保全記録"星鐵福楽"
『星くん。このまま彼を戦わせて大丈夫そうかい?要保護記録者の捕捉は完了済み。操られた記録の住人に捕えられてそこに向かっているみたいだけど…。厳しいなら代わりの人間を送るけどどうする?』
『壊変者はその二人だけで新たな刺客が侵入した形跡はないにしても本当に彼を守り切れるんでしょうね?もしロストさせたらどうなるか分かってるのかしら?』
脳内に秋瓜さんと九麓聡さんの指示が飛ぶ。
(お二人共分かってますって!貉っちはそこまでヤワじゃないし要保護記録者もきっちり保護しますからー!)
通信を終え目の前の敵に集中する。よーし。死神は貉っちに任せて僕は本体を叩きますか。おっとその前に彼を処理しないとね。背後に感じる死神の気配。やっぱりこっちに来るよね。でも…。金属がぶつかるような音が響くとその気配は消えた。
うん。死神は何とかしてくれると思ったけど本体の方にも攻撃するなんて貉っち思ったよりやるね。
眼前に立ちはだかる壊変者の他に弱々しいなけなしの敵意を向けて立ち上がるもう一つの影。貉っちがボックスで固定した腕を漸く解いて拘束能力を持つ手錠をこちらに放っていた。
床に散らばる残りの星をそれに当てると二つに弾けてその内の一つに鉄球が取り付けられる。捕らわれなかった数個の流れ星が彼の死角から顎を打ち上げ意識を奪う。頑張って起き上がった早々ごめんね。貉っちの経験のために彼に任せてたけど君の能力程度僕だけでどうとでもなるんだよね。気掛かりだった問題を解決し本題へと向き合う。
床に散らばる全ての星屑達を敵に向けて放つ。それを見た敵はデスサイズを手から離しこちらへ向けて投げ放った。無数の流れ星の中央をデスサイズを砕かんと朝露星が走る。しかしその二つがぶつかることは無く"死神に攻撃したときみたいに"さらりとすれ違うと、デスサイズは僕目掛けて一目散に飛んできた。既のところで何とか躱すと弧を描いて所有者の元へと戻っていく。
星屑達が襲ったはずのガゼルゴールは何事もなかったかのようにそこに立って攻撃の機会を伺っていた。もう一度星屑で仕掛けるも避ける素振りを見せることもない。鈍い金属音が鳴るだけでその身体に傷が付くことはなかった。
「正暦保全者如きが私に傷の一つでも与えられると思ったか?」
再度放たれる大鎌。先と同じように朝露星で破壊を仕掛けるも再度すれ違い僕の頬に一筋の傷を付けて戻っていく。あの死神とは逆に霊体と実体切り替え可能な大鎌と実体のある身体。実体があるだけなら簡単なのに星屑達じゃ傷一つ付けられない堅固な肉体を持ち合わせてるって訳ね…。鎌の方を捕えるのは厳しそうだから本体をどうにかするしか無いか。
敵との間合いを詰め朝露星で本体を狙うも、放たれた大鎌の刃が左腕を刈り取って後方へと去っていく。
「腕一本で倒せるなら安いもんだよ。」
渾身の力を込めて放った朝露星は慈悲も与えず敵の身体を打ち砕いた。
「聞く耳さえ持っていないようだからもう一度だけ言ってやろう。貴様如きが私に傷を付けることなど未来永劫ありはしない。」
ガゼルゴールに衝突した朝露星が大きな音を立てて床へと落ちる。打ち砕いたと確信したはずの敵の身体を見ると砕くどころか傷一つ付かず悠然と立っていた。
「朝露星が直撃して傷一つ付かないなんて困ったな…。そんな相手これまで戦った壊変者でたった二人だけだよ。これは勝てないかもね……。今までの僕ならね。」
床に転がる星屑を覆う黒い殻が剥げて中の虹色に煌めく核が露わになり朝露星の棘付き鉄球に張り付いていく。やがて全てが一つとなり虹色に輝く鉄球となったそれを敵へ向けて放つ。
