ホワイトピラミッド
「悪者見ーつけた。」
前を歩くギャスタの後頭部に掌ほどの何かがぶつかって崩れる。それは汗がじわりと滲む太陽が照り付くビーチには不釣り合いな純白の雪玉だった。後ろからでも分かるほどにムカつきオーラを爆発させたギャスタが振り向くのと同時にアタシもその声の方へと向きを変える。
ソイツはビーチに埋もれた岩に腰掛け、手に持った雪玉を上に投げては掴んでを繰り返していた。掴み損ねて砂浜に落ちた雪玉を残念そうに眺めると、何もない空間からその手の中へと新たな雪玉が充填されまた同じ動作を始める。
記録の住人か?…いや、正暦保全者…だよな?だとしたらいくらなんでも早すぎねぇか?ウチラが游咏魚に入ってからまだ一分も経ってないよな?
例えアタシ達とほぼ同時に入ったとしても落とされる場所はランダム。それにアタシ達が壊変者って分かるには明らかな敵対行動を確認するまでは不可能なはず。戦争中のエピソードなんかじゃ好戦的な記録の住人に攻撃される可能性だって十分にある。それなのにコイツはこの短い間でそれらを全部こなしたってことか?敵意は無いようだが……。そんなことを考えてるとギャスタが口を開く。
「随分舐めた真似してくれんじゃねぇか。テメェ正暦保全者だよな?いや、答えなくていい。正暦保全者だろうが記録の住人だろうがこの俺に恥をかかせたことを後悔させてやるよ。
"一世一代成金御殿" 裏面解錠 "仰天井人"」
ギャスタを包み込むように鎧が具現化されると、その背後からギャスタと似たような鎧を纏った巨人が現れる。下半身は地面に沈みまるで地面から生えているようなその怪物。上半身だけしか無いにも関わらずそれでもかなりデカく、3m近いギャスタの2倍以上はある。
「"王家の掩翳"」
能力発動の合図と共に糸目の男は立ち上がると、その背後の砂浜の下からギャスタの巨人より少し小さいくらいのピラミッドが青空へ向かって生える。雪化粧を施された白いピラミッドとそれを越すほどの無骨な巨人、穏やかなビーチっつうミスマッチにも程がある状況に変な間が空く。
その沈黙を破るようにピラミッドにかかった雪がズリズリと音を立てながら動き出し、能力を発動した男の周りに集まって雪玉の形に変化していく。だがその雪玉は白一色ではなく、マーブル柄みたいに黒と白が混ざり合っていた。
ふと気になって雪が掛かっていたピラミッドをよく見る。茶色一色かと思ってたが少し脇にずれて見てみると日が当たっていない面が黒く変色していた。影のせいで黒く見えるとかじゃなくてペンキをぶち撒けたみたいに真っ黒に塗られてた。男に視線を戻す。
ソイツが左手を前に突き出すといくつかの黒い雪玉か輪を描いてその手の上で回りだす。メリーゴーランドの馬みてぇに陽気にクルクル回ってたか思うと、その黒い玉がアタシ達に向けて勢いよく放たれる。
「ふざけんのも大概にしろやッ!」
ギャスタの仰天井人が拳を突き出したことによって押し出された空気が、バズーカのような殺人級の風圧となってその雪玉をいとも容易く消し飛ばすと勢いそのままにヤツの元へと駆け抜ける。しかしその空気弾はヤツに当たることはなく、ヤツの後ろに埋れていた岩にぶつかって散り散りにするだけで終わる。
さっきのは何だ?ヤツの身体をすり抜けたような空気弾自体が移動させられたような…。攻撃しようにも不確かなことが多すぎるし、数匹の痕跡生物を出して牽制されてるせいで下手に動けねぇ。そのことはギャスタも理解してるのか警戒を解くことなく一挙手一投足を見逃さないように目を光らせている。
ピラミッドに掛かっていた全ての雪が集まりヤツの隣に集結する。雪玉っていうよりも頭を無くした雪だるまって言ったほうがしっくりくる3m程の"それ"。所々あった黒い部分はいつの間にか白に変わっている。
「裏面解錠 "黒聖魂"」
男は"開放"の言葉と共にそれをアタシらに向けて打ち放つ。
「裏面解錠だと?それを扱える俺にハッタリかますとはいい度胸だな。」
さっきみたいに拳を突き出して空気弾を撃ち込み雪塊を壊そうとするが能力によってすり抜けて後ろへ飛んでいく。いくつかは当たってるようだが雪塊は勢いを落としながらもジワジワと距離を詰めている。
「雪玉をどれだけデカくしようが無駄なんだよッ!」
ギャスタが右腕を引くとそれに合わせて仰天井人も右腕を引いて迎撃体制へと入った。
それにしてもあの糸目の男…どっかで見たことある気がすんだよな…。でもどこ見たんだっけ?糸目……ピラミッドを出す能力……雪……。マズイっ!!
「ギャスタ!それに触るなッッ!!」
アタシの忠告よりが届くよりも先にぶつかる巨大な雪玉と巨人の拳。アタシの声が届いた頃には巨人は氷の彫刻のように凍り付いたかと思うと粉々になってビーチに散らばっていた。氷漬けになったのは巨人だけじゃなくギャスタも同じ。時の瓦礫に変化していくその光景が、もう見ることはないアイツの舐め腐った態度を思い出させる。
地面に落ちた雪がいくつかの雪の溜まりを残してその殆どが正暦保全者の元へと勢いよく戻っていく。ギャスタを殺した雪が渦巻く中心に立つ男が口を開く。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は倉木乱雪。
最上位保全戦闘者第一位って言ったほうが分かるのかな?まぁどっちでもいいかどうせ君も直ぐに彼の後を追うんだし。」
■時の瓦礫の保管箱
【曲名】
一世一代成金御殿
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点2019.08.11
アラブ首長国連邦 ドバイ "アルバーシャ及びアルクオーツ一帯"
エピソード名 "血欲の坩堝"
【所有者】
ギャスタ・アーガデイズ
【効果】
受けた衝撃を無効化し、衝撃を感知するたびに肥大・強靭化する鎧を具現化する。打撃だけでなく斬撃や特殊能力(炎や電気)によって受けた攻撃に対しても効果は発動するが、前者に比べるとその上昇率は大きく落ちる。
裏面解錠 "仰天井人"
自身の背後に上半身のみの巨人兵士を具現化させる。能力発動中に受けた累計衝撃値とトレイスを糧にすることで発現可能。累計衝撃値が高いほど攻撃力や機動力が上昇する。トレイスのみでも発現可能で、作り出される巨人兵士の大きさが変わることはないがその他の性能は大きく低下する。
一世一代成金御殿発動時に発現した装具は、仰天井人を発現した時点で使用した分を差し引かれるためその程度によって性能が変化する。




