一難去って、平凡王を待ち受けるは…
俺は油断していた。
その一言に尽きるのだろうな、この現状は…
まさか、こんな事態になろうとは…
こうならないように、日夜気にかけてきたというのに…
…なんと不甲斐ない…
…
しかし、嘆いたところで状況は変わらん。
もちろん、理由はある…
精霊の愛子に加え、聖堂教会…
女狐一堂…
…さらにはミランダとのいざこざ…
平凡である俺には、これらの対処で手一杯…
他に気を回す余裕なんぞなかった…
…
…
しかし…
しかしだ。
それでも気にかけておく必要があったのだっ…!
そうであれば、“このような事態”にはッ…
悔やんでも悔やみきれんッ…
過去は変えられないというのにッ…
…ぁぁ…
…あぁ…何故ッ…
…何故こんなッ…
「“机3つ分の書類が溜まっておるのだッ!!?”」
思わず怒鳴り声をあげてしまう。
「……っ…」
何も言わないが、同じく目のハイライトを消して絶句しているミランダ。
その心中に渦巻く絶望の度合いは、他者からでは把握できないだろう…
俺ですら、叫ばずにはいられなかったのだ…
何故なら、最近まともな量に戻したばかりだったのだからっ…
「……す…凄まじい量…」
ルキアーナの従者であるマーレは、その書類の束の多さに驚……いや、盛大にひいていた。
「ふっ……ま…マーレよっ……これが王の責務というやつ…だ…」
「いやいやいやいやッ、こんなの普通じゃありませんよルドラ王っ!?。何か国の一大事とかッ…!」
「いや…残念ながら平常運転なのだ…これが…」
「ぇ…ぇえぇっ…!?」
「…あー……人手不足は相変わらずですか…」
ルキアーナがこの惨状を見て、納得したように呟く。
此奴はあの“暗黒時代”の様子を知っているからな…
納得して当然と言えば当然か…
「…ぁぁ…残念ながらその通りだ……」
「…よくもまぁ…妥協案で屈しないのがあなたらしくはありますが…」
「ぬかせ、妥協案で屈して良い案件ではないわっ……故意でなくとも、漏れてはまずい情報はある……そう簡単に、リスクがある選択を選ぶことなぞできん」
「…と…という事は……毎回お二人でこの量を…?」
「…ふっ、何を言う……当たり前ではないか………はぁ…」
「…ぁ…ぁはははっ…ははっ…」
マーレから乾いた笑いしか出ないのが心にくるが…
…とにかく減らさねば…
「……はぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「…お手伝いいたましょうか?」
「ん…いや、必要はない…そもそも、これはこちら側の問題だからな…」
「…ですが、人手が多い方が良いのでは?。もしや、私が機密情報を盗むなどお考えで?」
「馬鹿を言うでない。其方がそんな事をしないのは百も承知だ」
正直、聖堂教会側の存在だから触らせたくない気持ちも多少はあるが…
此奴自身が“そういった事を嫌っている”事は百も承知だ。
それに、神々の代行者という神に愛された聖女が、所属する組織のため…もしくは個人の為にそんな事をすればどうなるか…考えるまでもない。
神は聖堂教会という組織の……人間の“味方”ではないのだからな…
「…でしたら…」
「……信頼はしているが…事が起こった際、どうしても疑われるであろう…それがわからぬ其方ではあるまい?」
「…それは…」
「聖堂教会に身を置く其方が、さらにリスクを背負う必要はない…それだけだ………話はここまで、其方達は其方達で自由に動いてくれて良い…緊急事態の場合は呼び出すかもしれんが……」
「はい、承知しております。その為に、私は此処にいますので」
「…まぁ…起こらんのが一番なんだがな……では、ゆっくり楽しんでくれ。おい、ミランダ…現実逃避したい気持ちはわかるが仕事だ」
それだけ言うと、俺はルキアーナ達から離れ、未だ放心状態のミランダの元に向かった。
…
…やはり、英気を養う為に…ミランダには休養してもらうべきなんだが………検討しよ…
「…」
「…ルキアーナ様?」
何処か…羨ましそうに眺めるルキアーナに、マーレは話しかける。
「………いえ、何でもありません」
彼女はそれだけ言うと、何も言わずにその場を後にした。
…
かつて、“あの隣”にいたのは自分で…
何処かの選択が違えば、あそこに居たのは自分なんじゃないかと悔やみながら…




