保全記録"倉木乱雪"
「それにしても暑いねー。少し運動しただけなのに中に着てるのまでびしょ濡れだよ。」
砂浜に散らばる氷漬けの痕跡生物達。砕かれて辺りに散らばったそれが、雲一つない青空に高く昇った太陽によって溶かされ砂浜に水玉を作っていく。
壊変者を片付け要保護記録者を保護した僕は木陰に座り込み記録保護が終わるのを待っていた。
少しでも涼しくなるかと思って、波打ち際を更に進んで海に漂ってみたけど太陽が照りつけるせいでプラマイゼロだね。そんなことを思っているとやっと愛しの正暦修復者様から連絡が入る。
『雪、お疲れ様。今回の敵は"どう"だった?』
「甚もお疲れ。そうだねぇ……思った以上に事態は深刻…といったところかな。もう少し調べてから帰ることにするよ。」
『分かった。記録保護はもう少しかかるよ。壊変者が侵入してくる可能性はゼロじゃないから……って君ならそんな心配いらないか。それじゃあ戻ったら今後の計画を立てようか。』
「計画ねぇ……こっちはバカンス気分だってのに仕事の話されると気分下がるなぁ……。」
『残念だったね。それが最上位保全戦闘者故のスペシャル特典ってもんさ。』
通信が切れると同時に追加の痕跡生物が空から降り注ぐ。おっと、性懲りもなく壊変者のみんなも送ってきたみたいだね。迫る敵の群れを鎖付きの両刃斧で一掃していく。この地に伝わる神話の中に、ヒイアカと呼ばれる女神が迫りくる魔獣を燃え盛る戦斧を以て打ち払ったという話があったっけ。血濡れの顔を拭いながらそんなことを思い出す。
「アナタは悪者なの?」
敵を殲滅させたと同時に背後から聞こえる可愛らしい声。村から連れ出してきた要保護記録者が身体と声を震わせながらそう問いかける。その首には血腥い戦場に不釣り合いな草花で作られた首飾りが下げられている。再度送られてきた援軍を相手しながらそれの問いに答える。
「さてどっちだろうね。誰かに与えられた善悪の称号なんて所詮は飾り物。差し替えてしまえばすぐに裏返る不確かなものだよ。大事なのは相手がどうするかじゃなくて自分がどう考えるかなんじゃないかな?」
最後の痕跡生物を斬り倒し、その残骸が僕らの間に転がる。少年に手を差し伸べたが、少年は手を握ることなく森の方へ駆け出した。
流石にこれだけ一方的に命を奪った血濡れの人間を信じろっていう方が難しいか。まぁ仕方ない……力づくで連れ戻すか。僕が一歩を踏み出すと同時に少年が振り向いて声を上げる。
「僕は相手が言った言葉を信じるよ。自分で考えたって分からないし、そんな難しいこと考えたくもないし……。でも海の広さを知って、人の思いを知って、自分の心を知ることが出来たその日には、自分の想いを信じてあげられる気がするんだ。だから今は相手の言葉を信じる。貴方がいい人か悪い人かは分からない。僕が大人になった頃にまた会って答え合わせをしようよ。」
なるほどね、賢い選択だよ。
『記録保護が終わったよ。用事が済んだらすぐに帰ってくるんだよ?』
「いや、もう用事は済んだよ。それにやらなきゃいけない事もまだまだあるみたいだしね。」
手を振る少年にサヨナラの合図を送りエピソードを後にした。




