の間であの切り欠きの部分を掘り上げた、ってことなら納得出来る…っていうか、そうとしか考えられなくなってきたな。」
「ルルが蜜蜂くんのことを"蜂浦さん"って呼ぶの何か面白いねー。」
「俺はそういう上下関係ちゃんとするタイプなんだよ。リリーと違ってな。」




