未壊楽者と見送る僕等
星さんから敵を仕留める旨の目線が送られる。しかしそれは敵の声によって一時中断となる。
「私はまだやれます!"オーバーグレイブ"無しでも私は…。嫌だ…もうやめてくれ。これ以上私の心に傷を付けるのは…。耐えられない。私はあれに応えて来たはずなのに…。嫌だ…戻りたくない!」
取り乱した敵の叫び声と共にその身体が消えていく。その様子から時の瓦礫などの能力ではなく記録からの離脱だと見て取れた。助けを求める声のようにも受け取れる叫び声が途切れその姿も完全に消え去って穴の空いた劇場内に静けさが灯る。
天井から落ちてきた時の瓦礫が床に当たると、円を描くように転がってぱたりと倒れた。天井の穴から舞い降りた雪が頬に付き昂った感情を優しく冷やす。僕の複雑に折り重なった心境を察したのか星さんが静寂を破る。
「たまに現れるんだよね。彼のような非好戦的な壊変者。敵さんは未壊落者なんて呼んでるみたいだけど…敵さんには敵さんの事情があるんだろうね。」
「壊変者が敵だということは理解しています。倒さなければならない相手だと…。だけど何とかならないんでしょうか?障害となる敵は全て取り除く。それが正しい選択なんですかね…?」
「そうだね。僕だって彼らも救えたらなんて思うよ…でもね。力の無い今の弱い僕達に出来ることは悲しい顔を浮かべる彼らを見送ることくらいしかないんだよ。いつか彼らと手を取り合って笑いあえる未来のために僕らは正暦保全者になった。そうでしょ?答えは戦いながら見つけていくしかないんじゃないかな。
……なーんて僕らしくないポエミーな部分出してみましたー!恥ずかしいからさっきのは心の引き出しの裏にでも貼り付けといてね。」
表情を替え明るくそう言うと赤と白のカプセルを呑みながら僕の身体をぐるりと回し何かを確認している。
「貉っちの傷は背中…だけ…かな?この程度なら医療班の子達でも治せるだろうけど…せっかくだし僕の"超法規的処方薬”試してみる?」
その手には歯を打ち鳴らし歯軋りをする赤と白のカプセルが蠢いていた。躊躇う僕をよそに無理やり口の中へ押し込む星さん。体内を生物が動き回る様なこれまで経験したことが無い異様な感覚に嫌悪感が嗚咽となって口から漏れる。呑んだのは容量範囲内の一錠だけだけど、傷だけではなく異常の無い体内の肉を齧られているような気がする。
「それじゃ僕の左腕も生えたし貉っちも全快したし早いとこ要保護記録者を見つけに行こっか。一握の破片を使われた記録の住人も残ってることだしね。」
『二人共、時の瓦礫の解析が完了したよ。曲名は"散々九刀"。効果は刃を細かく切り離して操ることが出来る刀を具現化するというもの。箱嵜くんに使うのはちょっと待ってくれ。性能を精査後、一握の破片の製造などの件も含めて判断するよ。』
『操られた記録の住人がすぐそこまで来てるわ。最後まで気を緩めずにお願いね。』
「よーし!お腹も空いてきたことだしササッと片付けて食堂行こー!」
劇場の入口から現れる人影。僕と星さんは能力を発動させそれを迎え討った。
保全記録報告書
Ⅰ.保全戦闘日
正暦■■年■■月■■日
Ⅱ.エピソード名
・深々と演じる先で
保有游咏魚数:二体
Ⅲ.保全戦闘参加者
・正暦保全者
星鐵福楽
箱嵜貉
・正暦修復者
九麓聡小鹿
秋瓜甚兵衛
計四名
Ⅳ.外部侵入者
・壊変者
クロエ・ガゼルゴール
バルドゥーヤ・ドープ
計二名
Ⅴ.保全戦闘概要
游咏魚侵入後、正暦分岐地点付近にて敵二名と遭遇・そのまま戦闘へ移行。戦闘により敵二名のトレイス体が維持上限超過のため両名死亡。死後、時の瓦礫への変転を確認・回収。
戦闘後、要保護記録者ライザ・バラバノヴァと接触・保護。
戦闘に使用した痕跡生物及び一握の破片は全て回収済み。
(戦闘記録添付済み)
Ⅵ.損壊範囲
・人的損壊
負傷者一名(軽度な脳震盪):治療済み
・物的損壊
正暦分岐点を中心に軽微な損壊有り
Ⅶ.回収物品
時の瓦礫二枚
内一枚解析済み(保管箱添付済み)
他一枚解析待ち




