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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"潰れた水芭蕉"
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枯れ行くあの日の感情

「僕の脚を切ってしまったことを気にかけているのかい?心配いらないよ。元々僕のトレイス体は右脚が欠けていたしね。」


鬱蒼としげる森の中にぽつりと空いた穴。それは僕が刀で切ったからでなく元々その空間には木が生えていなくて代わりに草が高く伸びている場所だった。しかしそれらはさっきの斬撃で刈り取られ視界の開けた空間が広がっている。大きさは直径30m程。霧が晴れたその空間にその人が吐き出す煙草の煙が静かに広がって消える。


「"街一番の植物園(グリーンタウン)"」


その声を合図に地面から生えた無数の蔦が空へ向かって伸びていく。それらは僕の自由を奪うように体に沿って纏わり付く。伸びる蔦を振り払う僕を気にも止めず話を続ける敵。


「さっきの話の続きをしようか。分からなくなったとは言ったけど別に僕らを率いている"あの人"の考えを否定してる訳じゃないんだ。命令されたから従う、ただそれだけのこと。それが僕の…いや僕等の幸せなんだよ。手足が千切れようと目的が果たせるならば別にいいんだ。」


蔦を全て解き敵に向けて慈罰八倒(イチバツバットウ)の刃を放つが、敵に届く前に地中から伸びる三本が()られた蔦によって弾かれる。


「何で…何でそんなに自分を傷付けてまで壊変師団(エングレイブ)の為に壊変を続けるんだ!君にそこまでさせる"あの人"っていうのは一体誰なんだよ!」


「あの人について興味が出てきたようだね。僕なんかが名前を出すのも憚られる素晴らしい人さ。君達にはその良さが理解出来ないようだけどそれで構わない。あの人だって君たちの考えを理解する気は無いだろうしね。」


敵が話してる間も相変わらず蔦は伸びて絡み付こうとする。切っても切っても地中から生えそれから逃げるように刀を振り回しのたうつ僕に対して敵は一歩も動いていない。防御の為に伸びた肉壁を何とか掻い潜り敵の目の前まで飛んだ刃が網のようなものに引っかかって止められる。敵の両腕が蔦の束へと変化しそれを編み込んで作られたお手製の捕縛網だった。


一度冷静になりボックスを展開して空中へ逃げる。自身を囲うようにボックスを展開し星さんに連絡を取り現状を報告する。


『オッケーでーす。敵さんと遭遇したっていうのは子鹿さん達からもう聞いてたから今向かってるとこだよ。だけど何か霧が濃くてさーそのせいでマップも正常に働かないし来た道戻ってるはずなのに何か違う気がするんだよね…。貉っちの方は霧とかマップの異常出てない?貉っちと合流するのちょい遅くなりそうだからピンチのときは二人に言ってログアクトさせて貰ってね!』


連絡を終え視線を上げるとボックスは植物で覆い尽くされ、今にも壊れんばかりにぎちきちと音を立てていた。ボックスを解除しそれらを切り裂き敵との間合いを詰める。敵の体を覆うようにボックスを展開し、それを操作して蔦の範囲外へ出そうと試みたがそれは叶わず不発に終わる。


トレイス操作には三つのタイプがある。一つは体格変化系のC:D(能力)に対してトレイスを体に留め筋力等を底上げする方法。二つ目は散々九刀のような物体にトレイスを溜めてそのエネルギーで攻撃する方法。三つ目は任意の場所にトレイスを送りその場所に能力を具現化する方法。


今試したのは三つ目。便利な能力だが一つだけ弱点がある。それはトレイスの進路に障害物があると、それにぶつかって飛散し能力が不発に終わるという点。送るトレイスの進路は操作可能だが、直線で送る方法に比べると複雑な上に追加のトレイスも必要とするため直線で送るのが基本。


さっきは敵の前に無数に立ちはだかる蔦によって飛散してしまい能力が発動しなかった。しかし敵は不気味なまでに決定的な攻撃を仕掛けてこない。まるで僕の力を試しているような…僕の考えすぎか?


「君は静かに話を聞いてくれないんだね。えっと…そうそう、"何故壊変を続けるか"っていう質問だったよね。そこがよく分からなくなってきたんだよ。さっきも言ったけどこの疑問はあの人に対する不信感とかでは無くて何かこう…うまく言えないけど僕にはやらなくてはいけない何かがあった気がするんだよ。その答えを探すために僕は壊変をしている。きっとそこに答えがあるはずなんだ。」


忽撫(くつな)は話を終えると吸い終わった煙草を指で宙に弾いた。腕から伸びた蔦がそれを掴むと呑み込むように取り込む。話をしていた時の表情とそこまで変わっていないはずだが、その瞳には覚悟の色が燃えて揺らめいたように感じた。


「さて、君が答えを持つ者なのか試してみようかな。」



無数の蔦へと変化したその両手が僕に向かって伸びる。慈罰八倒の八つの刃を向かわせるが、撚られた内の数本が切れるだけでその勢いは止まらない。一度引いて態勢を立て直そうとボックスで空に逃げようとするも地面から勢いよく伸びた植物たちが僕を絡め取り逃げようとする僕を離さない。



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