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正暦保全者  作者: あまみ
潜む影と露見する光
41/64

11+1+3

『ヨノマリア所長代理。仮想保全戦闘(オフレコーディング)終わりました!次の相手お願いします!』


部屋のスピーカーを通してヨノマリアさんを呼ぶ声が響く。


「分かったわ千灯(センドウ)ちゃん。次はもう一段階レベルを上げるわね。そうね…せっかくだし"この子"にしようかしら。」


僕とルルさんを見てそう呟くヨノマリアさん。


「あー今日は千灯なんスねー。箱嵜は保全戦闘(レコーディング)が忙しくて他人の仮想保全戦闘見るの初めてって言ったっけ?」


「自分よりランクが上の人の戦闘履歴(ログ)はよく見ますがそれ以外の人のものは時間がなくて見れてないですね……。」


「そうか。自分よりランクが下の正暦保全者(レコーダー)でも色んな戦い方や時の瓦礫(クロノデブリス)があるし見てるだけでも結構面白いもんだぞ。」


"埋葬される小さな魂"のエピソードを終えてから塞ぎがちになっていた僕を見兼ねたルルさんに連れられていつもの"お茶会"に来ていた。研究室のモニターには仮想保全戦闘をする一人の青年が映っている。


映像がアップになりその人の顔がはっきりと映し出されたがやはり見覚えは無い。だけど"千灯"という名前には覚えがあった。そして敵の姿にも…。


作り変えられた空間の中心に立つ男の背中から生える八本の触腕。あれは僕がバートンテイルに来た初日の保全戦闘で流々川さんが対峙した壊変者で確か名前は…バルドゥーヤ・ドープ。


樂奏演戯(ガッソウエンギ) "愛憎夜廻道中(コイウラナイ)"』


敵を囲って円を作るように浮かぶそれぞれ蝋燭を乗せた十二個の燭台。敵を煌々と照らす十二個の炎はその影を色濃く地面に映し出す。


次の瞬間その青年の姿と敵を囲う内の一つが消え、バルドゥーヤの影の中から槍のように変化した燭台と共に姿を現す。手にした武器で異形の体を貫くが見た目の割にそれほど効いていないように見受けられる。


敵はその触腕を払い千灯さんを捉えようとするが難なく交わし距離を取る。バルドゥーヤは血を吐き捨てると触腕を巨大化させ辺りを縦横無尽に叩きつけ先程の攻撃を完全に封じた。


それに対抗するように敵を取り囲む燭台が一つに集まり、蝋燭の火とは思えないほど巨大な火球が燃え上がるとそれが付いた燭台は三つに分かれて何かを型取り始めた。


『馬鹿が。さっきの影に入り込む攻撃と見せてその火の球で攻撃をしたかったんだろうが遅ェしバレバレなんだよ!』


βSide Code(ビサイド コード) “丑三つ(ウシミツ)円狀儚(エンジョウモウ)”』


火球での攻撃を阻止しようと巨大化した触腕で、何かに変化しつつある三つの燭台を壊しにかかるが先に壊れたのは敵の方だった。


異形の体を貫く真鍮の槍。見た目こそ同じものだが先と比較して比べ物にならないほど敵は苦しんで藻掻いている。徐々に広がっていく血の溜。バルドゥーヤは触腕を地面に突き立て何とか立ち上がろうとしていたが暫くすると動かなくなりそのまま消滅してしまった。


空間が真白なものへと戻ると無機質な部屋と青年だけが映し出される。


「千灯ちゃんお疲れ様。最近随分と調子良いわね。次上がれば七位…だったわよね?このペースなら現状五位と六位の流々川ちゃんやリリーに追いつく日もそう遠くはないわ。

でも最後の一撃、敵も千灯ちゃんが影から出てくることを見越して何本か触腕を伸ばして警戒してたわ。一つ間違えれば負けていたのは千灯ちゃんの方よ?敵を素早く仕留めるのは大事だけれどそれは確実な攻撃あってのもの。もう少し慎重になって周りを見る力を付けることが次の課題ね。例の三人も来てるから千灯ちゃんも早くこっちに来るといいわ。」


