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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"埋葬される小さな魂"
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限りある空と底知れぬ海

「まずは空のほうね。タカ丸が高い所苦手だって言うから俺が蝶みたいな翅が生えるD:C使って空まで飛んだんだ!スゲー時間かかったけど…。でも途中で見えない天井に当たってそれ以上は行けなかったんだよねー。ハリボテじゃんってがっかりしたわ。」


「そんで海の方ね!転天が水が怖いとか言うから俺がエラ呼吸出来るようになるD:Cを使って行ったの!だけどさー黒い澱みの中だとどっちが上か下か分かんなくてさ。でもスゲー時間かかったけど何とか底まで辿り着いたんだー。ライト持っていって無かったからそこから先があるのかは分かんなかったけど…多分底だと思う!」


「「どうだった!?俺ら凄い!?」」


どうかと聞かれたところで議題に対して君たちのようなそれほどの熱量を持ち合わせていないので返答に困るとしか…。


「流石お二人ですね。実に興味深いです。」


この報告会を早く終わらせる魔法を唱えると二人は大きく拳を振り上げ嬉々として帰っていった。


「師匠ー!また可愛い後輩の相談乗ってねー!」


「今度は師匠も一緒にバートンテイルの横方向を攻めようぜっ!」


時計の針が指す時刻と場所に相応しい静けさを取り戻す。一方通行の会話が僕の疲労をどっと蓄積させる。


それじゃあ僕も帰ろうかな。調理場の片付けの音だけが鳴る食堂を後にして自宅へ向けて足を踏み出した。



───。



正暦保全協会(レコードホルダー)へと足を早め向かっていた。

数分前の記憶を思い返す。


『貉さん!壊変者(エングレイバー)による記録遮蔽膜(レコードスリーブ)への接触を確認しました!正暦分岐点(ターニングポイント)発生まで残り57分です。至急正暦保全協会(レコードホルダー)へ来てください!今回のパートナーは既に現着済みです!』


身体に埋め込まれた思念受胎種(シークシード)を介して脳内に響く千鶴さんの声。


その連絡を受けてからおよそ3分後。僕は正暦保全協会の入口を抜けフロントからセンターホールへと向かっていた。


「「師匠〜〜!!」」


フロントに重なって響く青く溌剌とした二つの声。なるほど。今回のペアは"彼ら"ですか。二人は僕を挟み込むように位置取ると千鶴さんの元へ向かう僕に続いて後を追う。その姿は第三者の目には親鳥を懸命に追う小さな雛のように見えてるんだろうな…。


いや。初めての共同保全戦闘(レコーディング)とはいえ仲間内から二人の"噂"はよく聞いていた。その"事実"を踏まえると脆弱な雛ではなく親離れした立派な成鳥と言っても過言では無いのかもしれない。12歳のそのトレイス体は大人と子供の間で揺れる曖昧なものだが何処か年齢よりも大人びて見える。


「パラヘイル先輩!俺これから師匠と保全戦闘なんですよ!」


「HEYHEY〜!タカ丸ボーイ!それはビッグマネーよりもハッピーだな!イコール。ユーの一日が最高なものになること間違いなし!Mr.ムジナ!今度はミーも誘ってくれよ〜?」


「ヨノマリア所長代理!この前話してた師匠と保全戦闘するっていう夢、早速叶いました!」


「あら、転天ちゃんそれは良かったわね。タカ丸くんも一緒なら怖いもの無しね!今度は箱嵜ちゃんも連れて研究所に来てちょうだい。美味しいお菓子を用意して待ってるわ。」


目に入った知り合いに手あたり次第に話しかけていくこの光景に既視感を抱く。年齢よりも大人びて見えると考えた思考回路に丁寧に二重線を引き千鶴さんの元へ急ぐ。



「貉さんお疲れさまです。あっ、もう合流してたんですね!彼らが今回のペアの…。」


髙之宮転天(たかのみやてんてん)

承天寺(じょうてんじ)タカ丸」


「「ですっ!!」」


「あははっ…自己紹介ありがとうねー。…ということです…。」


二人はどちらが先に言った言わないで小突き合っている。やっぱりしっかりとした雛鳥みたいだ。


「二人共緊張感を持ってください!」


「「えーん…師匠がイジメるー…」」


うーん…面倒だ…。これが噂に聞く"泣き虫テンテン虫"か…。もう一度注意するとすぐに泣き止み、少しだけ真剣な顔を取り繕っていた。


「えっと…そうだ保全戦闘の件ですが、今回のエピソード名は"埋葬される小さな魂"。場所はアメリカ合衆国インディアナポリスにあるクラウンヒル墓地。要保護記録者(ポインター)は現在解析中です。」


千鶴さんからエピソードの概要を聞き移動卵殻(ヘッドシェル)へ乗り込む。三人の人影と響く元気な声を聞いていると初めてバートンテイル(ここ)へ来た日のことを思い出す。あの時とは違って移動卵殻の中は広々としている。


到着の音声と共に扉が開き、游咏魚の水槽(レコードボックス)へと足を伸ばす。


『貉さん。今回の壊変者の名前はジザリ(Zizali)ハザリ(Hazari)。見た目こそ老体ですがこれまでに何人もの正暦保全者を消し去ってきた履歴が残っています。こちらの解析完了よりも先に倒された事例も多いことからその実力は間違いない…のですが、戦闘を放棄して逃げたとの情報も同程度有ります。敵の実力が何方にせよ注意厳禁です!私も精一杯サポートさせていただきます!』


「分かりました。よろしくお願いします。」


そう伝えると保全戦闘開始の音声が流れた。


正暦分岐点(ターニングポイント)1995.08.20

エピソード名"埋葬される濡れた心"

游咏魚の水槽(レコードボックス)痕跡索(トレイサーズ)解析中…解析完了

識別番号(ウェイブコード)btr:8539647、btr:10381010、btr:14414490確認

正暦保全者(レコーダー)三名転送開始』

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