砂箱の木
身動きを完全に封じられ、生い茂る緑から顔だけが出ている状態になる。敵の腕から伸びる一本に撚られた蔦が大蛇の如く僕の体を締め付けるようにとぐろを巻くとその先端が顔の前で止まった。蔦からはこれまで見られなかった棘のような突起がいくつもぶつぶつと飛び出ていた。
「君は"スナバコノキ"という植物を知っているかい?南米の熱帯地域やアマゾンの熱帯雨林なんかに自生している植物なんだけどね。"ダイナマイトツリー"っていう別名もあるんだ。」
敵の説明に合わせて蔦の先に何かが作られていく。核を中心に半月型の殻のようなものが付いたそれは南瓜のようにも見える。
「どうして"ダイナマイトツリー"って言うかって?それは僕が説明するより自分で確認した方が早いと思うよ。」
突如目の前で爆発飛散したそれによって大きく吹き飛ばされる。爆発する直前、身体を覆っていた植物の僅かな隙間から送り出していたトレイスで発現させたボックスを操作して蔦に変化した手にぶつけて反らす。それと同時にシールド状に変化させたボックスを顔を中心に具現化していたおかげで死は免れたがそれでも防御壁を突き破って数個が体をかすっていった。
その種が僕を覆っていた植物に直撃したことで強度が弱まり、千切れてボックスと一緒に吹き飛ばされたようだ。即死しかねない強力な一撃。恐らく本体が変化した植物の先にしか発現はしないだろうがかなり厄介だ。
自身を取り囲むように36枚のボックスを重ねて具現化する。取り敢えずはこの中に入って本体を慈罰八倒で牽制しながら星さんと合流するまで時間を稼ぐのが最善策のはず。案の定、敵は防御に集中しその腕がここまで届くことはなかった。ボックスを壊そうと蔦がその外殻を這っていくがそれで壊れるほどやわな作りではない。
───っ!
そんな僕の作戦を嘲笑うかのように発現するあの"爆発植物"。その数は大小含めると20以上はある。ボックスを解除して回収した慈罰八倒でそれらを切り倒し空へと逃げる。
「そうだよね。君にはその選択肢しか無いはずだ。」
行動を先読みしていたように待ち構えていた蔦が僕を捕えて締め付ける。それは本体の腕へと繋がっていた。勢い良く振り下ろされ地面に叩きつけられる。身体が軋む感覚と目に映る血反吐がそのダメージを物語る。
考えるよりも先に身体が動き、僕はその開けた場所を抜けて森の中を走っていた。あの場所でまともに戦っていては僕に勝ち目は無い。それに"あの能力"にもきっと有効範囲があるはず。兎に角その範囲外へ抜け出さなければ。
───。
何か視線のようなものを感じて辺りを確認するが誰もいない。はやる気持ちとは裏腹に足取りは重い。くそっ。さっきの攻撃のせいで身体機能が落ちてるのか……。
…いや、違う。これはあいつの能力だ!元々自生していた植物に紛れて気付かなかったがその内のいくつかは確実に意識を持って僕の足にまとわりついている。思わず後ろを振り返るも先程までいた"空き地"は彼方に影を潜め敵の姿も見当たらない。
前を向き直し進む途中で、木に生える"目玉"と目が合う。一瞬のことだったが木の模様がそのように見えたとかでは無くて確実に人間の目玉だった。
さっきから感じていた視線の正体はこれか?それにしても戦いが始まってから何か違和感が心に引っかかっている。そもそもこれは現実なのか?幻覚を見させられていてこの植物自体存在しないのでは?
そんなことを考えてる僕の横を並走するように一羽の鳥が羽ばたく。たしかあれは…九麓聡さんの時の瓦礫"非行防止区域"。効果は"幻覚による攻撃の無効化"。
『…箱嵜…君聞こえ…る?敵の能力だけど威…力に対して発動範囲があまりに…も広いから幻覚じゃ…ないかと思って能力で調べてみ…たけどどうやら違うみたい。ごめんなさいね、霧のせいで通信状態が悪くなってるから音声が途切れることがあるけど貴方の映像は見えてるから大丈夫よ。
敵が逃げることも考えて今後の保全戦闘に生かすための能力解析をしているところだけどもう少し時間がかかるわ。貴方自身の報告でもいいけれどこちらでもこれ以上は無理と判断した時点でログアウトさせるからもう少しだけ耐えてちょうだい。』
通信に気を取られて木の根に足を引っ掛けて思わず転ぶ。見上げた先にはあの爆発植物が待ち構えていた。ボックスを展開して防御の形を取り、大地を蹴り上げて距離を取る。
走る僕の背中で爆発音が響く。防御壁を貫通した半月型の種が視線の先にある木に刺さり、そこを中心に亀裂が走ると音を立てて倒れる。間違いない。これは幻覚などではなく本物だ。
霧の深い森を抜けて開けた場所に出る。白い花弁を携えたその花が僕を迎え入れるように風に揺らいで笑っていた。ここは水芭蕉の群生地なのか。そんなことを考えていると背後から声をかけられる。
■時の瓦礫の保管箱
【曲名】
非行防止区域
【創造地点】現位置換算処理済
正暦分岐点 1141.03.14
フランス領 レユニオン島 "ド・ダーヌ及び周辺山域"
エピソード名 "孤島の守り神"
【所有者】
九麓聡子鹿
【効果】
鳥の形を模したトレイス分断装置を具現化し幻覚による能力を無効化する。幻覚能力が無効化されるわけではなく、その鳥が認識した現実の映像が視界に届けられる。




