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正暦保全者  作者: あまみ
エピソード名"深々と演じる先で"
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原点へ

「貉っちはあの死神の方お願いね。手足はあるけど攻撃出来るのはあの鎌だけみたいだしそれだけ注意してれば大丈夫よー。」


そう言うと朝露星と黒い殻を纏った星屑達をガゼルゴールへと向けて放つ。


僕も宙に浮く死神に向けて借火尽鬼の炎刃を放つが僕よりも星さんの方が危険度が高いと判断したのか、死神は姿を消すと星さんの背後に現れその背中をデスサイズで狙っていた。


手に握られた鎌と死神の本体であるガゼルゴールに向けて炎刃をニ閃放つ。手に持ったデスサイズでその二つとも軽く弾かれてしまったが、星さんとの戦闘の最中に気を取られては厄介だと判断したらしく再び死神をこちらへよこした。



壁沿いに舞台の端から端まで設けられた迫り出しの客席。四階席まである絢爛な劇場内の(そら)を、天井から釣られ客席を舞う役者の如く死神が飛び回る。天井に描かれている天使達が手を取り合い輪を成している絵画と死神が重なって歪な情景が視界に映り込む。こちらの様子を窺うように飛び回るだけでその鎌で攻撃を仕掛けてくる様子は無い。


それを見上げていた僕の背後を鈍痛が襲う。振り返ると床から切り離された客席が黒い輪郭を携え宙に浮かんでいる。しかも浮いていたのはその一つだけではなく気付いたときには周囲を空の客席にぐるっと取り囲まれていた。襲いかかる客席をボックスを展開させながら何とか躱しながらそれらと死神の姿を再度確認する。よく見ると椅子には黒い布切れの様なものが挟まっていて、死神を見上げるとその身に纏ったローブが裾の方からボロボロと崩れ舞い落ちていた。


ポルターガイスト現象のような特殊能力も併せ持つのか…。一つ一つの威力は大したことはないが態勢を崩されることと何よりその量が問題。椅子で抑え込まれたところをデスサイズで攻撃されてはこちら側が圧倒的に不利。宙から引き釣り下ろそうと鎌を目掛けて借火尽鬼(シャッカジンギ)の炎刃を放つも、大きく取られた間合いのせいで鎌を狙った刃は躱され身体をすり抜けると天井の絵画を傷付けるだけに終わる。


一度に放つ事が出来る炎刃は二太刀分。それ以上は振りが浅くてまともな攻撃にはならない。だけどそれでは当たる確率があまりにも低い。思考を切り替え基本に立ち返り具現化させたボックスでデスサイズを捕えてその場に固定させる。


新たに展開したボックスと迫る椅子を足場にしながら上階へと駆け上がる。死神を眼前に捉えた僕を撃ち落とそうと左右から椅子が迫る。それを左から右へ円へ描くように切り落とし、一回転した太刀筋の勢いそのままに滝を駆け上がる龍の如く借火尽鬼を天井へ振り上げた。


しかし固定されたデスサイズを外そうと足掻いていた死神の姿は鎌もろとも消えさりその渾身の一太刀は空を切る。思わず態勢を崩した僕は四方から飛来した椅子によって床へと叩き付けられた。


見上げた先には命を刈り取る神の姿があった。私を引き付け攻撃するためにギリギリまで姿を消さなかったのか?いや、わざわざ引き付けた上で攻撃しなくてもポルターガイストで捕えたところを降りてきて攻撃すればいいだけのこと。


死神を再度具現化する時のトレイス消費を嫌ってあのボックスから自力でデスサイズを取り出そうとした?しかしそれが叶わなかったから仕方無く一度消滅させて再度具現化させた。その仮説の方が辻褄が合う部分が多い。


再度あの高みへと登っていく。先程の倍のボックスを展開するが、床の上と違い全方位から集まる椅子によって意識が余計に散らされる上に進路に制限がかけられる。


隙を見てはボックスをデスサイズへ向けて展開する。先程と違い力を少し加えれば壊すことが可能な絶妙なラインに触れるように強度を落として作られたボックス。素早く飛び回っている死神の行動がボックスからデスサイズを取り外すその一瞬だけ制限されることを確認する。


足場のボックスを蹴り上げ動きの止まった死神を完全に捉え僕ら二人だけを囲むボックスを12個重ねて作り出す。しかしその直前背中に掠った椅子によって僅かに態勢を崩す。


少しだけ太刀筋がぶれた借火尽鬼(シャッカジンギ)とボックスから外したデスサイズによる剣戟の火花が半透明の密室内に散る。最初こそ拮抗していたが態勢を崩したせいで少しだけ太刀筋がぶれた僕の方が徐々に押し負け鎌の先が背中に突き刺さっていく。背から滴り落ちる血が汚れのない箱を赤く汚していく。外では何脚もの椅子達が中へ入ろうとボックスを打ち付けている。


下の方から爛々と輝く虹色の光が放たれるのを視界の端で感じるが、星さんの方がどうなっているかを確認することも叶わない現状。いや、僕に与えられた役目は目の前の死神()を倒すことそれのみ。これを倒さずして他人の心配など今の僕には無意味な悩み事。だけど今の僕は敵の刃を跳ね返すほどの力も持ち合わせていないしこの攻撃を躱した後に横方向から一撃を加えて倒すといったことも恐らく不可能。


ヨノマリアさんに教えてもらった言葉を思い出す。


『壁に当たったときこそ原点へ立ち返る』


そうだ。与えられた武器で戦うしかない。借火尽鬼の峰に現れる5cm角のボックス。トレイスを送り込むとその背を押しデスサイズを圧し戻す。死神も負けじと力を込めると再度押し負け、鋒が背中に傷痕を深く刻み込んでいく。僕らを囲っているボックスにひびが入り始めている。


峰に具現化させた24個のボックス。動かすために追加で送り込むトレイスの量を考えるとこれが今の限界。峰に当てられたその背を押す計36個の箱は、これ以上の反撃を許さないという意思()と成って大鎌を圧し戻すと、ひび割れた密室を突き破って四階の客席へと本体(死神)諸共撃ち払った。


ボックスを叩いていた椅子が意識を失ったかのように一斉に床へと落ちていく。疲労という重りを付けられた僕の体も自らの意志とは別に彼らの後をゆっくりと追った。



天井を見上げながら落ち行く視界の端で下から空へと昇っていく綺羅びやかで攻撃的な流れ星が見えた。



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