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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"埋葬される小さな魂"
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鶴・天・鷹

狭く四角い無機質な部屋と游咏魚(レコード)が僕を出迎える。壊変師団(エングレイブ)が持つ游咏魚を吸収したそれは徐々に大きくなっていく。


『貉さん保全戦闘(レコーディング)お疲れさまでした!やっと自分とこの記録保護(リコーティング)終わったのに、これからよその応援行かなきゃですよぉ…。なにはともあれ、貉さんはゆっくり休んでください!』


「今回もサポートありがとうございました。千鶴(ちづる)さんも記録保護頑張ってください。」


僕の担当正暦修復者(リーダー)である千鶴万梨(ちづるまり)さんに感謝の言葉を伝えると通信は切れた。ふとセンターホールに目を向けると手を組み後ろに伸びている千鶴さんと目が合う。ガラス越しに小さく手を振ると大きく手を振りそれに応えてくれた。


移動卵殻(ヘッドシェル)に乗り込みセンターホールへと下りる。そのままフロントを出ようとしたところで聞き馴染みのある声が僕を呼び止めた。


「"箱嵜先輩"保全戦闘お疲れさまです!」


「ルルさん…。"その呼び方"他の人に勘違いされるのでやめてくださいって前にも伝えましたよね?」


正暦保全者(レコーダー)の中でも特に大きいその姿はいつ見ても圧迫感を受ける。僕の困った姿を見てからかう様に悪戯な笑顔を覗かせる。そうして二人で話していると元気な声が割り込んできた。


「ボクシーちゃん最近イケイケじゃ〜ん!保全戦闘ランクレコーディングチャートも右肩上がりだしね!そのデビューを支えた先輩として私も嬉しいよ…。ルルも見習いなよ?」


「リリーさんまた髪色変えたんですね!今回の色も似合ってて素敵です!」


「ボクシーちゃんありがとー!ルルが褒めてくれないから似合ってないのかと思ってちょっと落ち込んでたのさ!」


胸の辺りまで伸びた艶艶しいエメラルドグリーンの髪を揺らしながら近付いてくるその人。見た目がどれだけ変わっても底抜けに晴れたその声と人を引き寄せる瑠璃色の瞳は変わらず爛々と輝いている。これから保全戦闘があるという二人に別れを告げて帰路についた。



"潰れた水芭蕉"の保全戦闘を終えてから半年が経過していた。



あれから保全戦闘を重ねた僕のトレイス体の痕跡索(トレイサーズ)密度とトレイス量は大幅に増加し、取り込んだ時の瓦礫(クロノデブリス )もいくつか増えた。


正暦保全者ほぼ全ての人と仲の良い……一方的なものも含めての話だけど…、そんなリリーさんのおかげで知り合いも増えて忙しいながらも充足感に満ちた第二の人生を送っていた。生死の天秤がどちらに傾くか分からない危難を抱えながら過ごすこの世界で、大小の負傷こそあれどその知り合いを誰一人失うことなくここまで日々を過ごすことが出来た。


四季など感じさせない色気無い白一色の街が徐々に陰り、いつもと同じ見せかけの夜が訪れる。


いや変わらないのは僕も同じか。

敵を倒し記録(未来)を守る。



来るまだ見ぬ保全戦闘の無事を祈り瞼を閉じた。



───。



閉じた瞼の向こうに感じる明朗な光が見せかけの朝がやってきたことを体に知らせる。


朝食を済ませ日課のトレーニングと溜まっていた用事を全て終わらせた僕は正暦保全協会(レコードホルダー)の食堂に来ていた。痕跡転換(コンバージョン)されたこのトレイス体は何かを食べなくても死ぬことは無いけど楽しみの一つとして食事をする人が殆どだ。よくルルさん達と来るけど今日は違う人達と待ち合わせだ。


「「師匠〜〜!!」」


時計を確認すると短針は二を指している。昼も過ぎて疎らになった静かな食堂に賑やかな声が響いた。


「師匠遅れてすいません!保全戦闘(レコーディング)長引いちゃいました!」


「タカ丸が足引っ張って大変でしたよー。あ!勿論游咏魚(レコード)はバッチリ回収済みです!」


高之宮転天(たかのみやてんてん)承天寺(じょうてんじ)タカ丸。飴色で艶のあるウェーブがかった髪を持つ転天さんと、真黒でツンツンとはねた針鼠のような頭をしたタカ丸さん。彼らは二週間前にバートンテイルにやってきた新人の正暦保全者(レコーダー)だ。理由は分からないが何故かこう酷く懐かれている。


素体、トレイス体共に12歳で若さゆえの経験不足感は否めないがその類稀なる戦闘感覚から正暦保全協会(レコードホルダー)内でも噂になっている。


その噂を知ってか知らずか今日もまた保全戦闘の相談という名の雑談が始まる。


「師匠はバートンテイルの空と海。何処まで行ったことありますか?」


転天さんがそう問いかける。


「何処までっていうのはそれぞれ上下方向にっていう意味?保全戦闘が忙しくて調べる時間が無いっていうのもあるけど、そもそもそれにそこまで疑問を抱いたことは無いんだよね…。」


タカ丸さんが後ろへと伸びる針のような髪を揺らしながら嬉しそうに口角を上げる。


「師匠でも知らないことあるんだー。でも実はー…俺らは知ってるんだよねー。」


「そうそう。この間タカ丸と友達数人と一緒に調べに行ったんだよ!研究所からパクっ…借りてきたD:C(デブリスコピー)を持ってさ!」



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