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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"潰れた水芭蕉"
24/64

前後不覚の森

エピソード名"深々と演じる先で"の保全戦闘(レコーディング)を終えてから三週間が経っていた。その時手に入れた新しい時の瓦礫(クロノデブリス)"散々九刀(サンサンクトウ)"のより細かい解析とそれを元にした一握の破片(デブリスコピー)も一通り作り終えたとのことで僕の元へ渡ってきた。


トレイス体の密度を危惧していたがそれも杞憂に終わり問題なく取り込むことが出来るとのことだ。僕はそれを迷わず取り込むと研究所での仮想保全戦闘(オフレコーディング)により一層力を入れて取り組んだ。今日もまた訓練に来ている。仮想保全戦闘を終えヨノマリアさんの総評が入る。


『うーん。時の瓦礫二つと一握の破片一つ入れているから戦闘中にトレイス切れになることが出てきたわね…。どうするかは箱嵜ちゃんに任せるけれど、元から使っている借火尽鬼(シャッカジンギ)と新たに入れた散々九刀は役割も被っているし使い慣れてきたとはいえ借火尽鬼を無理に使い続ける必要は無いのよ?これから強くなっていく中で能力の取捨選択というのも正暦保全者(レコーダー)にとって必要なスキルになってくるわ。凝り固まらずに柔軟な考えを持ちなさいね。』



「…ざ…き……ん。はこ嵜…君。私の声が聞こえているのかしら?」


握りしめていた昨日の記憶を手放して我に返る。今日は二度目の保全戦闘(実戦)のため、星さんと一緒に正暦保全協会(レコードホルダー)に来ていた。目の前には九麓聡さんともうひとり、見慣れない女性が立って僕等を見ていた。


「この子がこれから貴方の担当正暦修正者(リーダー)になる千鶴万梨(ちづるまり)さんよ。私が付いて教育していたとはいえ今回が初の実戦になるわ。受け答えで不備があるかもしれないけれどそこは私がカバーするから安心してちょうだい。千鶴さんも分からない点があれば何でも聞いてちょうだいね?」


「は、はじめまして!星鐵福楽さんと…箱嵜貉さん…ですよね?九麓聡先輩から紹介があった通り新人正暦修正者の千鶴万理といいます!素体もトレイス体も21歳です!これからよろしくおねがいします!」


見てるこちらまで手に汗が滲むような溢れる緊張が隠しきれない自己紹介を見ているといつかの自分のように見えて心が靄々(もやもや)した…。九麓聡さんはデスクのパネルを叩いてウインドウを見せる。


「今回の場所は800年代の富山の山中よ。遭難した人間を仲間が救いに来たっていう場面のようだけど草木が深く覆い茂っているせいで、それが要保護記録者(ポインター)痕跡索(トレイサーズ)反応と重なって解析がどうしても遅れるわ。


現状協会側に二つの游咏魚(レコード)があるけれどその時も解析が遅れて敵に奪われる寸前までいった過去がある。今回の壊変者(エングレイバー)は今の所一人みたいだけど余程強いのかそれとも玉砕覚悟の捨て駒なのかは分からない。可能なら分担して要保護記録者の探索も進めてくれると助かるわ。」


いつも通り移動卵殻(ヘッドシェル)へ乗り込み游咏魚の水槽(レコードボックス)へと着く。


正暦分岐点(ターニングポイント)0864.05.16

エピソード名"潰れた水芭蕉"

レコードボックス内痕跡索(トレイサーズ)解析中…解析完了

識別番号(ウェイブコード)btr:442969、btr:8539647確認

正暦保全者(レコーダー)二名転送開始』



送り出された場所は木々が鬱蒼と茂る森の中。富山県南砺市に位置するこの"水無湿原"が今回の戦いの舞台。遠くの方で微かに誰かを呼ぶ声が響いている。


「話には聞いてたけどこんなに森森してるとはね…。要保護記録者(ポインター)を見つけるのも骨が折れそうだね。僕は要保護記録者を探すから貉っちは壊変者(エングレイバー)をお願い。見つけたら連絡してね。戦えそうならそのまま戦闘に入っていいよ。ピンチになったときはまず連絡でよろしくね!」


星さんはそう言うと深い森の中へと吸い込まれるように消えていく。遠くで響く声さえも呑み込みそうな鬱蒼とした木々。次第に霧が出始め森が更にその深みを増していく。


「漸くふたりきりになれたね。」



近くの木陰から姿を見せた声。殺気こそ感じられないもののそれが敵であることは明白だった。その名を呼びワンダースクエアボックスと散々九刀(サンサンクトウ)を発動させ攻撃に備える。少しだけ晴れた霧の中からその男の人は現れた。