千灯さんへの総評が終わるのを見計らったかのように一位さんが研究室に入ってくる。目が合った僕等に近づき肩を叩きながら話し出す。


「おー今日もようけ油売りがおるのぉ。……やのうてわしが用があるのはペリドじゃった。こん前の痕跡生物(ケラートデイト)の件なんじゃがの……。」


一位さんの言葉に対して訝しげな表情を浮かべるヨノマリアさん。


「その件であれば以前お話しした段取りで進めていきましょうということになったと思っていましたけれど……。」


その返答を聞いた一位さんの表情にも疑問符が張り付いていた。


「ん、それはどういうことじゃ?わしは今初めて話したんじゃが……。誰かと間違えとらんか?」


「あら?おかしいわね……。ごめんなさいね、それなら────」


戸惑いながらも打ち合わせを済ませると明るくお礼を飛ばして一位さんは帰っていった。一つ溜息を吐いてから僕らを見渡し呟く。


「そういえば今日はリリーはいないのね?」


「リリーは何か用事?があるとかなんとかで来れないって言ってましたね。」


「……そうだったわね。」


その一言に違和感が生まれる。リリーさんが来れないことは今初めて言ったはずだけど……。さっきからどこかで様子がおかしいように感じられる。ルルさんも気になったのか質問を投げかける。


「あら?そうだったかしら?ちょっとボーッとしてただけだからあまり気にしないで。」


どこか暗い影を纏わせるいつもとは違うヨノマリアさんに疑問を感じる。あの表情。前にどこかで見たような気がしたけど誰だったっけ……。ルルさんは特に気にならなかった様子で話を切り替えた。


「それにしても千灯凄いっすね。世代で言うと8世代でしたっけ?」


目の前に浮かぶウインドウを叩きながらそれに答える。


「そうねー。識別番号(ウェイブコード)がbtr:10134810だから流々川ちゃんが言った通り8世代ね。箱嵜ちゃんの正暦修復者(リーダー)の千鶴ちゃんとか少し問題児の馬淵川(マベチガワ)ちゃんの少し先輩になるわ。」


「ヨノマリアさんが言った通りで俺やリリー、ましてや箱嵜を超える日も近いかもな。」


保全戦闘(レコーディング)ランク(チャート)七位。"千灯道景(センドウミチカゲ)"。


所有する時の瓦礫(クロノデブリス)の曲名は愛憎夜廻道中(コイウラナイ)。その能力一つだけで七位まで上がってきた実力者だ。確か能力は……。


「ヤっっバ!いやーヤバすぎて笑えるわ!道景さんの"愛憎夜廻道中"初めてリアルタイムで見ちゃいましたー!ここに来る途中で乱雪さんにも会っちゃったし運良いのかも!?おーし、友達に自慢しよーっと!」


ヨノマリアさんを含めて三人しかいないはずの研究室に響く明るい声。リリーさんのようなタイプだけど方向性は違う…かな。


「びっくりしたぁ…。馬淵川(マベチガワ)お前気配消して現れるのいい加減やめろっつうの。普段は煩いくせに何なんだよ…。つうかお前いつからいたんだよ!」


「まぁまぁ留さんそんなこと言わずにー!バートンテイルの未来を担う注目の若手、この馬淵川南戸(マベチガワミナト)の自慢の"特技"っすからね!いつからいたかって…そーっすねぇ…道景さんがタコみたいな敵と戦い始めた辺りからっすねー。」


スーツ姿に毛先がピンクに染まったシャンパンゴールドの髪は白く染まる街バートンテイルではよく目立つ。この人は千鶴さんの同期で正暦保全者(レコーダー)の適性検査から落ちて正暦修復者(リーダー)になった馬淵川南戸さん。リリーさんとはまた違う底抜けに明るいこの感じは…なんか苦手だ。



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