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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"埋葬される小さな魂"
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Engraver and Rain

それから一週間経った頃、その仲間は見てわかるほどに少なくなっていた。週を重ねるごとにその数を減らし、一ヶ月を過ぎた頃には数十人まで減っていた。仲間だと思ってたやつらが見てたのは勇太じゃなくて手嶋勇太っていう上っ面の情報(文字)だったってことに漸く気付いた。


仲間の皮を被ったもう一つの敵は勇太の上辺だけを齧り取り、己の欲望を満たし終わるとぐちゃぐちゃ噛み砕いたそれを地面に吐き捨てた。そう。誰かを攻撃したいっていう人間(あいつら)の立派な欲望を満たすために俺らは使い捨てられたんだ。勇太が生きてきた十二年間はたった一ヶ月で使い捨てられたんだよ。


そいつらはいじめの主犯格を炙り出し火を付けると満足したのか飽きたのかは分からないけど、その手に持った松明を捨ててどっかに消えた。木に生った腐ったリンゴを数個取り除いて満足したみたいだけどその木自体が腐ってるってことには目を伏せるかのようにさらっといなくなった。


そんな奴らに弄ばれた俺らみたいな無力な子供の心は今日も、明日も、明後日も。毎日何処かで叫び声を上げることさえ出来ずに静かに死んでいく。


あの日俺の身体を支配していた憎悪と嫌悪は見る影を潜め、再開したいじめを抵抗すること受け入れていた。全てを失った空っぽ身体を殴られたり刺されたりしたところで痛くも痒くもなかった。汚れた服に滲む血の色だけがまだ俺が人間だということを証明してくれた。



この伝染病(イジメ)の怖いところはもう一つあってさ、それは逃げ場が無くなるって所なんだ。街中を歩いてても、すれ違う人達の話し声が自分の悪口に聞こえちゃうんだ。それが嫌で嫌で堪らなくてどんどん人のいない方へ進んでしまう。そうやって最後には行き止まりの暗闇で待ち構えてた悪意に呑み込まれちゃうんだ。


その日の夜。俺も同じように自分を笑う声から逃げるように歩き続けて、気付いたら夜風が吹き荒ぶ背の高い橋の上にいた。いつも通ってる道のはずなのにその高さがやけに怖く感じて脚が歩くことを拒んだ。歩道に付けられた子供には少しだけ高い手摺を乗り越え眼下を見下ろす。光さえ飲み込まんとする混沌の流れの中へと、手摺を離し勇太の魂が眠る川へと身体を進ませた。


その酷く澱んだ泥水は、俺の全身を包むと同時に心の中まで入り込んでそこら中水浸しにする。冷たく荒っぽいそいつは瞬く間に俺の命を奪い取っていった。


勇太のことを散々弄んで捨てたあいつらに怒ってみたけど、俺にはそいつらを責めるような資格なんて無かった。だってそうでしょ?誰よりも近くにいて助けるチャンスなんていくらでもあったのに手を差し伸べ図に見殺しにしたのは俺なんだからさ。



そうして再び目覚めたのはあの黒い澱みの中。どれだけ経っても死ねないのに何度も何度も体の中に潜り込んで俺を苦しめる黒い水は全てを懸けて救ってもらった命を軽々と捨てた俺を咎めているようだった。幾度の嘔吐と共に辛い過去の記憶も口から溢れ出ていった。



"次こそは誰かを助けられる強い人間になりたい"



そう強く魂に刻み込んだ願いが認められたのか俺はバートンテイルに流れ着いて正暦保全者になったんだ。



タカ丸さんは思いの丈を言い終わるとその手に持った一握の破片(デブリスコピー)を私に見せる。


そこには弱々しい文字で"タクマ"と刻まれていた。


「あいつは生きてたんだよ…。あいつは…転天は勇太だったんだよ!…なんで気づかなかったんだよ俺は。この世界でもまた俺はあいつを救えなかった…。守ってもらってばっかで借りを返す前に死ぬなんてズルいだろ!もっと俺を頼ってくれてもいいだろ…。何も気にしない馬鹿の振りしてても…もう一人でいるのは苦しいんだよ。」


『貉さん、タカ丸くん…時の瓦礫の解析が完了しました…。曲名は"天国と地獄(ホワイトゴスペル)"

