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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"潰れた水芭蕉"
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もう一つの特性

「人…だ…。おいあんた…誰か知らねぇが俺を助けてくれ…。」


衰弱したその声は先程まで対峙していた敵のものではなかった。格好から察するに恐らくは記録の住人(クロノス)。誰かに攻撃を受けたのか右腕を傷付けられ血が滲んでいた。僕らが来る前にあの男が攻撃したのか?そんなことを考えているとその男が赤く光る。しかし実際に光っているわけではなく、僕の目にそう映っているだけということにすぐに気が付く。


『箱嵜さん!その人がこの記録の要保護記録者(ポインター)です。でも気をつ…けてく…ださ…い壊変者(エングレイバー)の他……』


千鶴さんが言い終わらないうちに通信が切れる。この人を隠す場所はないかと辺りを見回すもそれを探し終える前に敵が現れた。


「いやー逃げ足があまりにも早いものだから追いかけるの大変だったよ。もう手の届かないところへ行かないでよね。


さてと。偶然要保護記録者もいることだしそろそろ追いかけっこも終わらせてうちへ帰ろうかな。」


僕等の背後に伸びる植物が編み込まれてフェンスのように逃げ道を塞ぐ。男の手から伸びる蔦の先が変化し爆発植物がたわわに生る。要保護記録者を連れ出そうとするも足に植物が絡んで動くことができない様子。


仕方ない。一握の破片(デブリスコピー)を使って…って…あー向こうで地面に叩きつけられた時に一握の破片を落として手元に無いことにここで気づく。ボックスを展開させ衝撃に備える。


水芭蕉が美しく咲き乱れる湿原に鳴り響く破裂音。


ボックスは割れて…いない。


ひび割れたボックスに埋め込まれた半月型の弾丸()。僕と敵との間には全身を毛で覆われた獣が倒れていた。その背中は酷く傷付いている。


「こいつめ…俺を狙ったバチが当たったんだ!」


要保護記録者が呟いたその言葉からその腕の傷がこの熊に付けられたもので、熊から逃げてここまで逃げてきたことを理解する。


それにしても何なんだこの胸にかかる違和感は…。何かを見落としてる気がする…。もしかして…。


「要保護記録者がピンチを引き連れてきたと思ったら風変わりな記録の住人(クロノス)に助けられるとは運がいいね。でも次は無いよ。」


背後に編み上がった蔦に鈴生りに実をつけるスナバコノキ。前からは伸びた腕に再度生えた"それ"が僕等を狙う。


「次が無いのは君の方だと思うけどな。」


「"借火尽鬼(シャッカジンギ)"」


左手に具現化した剣先に炎を宿した刀でそれらを焼き払い一気に敵との距離を詰める。何かを察した敵は残った左腕を変化させ僕を捉えようとするがそれすらも焼き切り敵目掛けて炎の刃を放ち一刀の元に斬り伏せ…るはずだった。


「"痩身の物体(トールマンイーター)"」


放った炎の刃は敵の目の前で跡形も無く消え失せ、さっきまでの熱気が嘘のように冷える。敵の背後には異様なまでに細く、常人以上に手足が伸びた人型の物体が立っていた。スーツのような服を纏ったそいつの肌は影のように黒く、目や鼻が無い代わりに口が体のあちこちについてそれぞれ開いたり閉じたりさせている。


借火尽鬼が受け止められ、残る慈罰八倒で追撃を掛けようとするがその前に弾かれて要保護記録者がいる場所へ押し戻される。


「全然出してくれないから持ってないのかと思っちゃったよ。君が思ったとおり僕の街一番の植物園(グリーンタウン)は火に弱い。だから封じさせてもらったよ。"能力の仕組み"には気付いたようだけど少し遅かったね。勿体ぶって今出したところを見ると僕に対する決定打がもう無いんだろ?」


僕の心が手に取る様に分かっているかのような口ぶりに心が揺らぐ。クソっ、一番初めに爆発植物の攻撃で受けた傷跡がやけに痛む。それに心だけじゃなくて何か意識まで揺れているような…。立ち上がろうとするが足にうまく力が入らない。


「言い忘れていたけどスナバコノキには爆発するという特性以外にもう一つ特性があってね。スナバコノキは有毒植物なんだ。半月型のその身には毒を宿す。血がそこまで出ていないところを見るに掠っただけだったんだろうけど君が走り回るもんだから早く毒が回ったみたいだね。」


そういうことは早く言ってよ!そんな言葉も言えるわけもなく刀を支えに立ち上がる。取り敢えず要保護記録者の心配は無くなった。いや、心配する要素が少なくなったって言った方が正しいのか。


恐らく敵の植物を生やす能力は本体から生えた植物じゃないと僕等を攻撃出来ない仕組みになってる。触ったり捕えることは出来るみたいだけど…。途中で見たあの目玉の能力は分からないけど監視とかサポート系の能力かな…?いや、今は本体から伸びる蔦に集中すればいい。それが最善の選択のはず。


全てを理解した敵が要保護記録者を植物で捕まえると、その周りの余分な能力を消してトレイスを自身へ集中させた。それを裏付けるように手だけでなく背中から何本も蔦が絡んだ触手が生えその先端を僕に向ける。


泥濘んだ大地を蹴り敵との間合いを詰める。左右に握った二振りの刀を駆使してその攻撃の合間に炎の刃を放つがその道中の蔦を焼くだけで、本体に届く前に掻き消されてしまう。


そんな攻防を幾度か続ける。幾度となく炎を放ったところでそれが届くことはない。毒が回ってきたのか刀を振るのもしんどくなってきた。それより星さんはまだ来れないのか?


一握の破片の(デブリスコピー)保管箱(ファイル)


【曲名】

仄暗い玩具店(ブラー=イン=ドール)

【創造地点】現位置換算処理済

正暦分岐点 1213.05.22

フィンランド ヘルシンキ "グリンダール"

エピソード名 "見えるようにしてよ"

(原本・────から引用)

【所有者】

忽撫凪幸

【効果】

自身のトレイスで具現化した物体に感覚共有可能な目を作り出す。共有されるのはそれに映る映像のみで具現化されたその目を攻撃されても痛みはフィードバックされない。能力の範囲は自身の目の届く場所までだがこの能力で発現した目が届く範囲でも発現可能。

【元本】

曲名・所有者共に不明


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