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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"若き王と砂上の城"
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雪ときどき痕跡生物


────っ!


アタシの目に映るのはギャスタみたく真白に凍り付いて崩れていく白捕頭頭(ハクチュウドードー)狒猴紫煙(スモッグターキー)の姿。先に作り出したソイツらの他にも何体か放ったが同じように凍り付いていく。それを何度か繰り返していると"あの門"から姿を現した奴が放った矢がアタシの腹を貫く。ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべる奴からは未だ敵意は感じられない。


……いや違う。アイツは敵意を見せていないんじゃない。見せる必要が無かったんだ。アタシらなんかに本気を出さなくてもいつでも始末出来ると。あの笑顔は慈愛の笑みなんかじゃねぇ……命を刈り取るのを楽しみにしてる死神の目だ。


クソっ…どうしてこうなった!元はと言えばギャスタとフレデリカが……いや、使えないやつのことを考えてもしょうがない。今はどう生き延びるかだけを考えろ。


それにしてもアイツの瞬間凍結させる能力は何だ?あの雪に触れたものを全て凍りつかせる能力かと思ったが、あれから作られた弓矢の攻撃は凍らない代わりに、本来捉えることのできないはずのアタシの身体を貫いてくる。


確かこの前死んだ椿さんの能力がそれに近いものだったはず。……あークソっ!考えることが多くて頭がおかしくなりそうだ!


「女の子がそんなにクソクソ連呼するもんじゃないよ。」


背後から聞こえる声に嫌な汗が額を伝う。あれだけ開いていた間隔は既に無くなり奴の間合いに取り込まれていた。アタシの思考を読んだのか!?いや落ち着け。今のは普通に口に出して言ってた。


煙を変化させ両刃斧(ラブリュス)を作り出し攻撃を仕掛けるが奴も周囲を漂う雪を変化させて似たような武器を作り出し攻撃を受け止める。上腕二頭筋、三角筋、僧帽筋、広背筋、脊柱起立筋。敵を屠る為に躍動する筋肉がアタシの意識に応えて敵を弾き返す。何とか堪えようと踏ん張った奴の足によって砂浜に二本の跡が残る。ソイツは服に付いた砂を払いながら口角が厭らしく上がった口を開く。


「流石に正面からぶつかり合ったら僕の方が力負けしちゃうね。僕のこの能力について考えているんだろうけど、確か君達の方にも似たような能力を持った人がいたよね?ローズ…姫…?名前は忘れちゃったけどさ。


戦闘記録(ログ)を見たけど僕の"王家の暗翳(ホワイトピラミッド)"に近いようで遠い。彼らの能力は相手の周囲を凍らせて動きを封じるというものみたいだけど、僕の"王家の暗翳"は"痕跡索(トレイサーズ)自体を凍結させる力を持つ"。


つまり……いや、教えてあげるのははこれくらいにしよう。必要な情報は手に入ったしお遊びも終わり。散らかした玩具は片付けないといけないしね。」


そう呟くと手にした両刃斧が解け、アタシを中心に据えて雪のドームを作るように半球状に広がる。やがてそれは幾多の弓矢に変化するとその全てがアタシに狙いを定めて弦を張っていく。


死ぬ気でやれ、なんて言葉があるが今までアタシが死ぬ気でやったと思っていたことは遊びだったと知る。逃げ場の無い崖の際に追い詰められたことでその感情が喧しく騒ぐ。


このまま死ぬか抵抗して死ぬか……。いや、希望はまだ残ってる。


(おいフレデリカ!ログアウトが無理なら誰でもいいから応援を寄越せ!ギャスタが死んだ分容量空いてるだろ!…いや、このエピソードはもうコイツに奪われたも同然なんだから容量気にせず何でもブチ込んでこいッ!)


アタシが生き残る唯一の方法。フレデリカ(相手)依存で渡ってる途中で崩れてもおかしくない細すぎる道。そんなんもうどうでも良い。非情にもその矢は放たれアタシへと迫りくる。全方向から響く肉を裂く音がアタシに絶望を与える。


アタシの身体は引き裂かれて…ない?瞑った目を開くとアタシの代わりに何かが矢を受け止めていた。初めて見る生物だがエピソード内の生物にしては異質だな…能力か?いや、コイツは痕跡生物(ケラートデイト)か!合成獣みたいな不気味な見た目をしてるがアタシを守ってくれたって事実だけで可愛いって言うには充分!


空から続々と降ってくる名前も知らない痕跡生物が倉木へ向かって突撃していく。それと同時に光り出すアタシの身体。それは恋い焦がれる程待ち望んでいた希望(ログアウト)の光。解けていくアタシの身体を雪の矢が虚しく過ぎ去っていく。


「倉木、テメェがどんだけ強いか痛いほど思い知ったが、この借りはぜってぇ必ずキッチリ返す。オマエにとって最悪の形でな。ぜってぇ許さねぇから雪玉転がして待ってろよ。」


アタシが吐いた宣戦布告にソイツは雪玉を投げつける。大きく抉れた雪がちらつく砂浜(ビーチ)。その上を駆け回る不気味な痕跡生物(ケラートデイト)。それを余裕綽々で屠っていく馬鹿強糸目男。ムカつくほどの青空。


アタシの夢のバカンスは混沌と共に夢のまま散った。

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