朝露星
操られた記録の住人が消えたことを確認するとガゼルゴールの手にデスサイズが現れる。高く掲げ袖が下がり露見した腕には痣のような呪詛のようなものが刻まれていた。
「見えるか正暦保全者共。私に刻まれたこの文字はこれ迄に私が壊変した分岐点の日付と葬った正暦保全者の識別番号だ。なに恐れることはない。直ぐに貴様らの名前も刻んでやるよ。」
「"虚像拡張投影機"」
隣の男が手錠を放つと女の背後に3mはありそうな死神が出現する。その手には女が持つデスサイズよりも遥かに巨大な鎌が握られていた。ガゼルゴールの振りに合わせてその死神もデスサイズを構える。
「死神らしく奪った命を忘れないために名前を刻むのは関心だね。でも奪った命の数を誇るのは弱い奴のすることだよ。」
「"朝露星"」
星さんの手に握られたモーニングスター。柄から伸びるチェーンの先に繋がれた棘付き鉄球の大きさは1m程。それを勢い良く振ると死神目掛けて一直線に空を走る。
「貉っちはそっちの手錠くんの攻撃をどうにかしてちょ。僕の能力とは相性悪そうだし。」
ボックスを展開し放たれた手錠を防ぐ。再度放とうとする敵の腕を狙いボックスを作り出すと、ボクシンググローブのように取り付けられたボックスの中で僕に向けて放とうとした手錠の能力が発動し、男は地面へと叩き付けられた。その衝撃と手に固定したボックスのせいで身動きを取れずにいる。
視線を星さんに戻すと放たれた鉄球は死神の持つ大鎌に跳ね返されていた。砕けるように弾けた何かが地面に転がる。しかしその鉄球は意思を持っているかのように空中で向きを変えると死神の胴を砕こうとその腹目掛けて勢い良くぶつかった。
「あーそういうタイプねー。」
攻撃を正面から受けたはずの死神は何事も無かったかのように鎌を振り上げ星さんの命を狙う。引っ張り上げた朝露星の鉄球が何とか鎌を弾くも、その間に距離を詰めていたガゼルゴールの鎌が追撃をかける。
僕も助けに入ろうとボックスを展開して星さんへの攻撃を防ごうとするが一枚の紙切れのごとく滑らかに切り裂かれその刃が星さんを襲う。しかしそこに姿はなく宙へと飛んだ星さんが朝露星で敵を狙っていた。攻撃を放つよりも僅かコンマ数秒前。宙に浮いた星さんの背後に死神の影が現れる。背後から振り切られたデスサイズは左腕を刈り取るとその断面から吹き出た血を纏って妖しく色付く。
借火尽鬼で炎の刃を放つと、死神とガゼルゴールが一度引いて間合いが開く。だけといつまた攻撃を仕掛けてきてもおかしくない。星さんは湿布のようなものを取り出し傷口に貼ると、滝のように溢れていた血はぴたりと止まった。
「マリアっちから止血剤貰っといて良かったー。それにしてもあの能力…。死神は鎌以外実体無いし本体との連動制限も無いし自在に出したり消したり出来るし…。
貉っち。単純な身体強化とかそれみたいに炎が出る刀を具現化するみたいな単純で分かりやすい能力以外にもこういう搦め手系の能力もあるから注意しなよ。貉っち気にかけすぎてめっちゃ攻撃食らっちゃったよ。まぁ僕には関係ないけどさ。」
またも背後から死神が現れ星さんの右足を一瞬のうちに刈り取る。
「リリーや留みたいに強くないよって言ったけどあれちょっぴり嘘。サポート力だけで言えば二人よりちょっとだけ上だよ。」
「"超法規的処方薬" "外傷治療薬"」
「朝露星 "宵冥星"」
声と共に掌に乗るほどの大振りなカプセルが現れる。赤と白で色分けされたそのカプセルの真ん中が開くと牙が生え生物のように歯軋りをしていた。星さんはそれを呑み込むとたちどころに欠損していた左腕と右脚が再生し、感触を確かめるかのように伸び縮みさせていた。この記憶に潜る前のことを思い出す。
『僕の時の瓦礫は"超法規的処方薬"っていって、簡単に言うとそれを呑むとどんな傷でも瞬時に治す薬を作る能力だよ。一日に作れる数も限られてるし具現化したら3分で消えちゃうから今は見せられないけどピンチになったら僕に言ってよね。手足も首もちょん切られても最悪薬を飲むための口が残ってれば大丈夫だからさ。能力には二つあって赤と白のやつが外傷を治す薬。青と白の方が内傷を治す薬だよ。失血とか毒とかも治せるから覚えておいてちょ。
それぞれ一日三錠まで作れるけど服用していいのは一日ニ錠まで。容量を破って飲むとその子達たちが貉っちの怪我だけじゃなくてトレイス体まで食べ始めちゃうからね。誰に似たんだか食いしん坊で困っちゃうよ…。まぁ見れば言ってる意味が分かるよ。』
その言葉の意味を理解する。攻撃するたびに地面に溢れていた黒い欠片のようなものが振り上げられた朝露星を追うように宙に舞う。その子達は僅かにひび割れていてその黒の隙間から虹色を覗かせた。
銀河を彷彿とさせるように星さんを中心にぐるぐると渦を巻く黒星達の姿は、保全戦闘の地点であるこのマリインスキー劇場という場所も相まってさながら舞台上の絢爛な舞台装置のようだった。戦っている場所は客席ではあるが…。
■時の瓦礫の保管箱
【曲名】
超法規的処方薬
【創造地点】現位置換算処理済
正暦分岐点 1477.11.26
ジンバブエ ミッドランズ州 "クウェクウェ "
エピソード名 "草木萎れて血に濡れて"
【所有者】
星鐵福楽
【効果】
負傷部位を治療するカプセル型の生物を具現化する。具現化後三分経つと消滅する。自身で服用するためであれば何度でも具現化可能だが、他の誰かに処方する場合は一日に計三錠しか作ることができない。二錠までであれば服用してもデメリットは無いが三錠目を服用すると負傷した部位以外にトレイス体を捕食し始める。
"外傷治療薬"
赤と白のカラーリングの治療生物を具現化する。外科で対応する負傷は全て治療可能。
"内傷治療薬"
青と白のカラーリングの治療生物を具現化する。内科で対応する不具合は全て治療可能。
【曲名】
咎人食堂監獄店
【創造地点】現位置換算処理済
正暦分岐点 1989.06.14
アメリカ合衆国 カリフォルニア州 サンフランシスコ湾 "アルカトラズ刑務所"
エピソード名 "鉄格子を齧る海鳥"
【所有者】
フレモント・ストラウド
【効果】
何かに触れるとその片側が鉄球へと変化する手錠型の拘束具が両腕に具現化する。拘束具はトレイスを追加で使用することで操作可能だが、投擲後に多少角度を変える程度しか動かすことはできない。
■一握の破片の保管箱
【曲名】
合法治験薬
【創造地点】現位置換算処理済
正暦分岐点 1477.11.26
ジンバブエ ミッドランズ州 "クウェクウェ "
エピソード名 "草木萎れて血に濡れて"
(原本・超法規的処方薬から引用)
【所有者】
────
【効果】
治療能力。応急処置程度の回復効果が得られるが、傷が完治するまで痛みは倍増して残り続ける。完治の判定は自然回復、能力による治療どちらでも対応している。
【元本】
曲名・超法規的処方薬
所有者・星鐵福楽