能力は"敵の攻撃の速度に合わせて移動速度が上昇する黒い翼が生える能力"です。』


「……師匠。そのC:Dは師匠が貰ってよ。ここであいつが…転天が一生懸命戦ったことをさ…師匠も忘れないないでよ。その能力を使うときに…たまにでいいからさ!あいつのことを思い出してやってよ…。


俺は呑楽喰楽千鳥(あいつ)と一緒に頑張って強くなるよ。あいつは馬鹿にしたけどさ…俺だって全部守りたいし救いたいよ。…だからさ!師匠も俺のこと見守っててよ。転天の命は無駄じゃなかったって俺がバートンテイル中に教えてやるんだ。」



タカ丸さんの瞳が潤み頬に一筋の粒を落とす。とうに雨の止んでいる。


強くなっていく西陽がその粒を一層輝かせる。


「全然悲しくねぇのに何だよこれ…。ねぇ、師匠も見てよ。俺の泣き真似上手くなったでしょ?…でもさ…今日くらいは怒らないで見逃して欲しいな。」


小さな体に抑え込まれていた感情が一気に溢れ出る。先の戦いで見せた卓越した才能は影を潜め無垢な少年の姿だけがそこにあった。


「そうですね。僕は弱いということを改めて思い知らされました。一緒に…一緒に強くなりましょう。その雨が晴れる日まで。」



身に染みた冷たい雫を振り払うかのように記憶から意識を取り外した。



時の瓦礫の(クロノデブリス)保管箱(ファイル)


【曲名】

備品不足(チープ)の手術室(ドクター)

【創造地点】現位置換算処理済

正暦分岐点 1959.10.19

アメリカ合衆国 ニューヨーク州 サウス・ブロンクス

“メルローズ”

エピソード名 “暖かい午後の急患”

【所有者】

ジザリ・ハザリ

【効果】

2フィート(60.96cm)までの傷跡を能力によって具現化された糸で縫合し内部を治療する。2フィートを超え場合は仮止めし傷口を閉じることは可能だがその際治療効果は発動しない。縫合後1分で治療が完了する。治療開始後は完了までの間能力を解くことも他の部位を治療することも出来ない。(傷口の長さの合計が2フィート以下である場合はその限りではない)切断された二つを糸で繋ぐ際は、傷口を縫い合わせる以前であっても糸が繋がった時点で神経は接続される。



【曲名】

万骨剥覧傀(バンコツハクランカイ)

【創造地点】現位置換算処理済

正暦分岐点 1973.04.13

タイ バンコク サムットプラーカーン県 "ムアンボーラン"

エピソード名 "生命の宴"

【所有者】

ジザリ・ハザリ

【効果】

骨格標本の形をした骨獣を操る。自身の身長を境として使用トレイス量が大きく変化する。具現化する骨格獣の大きさはその生物の成体の平均値の大きさとなり、使用トレイス量によってその大きさを変動させるといったことは出来ない。具現化された骨格獣は追加でトレイスを使用することで細かな動作をさせることも可能。指示を出さない場合は“目の前の敵を排除する”という意識に従って自律行動する。自身の骨は大きさ形共に自由に変化させることが可能だが、トレイス体から抜き出し独立させた状態でないと効果は発揮されない。


裏面解錠(リメンカイジョウ) "戰骨万来軍象撃センコツバンライグンゾウゲキ"

自身の保有する全てのトレイスを消費することで発動可能。通常召喚されたものよりも攻撃力、防御力共に大幅に上昇した自律行動をとる骨格獣を召喚する。例え発動後にトレイスが回復し、トレイスを注入しても細かな動作を指示することは出来ない。



【曲名】

響命鏡(キョウメイキョウ)

【創造地点】

正暦分岐点 1799.04.01

フランス パリ リュ・ドゥ・リヴォリ "ルーブル美術館"

エピソード名 "窃盗団の誤算"

【所有者】

ジザリ・ハザリ

【効果】

攻撃を反射させる額縁に入った鏡を具現化する。使用したトレイス量によってその大きさは変動する。発現後はその大きさ以下であればサイズを変更することは可能だが、それ以上にする場合は追加でトレイスを使用する必要がある。実体を持たない攻撃は鏡から離れるほど威力は落ちる。鏡に映っている対象の身体のみ攻撃可能。(身体を密着させた二人の内、鏡に映った対象Aの背中を槍で貫いたとしても、Aの身体で胴体が隠れたBの身体は貫通されない。)



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