「裏面解錠 "破壊衝動叶星"」
裏面解錠。それは時の瓦礫の裏側に隠されたもう一つの力。発現条件など不明な部分も多いその技を発動出来る人は正暦保全者の中でも数えるほどしかいない。多量のトレイスを消費して発動するその技は、元の能力の効果から大きく外れているものもあれば朝露星のように元の能力を底上げするものもある。
自らに差し迫る虹色鉄球の威力を理解した敵は、デスサイズを操るために送っていたトレイスを身を守ること一点に集中させ受け止めて何とかその場で足を踏ん張らせている。しかし次第に壁際へ追いやられ朝露星の棘が全身へと深く潜り込んでいく。
壁と朝露星に挟まれるような形で動かなくなった敵。見上げると貉っちが死神と剣の競り合いになっている。でも次第に押し負けて鎌の切っ先が背中に刺さり始めていた。助けに行くか…。
「これくらいで買った気になるなよ正暦保全者如きが…。」
その身をくねらせ何とか這いずり出ようと藻掻く敵。
「ごめんね。もう楽になりなよ。」
トレイスを追加し再度棘を深く差し込み壁沿いに天井へ打ち上げる。朝露星は四階分あるバルコニー席を下から打ち壊し劇場の天井を突き破って空へ流れた。
空いた天井に朝焼けの景色が映し出される。色んな所壊しちゃって正暦修復者の人に怒られるからあんまり使いたくなかったんだよなこの技…。しかも今回はよりによって九麓聡さんだしな…。
上階から落ちてきた貉っちを豊満なボディでキャッチする。
「貉っちナイスー。傷は…まぁ僕に比べれば大したことないから実質無傷だね!あと残ったのは…。」
意識を取り戻し虚ろな目でこちらを見据える連れの男。手錠を放つも貉っちのボックスと星屑達によって役目を果たすことは叶わない。本体を攻撃するが揺らめいて床に膝を付いては亡者のようにふらふらと立ち上がる。
「…オー…グ……い…だ…」
何かをボソボソと呟いているが声が小さく良く聞き取れない。伏し目がちに再度手錠を放つがこれ迄の直線的な動きと異なり四方から回り込み私達を狙う。
しかし今となっては奇襲性も何もない恐れるに足らない能力。貉っちと目を合わせ次で終わらせることを確認する。
■時の瓦礫の保管箱
【曲名】
虚像拡張投影機
【創造地点】現位置換算処理済
正暦分岐点 1947.06.25
インドネシア バリ州 デンパサル "ヴァジュラ・サンディ"
エピソード名 "木陰で動かぬ待ち人ひとり"
【所有者】
クロエ・ガゼルゴール
【効果】
自身の体が硬質化すると共に任意のタイミングで霊体と実体の切り替えが可能なデスサイズを具現化する。デスサイズはトレイスを追加することで操作可能。実体を持たない死神を具現化することも可能だが、その死神が持つデスサイズを破壊されると一定時間能力が使用不可能となる。(能力使用者が所持しているデスサイズも同様。)
死神を一度消した後に再度召喚する場合は多量のトレイスを消費する。
【曲名】
朝露星
【創造地点】現位置換算処理済
正暦分岐点 1923.09.03
日本 長野県 北安曇郡 小谷村 "千國家"
エピソード名 "お待ちになって"
【所有者】
星鐵福楽
【効果】
モーニングスター型の武器を具現化する。トレイスを追加することで棘付き鉄球を操作可能。鉄球の大きさは変えることは不可能だが棘のみであれば可能。攻撃した際一定の衝撃を感知すると別個操作可能な星屑を作り出す。
裏面解錠 "破壊衝動叶星"
時間経過と共に黒い殻を破り虹色に光る星屑が朝露星本体に付着し、攻撃力と速力が大幅に増大する。