黒の短髪を後ろへかき上げながら近付いてくるその人。その細く綺麗な指に挟まれた煙草の煙が霧と混じって空間をじわりと白濁させていく。僕の目を見て小さく笑うと続けて呟く。


「おいおいそんなに警戒しないでくれよ。周りを見渡さなくてもここへ来たのは僕一人だし、不意討ちなんてしたりしないよ。それとも煙草が嫌だったのかな?悪いけどこればっかりは許してくれよ。」


男は煙を深く吐くと一息置いて話しだした。


「僕は忽撫凪幸(くつななぎさ)。お察しの通り壊変者(エングレイバー)だよ。正暦保全者(レコーダー)の君と少しだけ話をしたくて待ってたんだ。君は二つの游咏魚(レコード)を持つ相手との争奪戦に送り出される壊変者が何と言われて送り出されるか知っているかい?


"貴様の命がどうなろうと構わない。差し違えてでも敵を始末しろ。"


そんな言葉を掛けられて僕は今ここに立っている。僕にもなんだか良く分からなくなってきてね。自分がどこにいて何をするべきが正解なのか。その答えを僕に教えておくれよ。」


散々九刀がカッターの刃のようにぱきりと均等に九つに折れそのうちの一枚が粉々に砕ける。残り八枚の折れた刃が1mほどの空間を空け一直線上に並んだそれで周囲を薙ぎ払うと僕たちを取り囲んでいた植物は一様に崩れ視界が開けた。


散々九刀は分裂する刃を自在に操る能力を持つ。縦横無尽に駆け回らせることも可能だが、一直線上に並べた場合のみ今のようにその間の空間にも斬撃の効果が付与される。


この刃は砕くことで残りの刃の切れ味と強度が上がる仕組みになっている。九枚ある状態のときは普通の日本刀と同じくらいだ。これまでの仮想保全戦闘で偶然砕けたことが一度、模擬戦闘でルルさんに砕かれたことが一度の計二度しかない。


分裂した刃にはそれぞれ名前のような物が刻まれていて、剣先に一番近い刃の名前がこの刀の名前となる。さっき"散々九刀"を砕いたから今は"慈罰八倒(イチバツバットウ)"がこの刀の名前。


先の一撃が当たったのか敵の右脚が千切れて無くなっていた。それを補うかのように傷口から絡み合う蔦が生えて植物で象られた義足を形成した。


【曲名】

散々九刀(サンサンクトウ)

【創造地点】現位置換算済

正暦分岐点 1998.12.23

ロシア連邦 レニングラード州 サンクトペテルブルク "マリインスキー劇場"

エピソード名 "深々と演じる先で"

【所有者】

箱嵜貉

【効果】

最大九つまで分裂し、刃に込めたトレイスが尽きるまで各個操作可能なカッターに似た刃を持つ刀を具現化する。刃の全長は99cmで分裂した状態では一枚11cm。分裂した刃自体に名前が存在し、鍔から剣先の順で以下の名前が刻まれている。

一縷破杓(イチルハジャク) 二天断黔(ニテンダンゲン) 御芫参天(ミゲンサンテン) 四荒子鴉(シコウコガラス) 五蘊護常(ゴウンモリツネ)

卜空六菖(トカラロクショウ) 継七変化(ツガレシチカゲ) 慈罰八倒(イチバツバットウ) 散々九刀(サンサンクトウ)

柄から伸びる一直線上に刃が並んだ時のみ刃と刃の間に継刃(ツギバ)と呼ばれる斬撃判定を持つ刃を具現化し刃長を伸ばすことができる。刃が持つ継刃の長さはそれぞれ異なり、その刀身に刻まれた数字に0.3を掛けたものがその数値となる。(一縷破杓であれば0.3m。継刃の長さは最大値以下であれば調整可能で、それぞれを最大まで伸ばした際の刃長は11.8m)

延長した状態の刀で複数の敵がそれを受け止めた場合、相手が受ける圧しの強さは、能力発動者が加えた力を受け手の数で割った数ではなく加えた力がそのまま一人一人に与えられる。そのため、受けた刀を跳ね返すには刀を受けている総数の半数以上がそれを押し返すに足る力を加えなければならない。(そのうちの一人がそれに足る力を加えた場合はその限りではない)

敵・味方問わず、刃が砕ける度に残った刃の切れ味と硬度が上昇する。(具現化した状態の刀の強度は一般的な日本刀と同程度)刀身に刻まれた名前に含まれる数字が大きい順に砕けていくが、敵の攻撃により数が小さい刃が砕けた場合はその時点で保有する数字の数が一番大きい刃に刻まれた名前が、砕けた刃の名前へと変化しそれに充てられる。

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